<祝い>

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名前は揺れる船の上で、あの日のことを思い出していた。空は青く澄み渡り、太陽の光に照らされた水面がキラキラとまぶしいくらいに輝いていた。海の香りがする吹き抜ける風が、とても心地よかった。
あの出発から10年。名前は今日でちょうど20歳の誕生日を迎える。

「ついに大人の女の仲間入りだな。」

後ろから呼ぶ声に名前は振り返る。“おめでとう”そう言いながらその男は名前の横に立ち、肩に手を添えた。

「ありがとう、シャンクス!」

「ちょうど10年前か...。」

そう、彼が島を出たばっかりの私をこの船に乗せてくれた。剣術も教えてくれた。

「いい女になったな。」

そう言ってシャンクスは、風になびく名前のウェーブのかかった髪を触る。いい女になった、という言葉で頬が赤くなった名前は、それを隠すために顔をそらした。

「なぁ...名前。」

「なによ...っ。」

「祝いにキスしてやろうか?」

突然彼から発された言葉に名前は声を失った。この10年ずっと傍にいた。楽しい時は一緒に笑い、辛いときは慰めてくれていた。戦闘の時はずっと守ってくれていた。大きな背を見続けていて、好きにならないはずがなかった。
そんな大好きな彼が、キスしてやろうか?と真剣な顔つきでこちらを見ている。
すっと彼の手が後頭部へ回り、胸元へ引き寄せられたかと思うとすぐ目の前に顔が見えた。名前と囁く声に身体が反応する。吐き出す息を感じる距離に思わず、名前は目をつぶった。

「ん.......っ」

ちゅっと音が聞こえる。彼とならしてもいい、そう思って覚悟していたものの、柔らかい感触を感じたのは唇ではなく首すじだった。

「初めてなんだろう?」

「シャンクス...っ!私は...っ。」

「いつか出会う奴のために取っとけ。」

頭をポンポンと叩かれる。その大きな優しい手に、名前は何も言えなくなってしまった。







コンコン――――ッ。ドアをノックする音が聞こえ、そっとその扉が開く。

「準備はできたか?」

いつもとは違う綺麗なドレスに袖を通し、鏡に向かって髪を整える名前にシャンクスが声をかけた。

「うん。見て...私、綺麗?」

その呼びかけに気付き振り返る名前にシャンクスは一瞬、目を奪われた。華やかなメークに長い美しい髪は綺麗に整えられ、綺麗な首筋が見える。ゴクリ、とシャンクスの喉が鳴った。

(これはマズいな......。)

名前がシャンクスを好きなように、シャンクスも名前が好きだった。この船に乗せたときはまだ愛らしかった少女もいつの間にか誰もを魅了する美しい女になった。そんな女がシャンクス、シャンクスと自分の名前を呼び慕う。好きにならないはずがない。
最近、名前が自分に特別な感情を抱いていることも薄々は気付いていたが、王からその身を預かった立場、手を出すことなどできなかった。

(どうしたもんか...。)

今すぐにでもその姿をぐちゃぐちゃにしてしまいたい。自分の下で鳴かせたい。そんな気持ちを必至に押し殺す。

「...シャンクス?」

そっと席を立ちコツコツとヒールの音を鳴らし、名前はシャンクスに近付いていった。

(私だって、もう大人よ?)


ずっと好きだった。もう私を子供扱いしないで。そっと華奢なその手を、返事をしないシャンクスの胸元に当てて目をじっと見つめる。ねぇ...と呟く彼女のその口元がとても艶かしい。

「.......っ」

その瞳と口元に引き込まれ、何かの糸が切れたようにキスをしたいという衝動に駆られる。片腕を彼女の肩に回す。あと僅か数センチの距離。自然と名前は目を閉じたが次の瞬間、彼女の額に痛みが走る。

「痛...っ!!」

名前はすぐさま目を開けたが、そこにはシャンクスの長い指が映る。どうやらこの額の痛みは彼がしたデコピンらしい。

「あまり大人をからかうな...。」

いつもの彼らしくない厳しい瞳に、名前の身体がビクっと反応する。そんな名前を見てか、シャンクスの表情はすぐさまいつものような明るい表情に元に戻った。

「俺は先に行くが名前も早く来い。皆が待ってる!今日の宴の主役なんだ!!」

と、陽気な声を出し名前の部屋をあとにした。





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