「誰を信じる?」




 今日は、夢について忘れないように朝に書いておく。

 今日の夢は、いつもの不思議な誰かが話しかけている夢だった。
 前より聞き取りやすくなっていることがあり、俺から話しかけたのだ。「アンタは誰だ」と。
 ソイツはサーナイト≠ニ答えた。驚いて、言葉もでなかった。
 サーナイトは「やっと会えた」と言っていた。だから「前から俺を知っているのか」と聞いた。
 「私は貴方……」そう言ったサーナイトの言葉を聞きながらどんどん意識が薄れていき、バッと目を開けると天井が見えた。どうやら、目が覚めてしまったらしい。

 結局、あの伝説について、あの伝説の人間について聞くことはできなかった。
 いや、まず本当にあのサーナイトがあの伝説に関連しているとも限らない。……とりあえず、考えることは放棄しよう。考えたって仕方ない。
 今日から、また救助隊の活動を開始しなくてはならないのだから。……とりあえず、もう行こうと思う。





 大変なことになった。もう救助隊がどうとか言っていられないような状況に。
 いつものような朝、リフィネがきたときに広場が騒がしかったから、広場に行こうと言ったのだ。

 そして広場にいくと、ソヤが話していた。
 何でアイツが。何故か、胸騒ぎがした。ソヤは気付かず、広場に集まっているポケモン達につらつらと話していく。

 自分は“精霊の丘”に行った。そこで、あるポケモンがセルズに相談していた。そのポケモンは、元々人間だった。

 当てはまるのは、俺しかいない。
 リフィネが「そ、蒼輝……」と声をかけてきたのが分かった。だが、構っていられなかった。嫌な汗が、流れた。

 そしてセルズは元人間にこう言った。「ポケモンになったことと、世界のバランスが崩れていることは大きく関係している」。

 ハディが反応し、「キュウコン伝説の通りだ」と言った。
 しかしソヤは「驚くのはまだ早い」といって爛々と話していった。

 最近 災害がおこっているのは、その世界のバランスが崩れているのが関係しているらしい。そして、そのバランスを早く戻さないと世界は壊れる、と。

 勿論それを聞いた皆は慌て始める。当たり前だ。命に関わる問題なのだ。
 だが、俺はそれどころじゃなかった。ソヤがこれから何を言うのか、わかってしまったから。

 ただ、俺はどう否定をしたらいいんだ?

 すると、ソヤが「そう慌てるなよ」と、そして皆に解決法があると持ちかけた。
 全員は助かりたい一心で、ソヤの言葉に耳を傾けた。

 その人間がポケモンになったせいで世界のバランスが崩れているのなら、そのポケモンを殺せばいい。ソイツはサーナイトを見捨てた酷い奴なんだ。
 別に、そんな奴を殺そうが、構わないだろう。


「――――なぁ、蒼輝?」


 時が止まったように、思えた。
 ソヤは完全に俺の方を向いていて、そして明らかに……俺がその人間であると、そう言うような口ぶりだった。

 すると皆がザワつきはじめ、ハディ達が「本当なのか」と聞いてきた。
 リフィネは何も言わない俺とは対照に「ち、違うよ……。こ、これには深いわけが……」と弁解しようとしたが、ルワンが怒鳴り、リフィネは黙るしかなかった。

 「本当にお前が伝説にでてくる人間なのか」。そう聞いてきたハディに、何も返すことができなかった。
 分からない。肯定も、否定もできない。そうだという可能性も、違うという可能性もある。どう答えていいか、分からない。今も、どう答えたらよかったのか分からない。
 結局、俺はその場で一言も喋らなかった。

 ソヤが笑いながら「返す言葉もないようだな」と言った。そして「蒼輝を倒して平和になろう」そう、広場にいるポケモンに呼びかけた。
 正直、それさえも俺に聞こえていなかった。そのとき、俺はそんな状態じゃなかった。ただ、パニックになって。

 だから、ハディが「すまん、蒼輝!」と言って攻撃してきようとした瞬間に、ハッとした。だが、もう遅かった。ただハディのひっかくをみることしか出来なかった。
 だが、俺はそれを受けなかった。俺の前には、翡翠がいた。

 翡翠は技を受け止め、こちらに視線を寄越しながら「逃げてください、蒼輝さん! リフィネさん、シィーナさんも早く!!」そう声を張り上げた。
 リフィネはたじたじになりながら返事をし、俺を引っ張って家の方向まで走る。
 俺はただされるがままだった。シィーナは俺の顔色を伺っていたようだが、もうそれどころじゃなかった。

 向こうで、翡翠の声が聞こえた。「僕は蒼輝さんを信じてる。誰であろうと、此処は通しません」。
 その言葉に、泣きたくなった。


 家の前まで行くと、「どうして否定しなかったの!?」とリフィネに怒鳴られた。シィーナは何も言わなかったが、俺を心配そうに見ていた。
 不意に俺の口から言葉が出た。サーナイトが夢にでてきたこと、自分がもしかしたら、伝説にでてきた人間ではないか、と。

 リフィネは「私はそうじゃないと信じてる」と、シィーナは「君がそんなことをするような奴に見えない」、そう言った。
 けれど、俺は俺自身がもう信じられなかった。
 今は違うかもしれない。しかし過去では、とんでもない奴だったのかもしれない。もし、俺が伝説に出てきた奴だとしたら……俺は、この世界のポケモンに、とんでもない迷惑をかけていることになる。
 そんなの、ソヤの言うとおり、殺した方がいいに決まっている。

 だが、リフィネが何か言う前にシィーナに殴られた。すっげぇ痛かった。
 しかしシィーナの変わり様に驚きすぎて、そんな痛みはすぐに吹っ飛んでしまった。そして、こう言われた。

「君が君自身を信じないなら信じないならそれでもいい。けれど、君は、君を信じているボクらの気持ちを、踏みにじっているということに何で気付かない!
 君は少しは、少しは君を信じているリフィネを、翡翠を、ボクたちを信じろ!!」

 ……いつもののんびり口調はどこいったんだか。でも、確かに、その言葉に何かを感じたんだ。感じれたんだ。俺自身が。

 すると広場の方からディスト達が来た。そこには翡翠がいて、リフィネが「怪我は!? 大丈夫だった!?」と聞くと、いつもの笑顔で「大丈夫ですよ」と言った。それに、俺も安心した。
 ただ、ディスト達が俺を見る目はこの前のようなものではなかった。……殺すなら、いっそ一思いにやってくれた方がいいな。
 そんなことを思ってしまった俺は、きっとリフィネやシィーナや翡翠に謝らなければならない。いや、まあ少し後ちゃんと謝ったが。

 ディストはさっきの広場で話し合ったことを教えてくれた。
 世界を救うためにどういたらいいか。それは、俺を殺すことで解決法を見出したらしい。まあ、当たり前だよな。
 何となく、ディストの言っていることを冷静に聞いていた。リフィネは目を丸くしていたが。

 このままディスト達を蹴散らせなければならないのか。
 そう思ったが、ディストは俺に一晩だけ時間をやるといった。それは、リフィネも、シィーナも、翡翠も、そして俺も驚いた。

 ディストはその間にここから逃げろと言った。明日には、きっと沢山の救助隊が俺を殺しに来る。だから、逃げろと。
 そしてそれは俺だけでなく、リフィネ達も同じで、それでも「逃げろ」と言った。

 真実を見つけるまで、逃げ続けろ。

 そういわれた。
 そのままディストは「次に会うときは容赦しない。ではな」と言って、ガルヴィとバルとともに去っていった。

 リフィネが「何だかんだ言って、ディストも蒼輝のことを信じてるんだよ」。そう言った。「勿論、私もだよ」そう付けたし、笑った。
 シィーナは「二度も言わせるなよー」と言われ、翡翠はニッコリ笑って「僕も信じていますよ」と言ってくれた。何でこんなに自信満々にいえるのだろうか。

 すると広場の方から広場での話を聞いていたであろうミフィがやってきた。
 ミフィも、「蒼輝さんは僕にとってのヒーローなんです。それに、此処に秘密基地を作るって約束してくれました。僕は、蒼輝さんを信じます」そういってくれた。

 何で、コイツらはこんなにはっきりそう言えるのだろうか。そう思った。
 するとシィーナがまた、真剣な口調で俺に言った。

「君を信じている者はこんなにもいる。君は、それでもボクらを信じることはできない?
 自分が何者か分からない今、自分を信じることはできないかもしれない。けど、今の君が知っているボクらを、信じることはできるだろう?」

 その通りだった。
 今の俺には、記憶はない。けれど、今の俺の記憶の中にずっといるのは、アイツらだ。俺は、今の俺は、リフィネ達を、過去の俺のことなんかよりよく知っている。
 過去の自分は信じることはできなくても、リフィネ達を信じることは、できる。

「そう、だな」

 気付けば、そんな言葉が出ていて、おかしそうにリフィネ達が笑っていた。





 

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