* 祭り
「お祭り!! わた飴! たこ焼き!」
……最近コイツは自分の役割を忘れているんじゃないだろうか。
そんなことを思いつつ、俺に意気揚々といってきた本人、シィーナを見る。シィーナは目を輝かせていた。
今現在、宿には俺とシィーナとカイアしかいない。リフィネと翡翠は買出しに行ってもらっている。カイアはまず話さないので、俺がシィーナを相手をするしかないのだ。だって助けてくれる奴がいない。
面倒くさい。正直殴って黙らせたい。
そういう気持ちをおさえ、シィーナを面倒くさいといった表情で見てやった。
「……いきなり何だ」
「お祭りだよ! 明日やるんだってー!! 行こう、蒼輝! もしかしたら問題が起こるかもしれない!! それを抑えるのも救助隊の役目だ!」
「そんな役目はないが!?」
何か変な役目が救助隊に付け足されとる。救助隊連盟に怒られるぞ、お前。
しかしシィーナは全く気にしていないといった様子。おそらく祭りででる食べ物の屋台をしらみ潰しにしたいといった願望でこの提案だろう。
それが分かっている以上、承諾できない。
「却下だ。行く必要がない」
「いや、だからいく必要あるって! 救助隊は祭りの安全も守るのが仕事だよ!!」
「救助隊連盟にそれ言ってみろ!? 即拒否されるわ!!」
いつもならもっと静かな声で言うのだが、シィーナが声を大きくするために俺の声もデカくなる。お陰で地図を眺めていたカイアが不機嫌そうにこちらを見ているではないか。
……しっかし祭りなんて許可してみろ。ポケがすぐに消える。主にシィーナのせいで。
「ポケのことっしょ!? それを心配しているんだろう!? 大丈夫、ボクの家の貯金から下ろせば10万ポケぐらい下ろせるさ!!」
「黙れ金持ち! んなくだらないことに大金をつぎ込むな!」
金持ちなシィーナらしい発言だ。
どれだけのポケモンがその台詞を言ってみたいのだろうか。言えるのは真の金持ちだけなのだが。
シィーナは全く退く気がないらしく、「祭り祭り」と連呼している。カイアの目がやばいのには気付かないのだろうか。射殺さんばかりに睨んでいるのには気付かないのだろうか。
……自分の負担だというのならいい気もするが……そんな大金をつぎ込むのは間違っていると俺の本能が訴えている。
「祭りなんざ行かなくてもダンジョンで拾った木の実食ってりゃいいだろうが。いつもは満足してるくせに」
「蒼輝は祭りのよさが全く分かってないねー! あの雰囲気で屋台を回って食べ物を食べるのがいいんじゃないか!! とにかく貪り食うのが!!」
「分かりたくもないわ!! 結局はお前は食いたいだけだろうが!!」
「何が悪い!?」
「全部悪いわアホ!!」
「……うるさい…………」
静かな声が聞こえた。俺とシィーナが見ると、じとーっとした目でこちらを見るカイアの姿が。
「わ、悪い……」
流石に煩かったなと反省する。でないとカイアが反応したりしない。
おそらく俺がカイアの立場だったら耐えられなかっただろうな。うん、すっごい悪いことしたと思ってる。
するとシィーナはカイアに賛同を求めた。
「カイアもお祭りいきたいでしょー? 楽しいよー!?」
「…………まつり……?」
シィーナの言葉に、カイアが首を傾げる。
お前は俺たちの会話を全く聞いてなかったのか。そりゃ興味ないよな。
「そう! ……まさか、行ったことない?」
「…………ない」
カイアがぽつりとそう言うと、シィーナがニヤニヤしながら俺を見た。
……嫌な予感しかしないんだが。俺もカイアみたいに黙っていいかな。黙って追求を避けてもいいかな。
だがシィーナはそんなこと許しはしないだろう。
「ほらほら、保護者ー」
「誰が保護者だ」
「カイアはまだ祭り未経験だよ!? これは行かせてあげなきゃー! ね、ねっ!!」
目を輝かせ、「行かせろ」と言わんばかりの目で見てくるシィーナ。……俺の気のせいか、カイアも行きたそうに見える。
確かに祭りに行ったことないってのは、なんか気の毒だ。俺もそれを聞くとカイアは行かせてやらなきゃっつー気持ちになる。カイアはな。カ・イ・ア・は。重要なところはそこである。
……そういえば、翡翠とリフィネはどうなのだろうか。
「ちょっとーッ! 聞いてんの、蒼輝ー?」
「あぁ、聞いてる聞いてる。お前だけ留守番な」
「ちょい!? それはおかしいと思うんだけどー!?」
とりあえず、帰ってから聞くとするか。
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