「城有 征矢=v




 ……まさか、な。ちょっと意外だった。
 まあ、順をおって書いていこう。

 そういえば今日は珍しく……珍しくっていうか……いや、今までなかったことなんだが。
 今日は『ベテルギウス』の活動は休みで、俺は掃除に徹しようと決意した。まず部屋の掃除をしてから、外もやるかと外に出ると、意外な奴が。

「ケケッ、相変わらず遅い奴だな」

 ソヤ・シロヴァン。何故いるんだというしかなかった。
 いや、そう聞きたかったが、ソヤの次の言葉により、俺は黙ることになった。

「っと、今日はそんなことを言いに来たんじゃねぇ。
 ……頼む。俺を“氷雪の霊峰”まで連れて行ってくれないか?」

 思わず「は、」と声が出た。こいつが、俺に、ものを頼んだ。
 ……“氷雪の霊峰”は、ロフェナがいる場所だ。確かにあそこは手強い。しかし……コイツが俺に頼んでくるほどということは、コイツにとって、大切な何かがあるからなのだろう。
 少し疑ったが……まあとりあえずオッケーしておいた。もし俺をはめようなんざしてた場合は見捨てる。いや、殴る。
 そんな物騒な決意を心にして。

 “氷雪の霊峰”の近くまでは翡翠が送ってくれた。
 時間がかかるので、たまたま話を聞いていた翡翠が背中に乗せてくれるといったのだ。頂上までは無理だが、近くまでなら、と。
 ソヤの存在に目を丸くしていた翡翠だが、別段 気にした様子はなかった。
 近くまで送ると、翡翠は「また何時間後かに此処で来ます」と言って飛んでいってしまった。翡翠も何か用があるのだろうか。……まあ、折角の休みなのにダンジョンに入りたいとは思わないよな。

 どんどん突き進みそうになるソヤに慌ててついていった。しかし何でコイツは“氷雪の霊峰”に……。
 しかし考えるのはやめた。ロフェナに会えば分かる。そんな気がしたから。

 “氷雪の霊峰”は……まあ、リフィネがいない方が楽だった。いや、あの時はそんなこと言ったら駄目だが。
 俺は別段ふつうに進んでいった。ソヤは前戦ったときより弱く……いや、俺があまりに波乱万丈な毎日を送りすぎて(一部はソヤのせいだが)レベルアップしているだけか。

 頂上につくと、ソヤは「おい、出て来いロフェナ! いるんだろ!?」と叫んだ。何故ロフェナの名を知っているのか聞きたかったが、その後すぐに分かる。
 案外ロフェナはすぐに出てきた。ただ、ソヤを見る目は冷たかった。
 ソヤが「俺が誰だか分かるか?」と聞くと、ロフェナは静かに「……何のようだ?」と聞いた。

 知り合い、というのはすぐに分かった。仲がよくないというのも、すぐに分かった。

 ソヤはロフェナの返答に苛立ったようで、「ケッ、何のようだ、だと? お前のせいで俺はこんな姿になったんだぞ? 一言謝るとかできねーのかよ!」と怒鳴った。正直、俺はそのとき意味がよく理解できなかった。
 ロフェナはどこまでも冷静だった。自分のせいではない。そう静かに言った。そして

「全ての原因は逃げ出したお前にあるのだろう。人間だった頃の城有 征矢≠ゥらも、サーナイトからも、な」

 そう言った瞬間、俺はソヤを見た。ソヤはバツが悪そうな顔をしていた。

 ようやく分かった。キュウコン伝説の真実が。
 キュウコン伝説の人間――それは、ソヤ・シロヴァンだったのだと。シファラという名をつけた、サーナイトのパートナーだと。

 そのままロフェナは続けた。
 祟りをかけたのは確かに自分だ。しかしソヤがゲンガーの姿になったのはシファラを見捨てて逃げたからであり、ロフェナの祟りをうけたのは庇ったシファラだ。

 それを聞いて、どんどんソヤが苦い顔をする。思い出したくないのか、後悔していたのか……まあそれは俺は知らん。
 そのソヤはチッ、と舌打ちしてから「その、祟りだがよ」と言い難そうだったが、言った。

「……いい加減、といてくれねぇかな」

 間違いなく、ソヤから、ロフェナへの頼みだった。
 ソヤは、最初の頃から変わった。俺に頼みに来たのがいい例だろう。そして、ロフェナへも。……何がきっかけかは知らないが、まあいい事だろう。
 ロフェナは驚いて暫く黙っていたが、「お前が私に頼みごとだと?」と聞き返していた。驚くのも無理はない気がする。何故なら次に張本人が「俺が誰かに頼みごとをするなんて……悔しくて鳥肌がたちそうだがな」と言ったからだ。自分で認めるなとツッコミたくなった。

「断るようならお前を倒す。……そこにいる蒼輝が」

「はぁ!? ざけんな!!」

 と、思わずソヤに怒鳴った俺は悪くない。とんだとばっちりである。
 それからソヤと俺はくだらない言い合いをした。「やるならお前がやれ」とか「お前は世界を救った英雄らしいからちょちょいのちょいだろうが」とか。結構ムダな争いだった。
 すると一部始終みていたロフェナが溜息をついた。

「残念だが……私を倒しても祟りは解けない」

 「何だと!?」と俺とソヤが声をあげるとロフェナに「蒼輝、お前はどちらの味方だ」といわれた。いや、味方もクソもない気がすんだが。
 しかし、シファラに何度も助けられた。だから、祟りは是非とも解いてほしかった。ソヤに協力……というより、俺とソヤの願いは合致しているから一緒にいるだけだ。

 ロフェナは俺の思いを汲み取ってか何も言わなかったが、未だ納得のいかないといっているソヤへと説明した。

「我々キュウコンは非情に執念深い。祟りをかけたら最後……自分ではどうしようもないほど強力なのだ」

 そんな、と言いかけた。ソヤも、悔しそうな顔をしている。
 では、シファラはずっとあの状態なのだろうか。そう考えた瞬間、ロフェナが「しかし」と言った。

「私はお前の卑怯な心に怒り、祟りをかけた。ソヤ、お前の気持ち次第では祟りが解けるかもしれん。
 ……この九尾の印≠もって、“闇の洞窟”へ行け。サーナイトの実体はそこに封印されている。その封印を解除する鍵がその石だ」

 何だ、きちんと祟りを解除する方法はあるのか。とほっとした。
 ソヤも「なるほど。この石っころをそこに置けばいいのか。なんだ、簡単じゃねぇか!」と顔を明るくさせていた。まあ、悪人面ではあるが。

 それからロフェナに何も言わず帰ろうとするソヤの後を追おうとすると、ロフェナに「蒼輝」と名前を呼ばれて引き止められた。

「……頼んだぞ。アイツは確かに変わった。しかし、まだ揺れている」

 意味はよく分からなかったが、頷いておいた。
 それから翡翠の背中に乗って帰り、明日“闇の洞窟”に行くことが勝手に決まってしまった。ソヤが勝手に決めた。
 翡翠に「悪いが明日、リフィネとシィーナに伝えておいてくれるか?」というと、「分かりました」と笑顔で頷いてくれた。ごめん、翡翠。マジごめん。

 さて、そういう訳で明日もソヤと行動するわけだが……まあ、アイツがキュウコン伝説の人間だということに驚いた。
 シファラも、あんな悪いことしか考えてない奴を何故庇ったのか……過去の城有 征矢≠ニいう人間を知らない俺が、分かるはずもない。シファラはシファラで、何か思うところがあったのだろう。

 とりあえず今日は寝よう。……あ、ソヤが来たから外の掃除してねぇ。





 

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