VS時の盗賊

――――大水晶の道――――

「ふぅ……。これで、全部……」

 敵ポケモンを倒した後、スウィートが疲れたように息を吐いた。顔にも疲労が溜まっている。
 それを見たフォルテが心配そうにスウィートに声をかける。

「スウィート、大丈夫? もう少し休んでいいのよ?」

「大丈夫だよ。それに、そんな悠長なこと言ってられないし」

 スウィートはそう微笑みながら返した。だけどその微笑みはいつもより少し元気が無かった。
 “水晶の洞窟”でのガブリアスとの戦いの疲労がでているのだろう。癒しの力で消費した体力はミングが持っていったとしても、ガブリアス戦でつかった体力はそのまま削られている。
 そのうえ、狂ったガブリアスとの戦闘。この戦闘の緊張が、いつもの戦闘と比べると、とてつもない体力の消費になってしまったのだ。

「大丈夫ならいいんだけど……無理はしないでね?」

「うん……。ありがとう」

 スウィートの笑顔を見ても、フォルテの心配そうな顔を変わらない。身を案じているのだろう。それはシアオもアルも一緒だった。
 そして1番の心配は、ジュプトル戦だった。
 ジュプトルがいたのなら、必ず戦闘になるだろう。そのときにスウィートの体は大丈夫なのか。それに一日一度のサファイアの中から力を借りることは出来ない。これらの事が3匹とも心配なのだ。

「頑張らないと……」

 その心配に気付かず、スウィートは時の歯車≠ワで行くことを急いでいた。
 急がないと盗まれてしまう。そんな思いで一心不乱に重い体を動かし、前に進んでいった。






――――水晶の湖――――

「ここが、最深部……?」

 スウィート達がダンジョンをぬけると、全員が目を見開いた。
 ついたのは水晶のように綺麗な床に、他の場所も水晶に覆われている。とても綺麗な場所だった。
 スウィート達は少し奥に足を運ぶ。
 すると、声が聞こえてきた。4匹は顔を見合わせ頷いてから、足音を忍ばせてゆっくりと近づく。
 そして話し声が近くなり、大きな水晶に隠れて覗き見ると

「くそっ……!!」

 時空の叫び≠ナ見たポケモンとジュプトルがいた。

「あれって……! もしかしてあのポケモンがアグノム!?」

 シアオが小さな声で驚きの声をあげる。
 スウィートは2匹のやりとりを静かに見ていた。

「くっ……駄目だ……! 時の歯車≠……とっては……!!」

「悪いな、そういう訳にはいかない。時の歯車≠ヘ貰っていく」

 ジュプトルはそう言うと“水晶の湖”に近づいていく。

(時空の叫び≠ナ見たものと全く一緒……!)

 2匹のやりとりを聞いて、スウィートは驚く。という事はあれは未来だったのか、と。
 するとフォルテがスウィートに声をかけた。
 
「行きましょう。アグノムは戦えないみたいだし……これじゃまた盗まれちゃうわ」

「……うん!」

 フォルテの言葉にスウィートは頷いて、2匹の元に出ようとする。
 しかし、アグノムの言葉で止められた。

「待つんだ……盗賊ジュプトル……」

「……前のエムリット――ミュエムとは違って、俺が盗賊だという事は知ってたんだな。……ファーム・イレウォス」

 ジュプトルは鋭い目線でアグノム、ファームを見る。
 ファームは痛みに顔を歪めながら、言葉を紡いだ。それさえも興味がないといったように、ジュプトルはファームを見ていた。

「僕の……名前も知っている、んだね……。盗賊ジュプトル……。お前のことは、ミュエムから聞いた。おそらく此処に来るという事も……。
 本当は僕の力で倒せればよかったんだけど……。けどね……僕はもしものために、ある仕掛けをしておいたんだ……!」

「何ッ!?」

 ジュプトルがその言葉を聞いて、目を見開かせながらファームの方を見る。
 するとファームの目が光った。その次の瞬間、

「「「「「!?」」」」」

 ファーム以外の者が目を見開いた。
 湖へといく道は――完全に水晶で覆われ塞がれたからである。
 小さな隙間もなく、何重にも重なって時の歯車≠ヘ、いや、湖さえもが見えなくなっていた。
 これでは盗むことも、近づくことさえままならなかった。

「貴様……!」

「時の歯車≠ヘ……絶対に、盗ませない……! 僕の、命にかえても……!」

「俺は何としてでも時の歯車≠手に入れる! お前を倒してでも!!」

 ジュプトルはファームの方に近づいていく。
 すると、2匹の影が見え、ファームの前に立った。

「時の歯車≠ヘ盗ませない。貴方の思い通りにはさせない」

「この前はよくもやってくれたわね。今度は上手くいくと思わないでよ?」

 スウィートとフォルテだ。
 でんこうせっかでファームの前にへと瞬時に移動したのだ。その乱入者をジュプトルは鋭い目でにらみつけた。

「お前らに用はない。そこを退け」

「退かない。私たちは貴方を捕まえる。しんくうぎり!」

「シャドーボール!」

 スウィートろフォルテは攻撃を仕掛ける。ジュプトルは「チッ」と舌打ちをしてから攻撃を全て交わした。

「アイアンテール!」

「はっけい!」

「!」

 しかしすぐさま後ろからシアオとアルが攻撃を仕掛ける。
 ジュプトルは2匹に気付いていなかったようだが、間一髪で攻撃を避けた。

「流れ的には上手くいったんだけど……」

「そう簡単に仕留められる相手じゃないよな……」

 シアオとアルが呟く。今の状態はジュプトルを4匹が囲んでいる状態。
 スウィートは3匹にアイコンタクトで合図した。

「しんくうぎり!」

「はどうだん!」

「火炎放射!」

「すいへいぎり!」

 『シリウス』は一斉にジュプトルに向かって攻撃を放つ。
 右、左、前、後ろ、どこからも攻撃がきて避けられないはずだ。すると小さな爆発がおきた。

「やった……?」

 シアオが呟く。
 あれでは避けられないはずだ。仕留めたはず。だが

「――残念だな」

「なっ、きゃあ!?」 

「「「!!」」」

 声の聞こえた方を見ると、倒れているフォルテ。
 ジュプトルのいる場所を見ると、穴。

「ガブリアスの時と全く同じコンボ……!!」

 また同じ手に引っかかるとは。自分は唇をかみしめた。情けない、と。
 だが今は自分の不甲斐無さを悔いている場合ではない。

「シャドーボールッ!」

「リーフブレード」

 スウィートが撃ったシャドーボールは呆気なく、ジュプトルのリーフブレードによって真っ二つに割られる。
 するといつの間にかジュプトルの上にアルが移動していた。そして攻撃しようとするが

「スウィート1匹だけだと思うな! 叩きつける!」

「遅い。ダンジョン攻略だけでバテたか? リーフブレード」

 ジュプトルが一瞬でアルの前まで移動し、リーフブレードを喰らわせる
 。空中でアルに避ける術などなく、そのままアルは技をうけ、床に叩きつけられた。

(やっぱり……皆、ダメージと疲労が癒えてないんだ……!)

「フォルテ!! アル!! くっ……はどうだん!!」

「……本当にバテてるみたいだな。でんこうせっか」

 シアオもはどうだんも簡単に避けられてしまう。
 スウィートとシアオは苦々しい顔をした。2匹とも、フォルテやアルと同じで疲労が溜まっている。
 なのにジュプトルは動きは速い上に頭を使っている。今の状態でそんな相手と戦うなど、無謀にしか過ぎなかった。勝ち目など到底みえない。
 けれど、時の歯車≠守らなければいけない。

「アイアンテール!」

「はっけい!」

 するとジュプトルは穴を掘るで避けた。
 スウィートは宙で1回転して着地する。シアオのはどうだんは壁にあたった。

「どこから来るかが分からない……」

「どうしよう……うわぁッ!?」

「!?」

 シアオの下から何かのビームが発射される。おそらくジュプトルが穴から、シアオの下でソーラービームを撃ったのだろう。
 シアオは予想外の攻撃で避けられず、当たってしまう。

「シアオ! ッ……」

 ジュプトルはまだ穴から出てきていない。まだ穴から攻撃してくる気だろう。
 スウィートは目を瞑る。そして深呼吸をした。

(大丈夫……。ミング達はオリジナルの技を、技を組み込んで創ってた……。……私だって今はイーブイで技が使える。私だって……できるはず……)

 スウィートはとにかく神経を研ぎ澄ます。
 そして耳に小さな物音が聞こえ、耳をピクリと動かした。

「真空瞬移!!」

「なっ…!?」

 元いた場所からスウィートが急に消え、誰もいない場所からジュプトルが出てくる。
 スウィートがいないことにより、攻撃は空振りに終わった。

「アイアンテール!!」

「ぐぁ!!」

 ジュプトルの背後に回っていたスウィートは、ジュプトルにアイアンテールを当てた。
 そしてスウィートはすぐに後ろに移動した。

「はぁっ……」

 スウィートは息をつく。息は荒く、額に汗が滲んでいた。
 ガブリアス戦での疲れが1番あったスウィートにとって、この戦いはいつも以上にキツイのだ。

「……なかなかやるようだが、どうやら疲労が溜まっているようだな」

「でも……時の歯車≠盗むわけにはいかないのっ……! シャドーボール!!」

 スウィートはジュプトルに向かって思いきり撃つ。
 するとジュプトルはそれに向かってリーフブレードをして真っ二つにわり、でんこうせっかでスウィートとの距離を詰めた。

(まずいっ……! 避けられない……!!)

「リーフブレード!」

「きゃあッ!!」

 スウィートは避けることも出来ず、リーフブレードが直撃した。
 そしてそのまま床に倒れる。

(そんなっ……! 動いて、動いて……!!)

 スウィートは体に力を入れる。
 だが体はいう事を聞かず、全く動かない。頭はぼんやりしてきて、意識が遠のいていく。
 意識が薄れゆくなか、聞き覚えのある声がし、スウィートの意識は再び戻された。

「と、時の歯車≠ヘ……盗ませない……!」

(シアオ!?)

 スウィートは目を見開く。そしてシアオの声が聞こえた方に目を移した。
 そこにはアグノムを庇うようにたち、ジュプトルの行く道を阻むように立っているシアオがいた。

(やめて……)

「もう、あんな、寂しい世界なんて……見たくないんだ……!」

「…………。」

(お願い、何もしないで)

「だから……絶対にいかせない……!」

「……悪いが、そういう訳にはいかない。俺には時の歯車≠ェ必要なんだ」

(やめて、お願いだから、やめて……)

 シアオは動こうとしない。そんなシアオを一瞥し、ジュプトルは、リーフブレードの準備をしていた。
 スウィートは切実に願った。やめてくれ、と。

「悪いな」

 ジュプトルがシアオにむかってリーフブレードをしようとした瞬間、スウィートは無意識のうちに叫んでいた。



「お願い、やめて!!」



「ッ」

 スウィートが叫んだ瞬間、シアオに当たるか当たらないかの所で、ジュプトルの動きが一瞬だけ止まる。
 その一瞬で、ここには無かったはずの声が響いた。

「シャドーボール!!」

「なっ……!」

 ジュプトルも予想外だったのか、間一髪で攻撃を避ける。
 すると、シアオの前に知っているポケモンが現れた。

「ゼク、ト……さん……」

「シアオさん、後は私にお任せを」

 するとシアオの体がゆっくりと倒れた。
 急いで駆け寄りたいが、生憎スウィートは体が動かない。体に力が入らないのだ。しかし気絶しているのだけは確認できた。
 それだけ確認し、スウィートは目をジュプトルとゼクトの方に動かした。

「久しぶりだな、シルド!!」

「チッ……ここまで追ってくるとはな。ゼクト」

(2匹とも……知り合い……? それに……『シルド』って……ジュプトルの名前…? どうしてゼクトさんがそれを知っているの?)

 スウィートは2匹のやりとりを聞きながら違和感をおぼえる。
 ゼクトはいつものような丁寧口調ではないし、おそらく『シルド』というのはジュプトルの名前だろう。
 それを何故、ゼクトが知っているのか。

「逃しはしない。来てもらうぞ」

「お断りだ。だれがお前なんかに――付いて行くか!」

 ジュプトル、シルドが何かを投げた瞬間、辺りが眩い光に包まれた。スウィートは目をギュッとつぶり、ゼクトは手で目を覆う。
 そして光が収まったあと、シルドはもういなかった。

「シルドめ……! 逃がさん!」

 そう言うとゼクトの体はすぐに消えた。おそらくシルドを追いかけにいったのだろう。
 すると声が聞こえてきた。

「きゃーーー! スウィート達が……!」

「た、大変ゲス! 急いでギルドに運ぶゲスよ!!」

「急げ!!」

 自身がよく知っている弟子達の声。
 その声とともにスウィートは意識を手放した。




prev content next



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -