<見慣れた姿>
「急げ!!!2人共だ。こっちへ乗せろ!!!」
ドンーー!ドンーー!
海軍からの砲撃に合い、船が大きく揺れる。
「ロー船長!!軍艦が沖から回り込んできた!!」
大きく島ごと傾くマリンフォード。
映像から目を離した隙に何があったのか分からないが、黒ひげが白ひげの能力を得ていた。
戦場はさらに激しさを増し、正義、悪など関係無くなったように大きく荒れ狂う。
突如、空に一筋の光が駆け抜けた。
「黄猿だ!!」
それに動揺したのか道化のバギーが声を荒あげてジンベエと共に、ルフィを船へと投げてきた。
「受け取れ!ジャンバール!!」
「海へ潜るぞ!!!」
ベポがルフィを抱え船内へと走りだす。その外傷は酷く、生きているのかも不安になるほどだ。
しかし、その背後で黄猿が眩い光とともにこちらを狙っている。早く移動しなければ。
「くそ...!!」
「ロー!」
「そこまでだァァ〜〜〜〜!!」
突然あたりに響く大きな声。そこにいた誰もが動きを止める。
「もうやめましょうよ!!」
どうやらその声は若い海兵のようだ。赤犬の前で両手を大きく開げ、命が勿体ないと必死に訴えている。
が、その思いも虚しく海兵に向かって激しくマグマで煮えたぎる腕を、赤犬は振り上げた。
「.......あ、あれは!!」
名前の目が大きく開く。そこには見慣れた背中が映っていた。
振り下ろされた腕を刀で止める男。
その姿に、その戦場にいる者たちもまた目を疑ったような驚いた顔をしている。
「...よくやった...若い海兵。」
「急いで中へ!!」
視線を上にズラすと、ルフィを運ぶベポ達を狙う黄猿に銃口を向けるベックマンがいた。
「ベン.......っ!!」
その声に気付いたのか、ベックマンが視線をこちらへ向けた。
「名前!?どうして...。」
「おい、名前!早く入れ!」
ローがドアのほうへと手をひいた。名前はベックマンのほうを向いたまま、手を引かれるままに船内へと向かう。
「おい、あの船は!」
「なんでここに四皇が...!」
あちこちで湧き上がる声。その視線は一人の男に向けられている。
「「「赤髪のシャンクスだ!!」」」
拾い上げられた麦わら帽子。それを片手に持ちシャンクスは言った。
「この戦争を終わらせにきた!!!」
(シャンクスだ......。)
名前は今にもシャンクス!と叫びたい気持ちを抑え、そちらのほうをドアのそばで見ていた。
ローの見つめる先にも、シャンクスの姿があるようだ。
「キャプテン、早く扉閉めて!」
「待て。何か飛んでくる...。」
そしてローはそれに手を伸ばす。ルフィの麦わら帽子だ。
ローは何か意味がありそうな顔でそれを見つめると、ベポに誘導されるままに、船内へと走っていった。
そのまま船は潜水し、迫り来る氷や光線を避けていく。
手術台の上では、ジンベエとルフィの処置が始まるところだ。
船員たちは船を操縦する組、処置を手伝う組へと別れ、船内を慌ただしく駆け回る。
名前は1人部屋にこもると、ベッドに横たわり枕に顔をうずめた。
無事だったんだという安堵感と、側に行きたかったという感情が名前の中で入り混じる。
ローを好きになったとは言え、シャンクスに対する特別な感情が消えた訳ではない。
どちらも好きなのだ。
シャンクスの底知れぬ優しさと、あの明るい陽気なところも。ローの冷静で意地が悪いが、垣間見える優しさがあるところも。
(最低だ、私...。)
ローのそばにいれば、ローのことを考える時間が多くなる。だが、再びシャンクスを見た。
普段あまり見ることの出来ないあの時の彼の真剣な眼差しは、大人の男そのものだ。
あの場でこんな風に思うのは不謹慎だがかっこいいと、そう思ってしまった。
溢れ出る思いを止めることは出来ない。ローの残り香がのするベッドの中で、シャンクスのことを思う。
諦めることができたと思った。好きだから、ローを受け入れた。だが本当は長年想い続けたシャンクスのことを諦めることなど、できていなかったんだ、と思い知る。
揺れ動く心に苛まれ、名前はそっと目を閉じた。