「やっと、」




 ようやく“氷雪の霊峰”に来れた。
 俺の顔を見てリフィネは「大丈夫だって。そんな不安そうな顔しなくても」と笑った。そこまで顔に出ていたのだろうか。
 ソレアは相変わらずほぼ無言でついてきていた。時折 上を見上げたりしているが。いつ何時でも自然災害の禍を察知しようと必死なんだろうか。そんなことを思った。

 とりあえず“氷雪の霊峰”を登っていった。おそらく面倒な所だっただろうが、あまりそれは感じなかった。
 おそらくもうすぐで真実が分かるという所まできて、気が少し楽になったのだろう。まあ真実が俺にとっていい真実であるように願うばかりだが。

 何とか頂上に辿り着いたはいいが、肝心のロフェナがいない。
 どうしたものかとリフィネとソレアと悩んでいると、もと来た道から知っている声が「ようやく追いついた」と聞こえてきた。
 見ると、ディスト達だった。本当にどこまでも追いかけてきた。
 「本当はこうなってほしくなかった……」ディストはこう言った。おそらく、エザンのときに言わなかったのは、この伝説のことなのだろう。

 ようやくロフェナに会って真実を聞けると思ったらこれだ。最悪の状況だ。
 ディストは「悪いが世界の平和のためだ」と言って襲い掛かってきた。何とか応戦するが、咄嗟のことで一撃目はぶっ飛んでしまった。戸惑いながらリフィネも、涼しい顔をしながらソレアもガルヴィとバルと戦って。

 その時、辺りを光が包み、俺たちは手を止めざるをえなかった。
 そして目を開けると、俺とディストの間に割って入るように、会いたかった奴が目の前にいた。

「ディスト、戦いをやめろ。この者は……私の客だ」

 そう言ったのは、キュウコン伝説で、人間に祟りをかけようとした張本人だった。
 目の前にいるロフェナを、俺は呆然と見るしかできなかった。……今いえば、怖かったんだ。聞くのが。

 その代わり、ディストが聞いた。伝説にでてくる人間が誰なのか。まず、伝説は本当なのか。
 ロフェナはゆっくりと話していった。

「伝説がどう伝わったのかは知らないが……あったことは事実だ。
 私はかつてある人間に祟りをかけようとした。だが、人間のパートナーであるサーナイトはその人間を庇い、自らの身を犠牲に祟りをうけた。しかしパートナーである人間は卑怯なことに、サーナイトを見捨てた。
 その人間はポケモンに転生し……今もなお、生きている」

 頼むから、違ってくれ。過去の俺は、そんなことをしていないことを、願った。
 ディストは静かに「して、その人間とは? その人間とは誰なのだ?」と聞いた。少し体が震えた。怖くて仕方なくて。
 するとロフェナが俺を見た。

「蒼輝」

 名前を呼ばれた瞬間、息を止めた。怖くて、頼むから違ってくれと願って。



「…………安心しろ。お前ではない」



 ロフェナの言葉を聞いた瞬間、ロフェナ以外の目が見開かれたのが分かった。俺も、その1匹だった。
 リフィネは「今……なん、て……」ともう一度ロフェナに聞いた。ロフェナはしっかりとした口調で、「蒼輝は伝説にでてくる人間ではない、と言ったのだ」と言った。

 一気に酸素が入ってきて、安心して頬が緩んだ。
 瞬間にリフィネがすげぇ勢いで俺にタックル(リフィネは抱きついたつもりかもしれないが)してきて、後ろに倒れこんだ。本当にすごい勢いだった。
 リフィネは目に涙を浮かべながら「よかったっ……本当によかったぁ……!!」と泣き笑いしていた。
 別に泣くつもりなどなかったのに、リフィネのが移ってしまって涙が少しだけ出てしまった。あぁ、最悪だ。本気で泣くつもりなどなかったのに。
 そんなことを思いながら、リフィネと泣いていた。

 ロフェナは「因みに言うと私は世界のバランスが崩れるとは予言したが、人間がポケモンになることと世界のバランスが崩れることが関係しているなど一言も言っていない」とはっきり言ってのけた。
 確かに、過去の日記を読んでみてもそうは書いてなかった。つまり、その人間が転生した時に、世界のバランスが崩れるというだけで、直接的な関係はないということだ。

 するとリフィネが唐突に「あれ、でも……」といった。
 では俺は何故 人間になったんだ。その疑問が浮かんできたらしい。確かに、結局分からずじまいだ。……分かったのは、俺がキュウコン伝説の人間じゃないことだけだ。
 俺のことは何一つ分かっていない。

 その時、いきなり地震がおきた。
 何事だと慌てていると、ロフェナが「地殻変動だ。自然災害がますます進んでいる」と言った。……でも、セルズはこの自然災害と俺は関係しているといった。それも意味が分からない。
 そして「この地殻変動によって……グラードンが目覚める」といった。
 何か分からない俺とリフィネは首を傾げていたが、ディストが説明してくれた。

 グラードンもまた、伝説のポケモンの1匹らしい。そしてもう1匹の伝説のポケモン、カイオーガとの死闘の末に眠りについたポケモンだとか。大地を広げたポケモンだともいわれているらしい。
 しかし、そんな奴が暴れるというのは、かなり危険である。

 俺が行くといいたかったが、ディスト達が行くと言ってくれた。
 リフィネは同じことを思っていたようで「私たちも行くよ」と言ったが、バルに「お前らは待ってる奴がいるだろ」と言われてハッとした。翡翠もシィーナも、ミフィも……俺を信じると言ってくれた奴らは、まだ俺を信じて待ってくれている。報告しないわけにもいかない。
 ガルヴィは「そういうことだ。ここは俺らに任せろ」と言ったので、その通りにすることにした。

 行ってしまったディスト達を見送ると、ロフェナが「今日は此処に泊まっていくといい。疲れも溜まっているだろう」と言った。
 確かに、何だかホッとしたこともあり、体が重い。リフィネも同じようで、ソレアはやはりしれっとしていた。コイツは無敵なのか。それとも疲れたのも顔にだしていないのか、本気で考えてしまった。

 ロフェナの言葉に甘え、“氷雪の霊峰”の頂上に今はいる。雪も凌げるし、絶好の場所である。
 とりあえず本当によかった。俺が、伝説にでてくる人間じゃなくて。疑いも晴れたし、ようやく帰れる。……笑顔で、帰れる。

 とりあえず明日はできるだけ早く出て早く帰ろう。……早く、報告がしたい。





 

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