「俺のこと」




 朝、いつものように家を出ると翡翠がいた。そしていつものように挨拶をされたので、いつものように返しておいた。
 そして唐突に「“精霊の丘”は、“大いなる峡谷”にあるそうです」と言った。
 そういえば、俺のことを聞くために“精霊の丘”に言ってセルズという奴に会うのだった。その時は、何故だか頭の中から抜けていて、「そういえばそうだったな」と思った。
 きっと忘れていたのは、夢がやけにインパクトがありすぎたためだろう。

 それからいつも通り寝坊したリフィネとシィーナが来て、“大いなる峡谷”にいく。
 やけにリフィネがはりきっているから、「お前がはりきることじゃないだろ」というと、すっげぇ怪訝そうな顔をされた。
 そして「蒼輝は記憶を取り戻したいって前に言ってたじゃん。もしかしたら手がかりあるかもしんないんだよ?」といった。
 だけど何故リフィネがはりきるんだ、と言うと笑顔で「友達でしょ?」と言われた。
 今日のリフィネは頭でも打ったのだろうか。そう考えた瞬間に殴られた。何故に心を読まれたのかが分からない。

 そのまま“大いなる峡谷”の奥に進むと、おそらく“精霊の丘”であろう場所についた。
 もう時間は夕方で、太陽は赤に染まっていた。
 そして、その太陽を眺めているポケモンがいた。するとリフィネは一目散に駆け出していった。

 そしてそのポケモンにリフィネは「セルズ? だよね。聞こえてる? おーい!!」と懸命に話しかけたが、全く返事がなかった。老人かよ、と思ってしまった。
 しかし何故かいきなり笑い出し、しまいには「クワーーーッ」とか言い出したもんだからビビッた。マジでビビッた。翡翠もシィーナも驚いていて、1番セルズの近くにいたリフィネは涙目になって俺の後ろに隠れた。よほどビックリしたらしい。
 するとセルズはこちらを向き、「私の正体を見破るとは……」とか言い出した。あ、バカだ。とか思った俺は悪くない。

 そしてセルズは俺の方を向き、俺が人間だったことを当てやがった。
 リフィネが何で分かったのか、と聞くと「太陽を1日見ているワタシにはあらゆるものを見ることができる。過去も未来も、な……」と言った。

 リフィネは詰め寄って「じゃあお願い! 蒼輝のことを教えて!」とセルズに言った。
 セルズは俺がポケモンになったことは、最近よくおきている自然災害が関係している、と答えた。そして自然災害が増えているのは、世界のバランスが崩れているかららしい。
 しかしセルズはそれ以上のことは言わなかった。知らないのか、それとも、俺にとって都合の悪いことなのか。

 ただセルズは、世界のバランスが崩れていることにより、世界がとんでもないことになる未来を最近よく見るらしい。世界が壊れる未来を。そして、それに怯えている。そういっていた。
 それ以上はもう、何も聞けなかった。

 もう用がなくなってしまった俺たちは“精霊の丘”を立ち去ろうとすると、「待て」とセルズに止められた。
 もしかしたら教えてくれるのか、そう思ったのだが、セルズは翡翠を見て、言った。

「お前は……世界を変えるほどの代物に……触れたことがあるな?」

 俺も、リフィネも、シィーナも、バッと翡翠の方を見た。世界を変えるほどの代物に触れた、どういうことだか全く分からなかったが、セルズは真剣な声音で聞いたから。
 少し黙った翡翠だが、いつものようにニコリと笑顔を作って、セルズに答えた。

「……えぇ。ありますよ。少しだけ、ですけどね」

 そのときの翡翠は、よくは言えないが……悲しそうな顔を、していた。




(夢についての報告)
 今日の夢は散々だった。
 からかわれるし、自分のペースにはもっていけないし……相手のいつもの長い黒髪の女の子に遊ばれていた。
 こっちではあまりないことなので、凄く違和感を覚えた。





 

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