05

 夢を見ているのだと思った。どんなに目をこらしても何も見えない闇の中で私は兄上からもらったあの籠を抱いて、ふわふわと浮かんでいた。

(あたたかい……)

 私はずいぶん前からこの場所を知っているような気がする。どこで、どうして知ったのかは思い出せないのだけれど。


 どのぐらい闇の中を漂っていたのだろう。もしかしたらもうここから出ることはできないのかもしれないと私は思った。私は暖かくて暗くて、心地よかったこの場所に突然、恐怖を覚えた。暗闇に一人きり。ここがどこかもわからない。

(あぁ……、お日様が恋しい)

 そう思ったその瞬間、私の周りを支配していた闇がひらめく光に切り裂かれ、私はまぶしくてギュッと目をつぶった。暗さに慣れていた目がちかちかする。いきなりあらわれた閃光に私は驚いたが、何が起こったのかを確かめるために私はゆっくりと目を開いた。

「……ほたる?」

 私の周りには淡緑の小さな光が蛍の群れのように漂っている。あの閃光は散り散りに砕け散ってしまったのだろうか。ずいぶん強い光を放っていたような気がしたが、この空間が暗かったのでそう見えただけだったようだ。ぼんやりとした光の群れはだんだんあたりに広がっていく。

 光源ができたので、私はゆっくりとあたりを見回した。しかし、目の前には相変わらず闇がどこまでも続いている。この空間が広いのか、狭いのかさえ分からない。

(どこまでこの空間は広がっているのかしら?)

 それを確かめてみようと、私は手探りで一歩踏み出した。私の体に触れた光が、ふわりと跳ね返る。

(この光、さわれる!)

 不思議だ、と思うと同時にこの光があれば闇の中を歩き回れるのではないかという考えが浮かんだ。私は抱きしめていた籠に光を閉じ込めて、灯りにしようとすぐそばに浮かんでいた小さな光に籠をそっとかぶせた。

 光を集め始めると、光たちは一つに戻ろうとしているのか、籠の周りに集まってくる。全ての光を籠に閉じ込めてしまうと、籠の中の光が強く煌めいた。どんどん光は強く輝く。予想していなかった事態に私は焦り始めた。

「やばいかも……?」

 目の前が淡緑色に染まる。光に飲み込まれる瞬間、どこからか楽しそうな声が聞こえた。おどろいて振り返ったが、私の視界はすべて光に塗りつぶされて、何も見えなかった。


 女中さんにゆすり起こされて、目が覚めた。妙に静かだ。何かあったのか聞いてみたけれど、とにかく着替えるよう言われるだけだった。

 しょうがないので言われるまま着替えて部屋を見渡すと、あの籠がないことに気が付いた。ごそごそと部屋の中を探し回っていると、若くて背の高い家臣がやってきて、真っ直ぐ私を見た。

「弘元様がお呼びです」

 家臣は私に、真剣な声でそう言った。


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