叶いますように




 最後のページをめくる。最後の1ページは、真っ白のように見えたけど、一行目に小さく綺麗な字でこう書いてあった。

『俺はきっと、会いにいく。あの子に』

 このあの子≠ニいうのは、きっと夢で見ていたあの人とは違う、もう1人の子のことなのだろう。
 そしてゆっくりと彼の日記を閉じた。彼の日記は几帳面の彼らしい、綺麗な字で全て書いてあった。

 結局、彼は記憶について何か分かったわけじゃない。ほんの少しだけしか、分かっていない。私のように、ほぼ全てが分かったわけじゃないのだ。
 でも彼は、最後のページに書いていたように、誰か分からないあの子≠ノ会いにいくと書いた。
 誰かは分からない。顔も、名前も。分かるのは……声ぐらい、なのだろう。それに、あの子≠ヘ向こうの世界の人間だ。会えるのかは、定かじゃない。

 それでもこちらの世界で生きることを選んだのは、彼だ。自分でどちらか選べたのに、あの子≠フいないこの世界を選んだのは、誰でもない、彼だ。
 彼の決めたことと書いていることとは矛盾している。
 あの子≠ェいない世界を選んだのに、あの子≠ノ会いにいくと書いてある。

 結局、彼は旅をすることを選んだが、今もまだあの子≠フ夢を見続けているのだろうか。今もまだ、諦めていないのだろうか。
 ……諦めて、いないといいけれど。

 もう一度 パラパラと日記を捲っていると、最後のページの隅に小さく、本当に小さく、何か書いてあった。

『ごめん、――――』

 最後は消された上、上から消されていたので読めなかった。でも、「ごめん」という綺麗な字が、自信なさげに見えた。


「……幸せに、なってほしいな…………」


 ぽつりと出た私の言葉も、何でか震えていて。

 それでも、心の中で、思ったんだ。幸せになってほしい、って。
 今も、まだ、『ベテルギウス』が笑顔でこの世界を旅してるといいなって。


 彼とあの子≠ェ、出会えたらいいなぁ、って……。





 

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