* 非凡人の強さ
ドォォォォォンッ、という凄まじい爆発音とともに土煙が舞い上がる。
爆発音は1つじゃない。複数だった。……いくつ聞こえたかはわからないけど、1つじゃないことは確かだ。その1つはステージ近く。
目を細めて辺りを見る。すると聞き覚えのある声が聞こえた。
「風おこし」
瞬間に、土煙が一気に晴れる。あれは翡翠の風おこしだ。
辺りを見ると、どうやらステージにいるポケモンや観客は無事のようだ。爆発がおきた場所はどうなっているのか分からないけれど……。
すると飛んでいた翡翠が下りてきた。
「爆発、ですね……。おそらく、事件でしょう」
「うん。とりあえず怪我人の確認を、」
「な、ないッ!?」
私の声がステージにいるポケモンに遮られる。そのポケモンは司会者で、青ざめた顔で言った。
「景品がすべて盗まれてる!!」
……目的はこれって、わけね。とりあえず怪我人は後にして……犯人を捕まえた方がいいな。
爆発に紛れて景品を盗む。星雨祭≠あらかじめ狙っていたんだろう。相当前から計画されたことに違いない。完璧すぎるもの。
「ボクの木の実をどこに持ってく気だあほんだらぁぁああぁぁぁぁぁ!!」
「え、」
「ごふぅ!!」
いきなり怒号に近いシィーナの言葉が聞こえたと思うと、私の右側にステージにあったライトが飛んで来た。
大方、シィーナが蹴飛ばしたのだろう。
するとそのライトはおかしな場所で止まり、地面に落ちた。そしてそこから声が聞こえたと思うと、その場所は色を変えた。
「なっ、カ、カクレオン!」
そこに現れたのは、頭をおさえているカクレオン。泥棒のように首にタオルを巻き、そのタオルには大量の木の実が積まれている。
犯人はコイツか……!
私が止めをさそうすると、いつの間にかステージから下りてきたシィーナがさした。
「ボクの木の実を盗もうとはいい度胸だよねぇ、ちょっとー?」
カクレオンの胸倉をつかんで、そして右手に力を溜めたと思うと渾身の力でカクレオンを殴った。
……大事なのは、ただの拳じゃないってことで。
「きあいパンチ!!」
シィーナの技をくらったカクレオンは、地面に叩きつけられた。地面にめり込み、目を回している。
や、やりすぎなんじゃないかな……。そんなに威力の高い技をやらなくても。
更にシィーナは抜け目なかった。カクレオンが持っていた木の実は地面に叩きつけられることはなく浮いていた。シィーナが咄嗟にサイコキネシスでもしていたんだろう。本当に抜け目ない。
「2位の景品しか持っていないようですね。では1位の景品はどこにいったんでしょう」
「わ、わーお……」
翡翠の声がしたと思って後ろを振り返ると、そりゃもう酷い有様でやられているムクバードを片手で持っていた。そして左手にはバッグを持っている。見ると3位の景品がちらりと覗いていた。
……呆気ない。呆気なさ過ぎるよ、盗人さんたち。食べ物の執念が凄いシィーナと、翡翠が強かっただけかもしれないけどさ。
しかし翡翠の言うとおり、翡翠が3位の景品を持っている奴、シィーナが2位の景品を持っている奴をしとめたとしても、1位の景品がない。
まさか逃げられた!? あっ、私の出番だった!? 私がやるべきだったよね!?
「……逃げられましたか」
「みたいだねぇー。ソイツは随分逃げ足が速いようで」
翡翠とシィーナがそう呟く。
……ごめんなさい。2匹みたいに反応することが全くできないし、何もできなかったです…………。
心の中で、そう謝る意外なかった。
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