救助隊『ベテルギウス』




 目の前には分かれ道。右か左か、んなの知るか。

「……カイア、どっちだ」

 自分の真横にいる小さな色違いのカラカラ、カイアにたずねる。
 カイアは暫く道をじーっと見つめる。そして短く、「……左」と言った。

「両方同じように見える道を見てなんで言いきれるんだろうねぇ。不思議だよー」

 その後ろからのんびりとした口調で呟くのは、モモンの実を片手に持ったトゲチック――シィーナ・ハピュト。
 口元には食べカスがついている。汚ねぇ。
 そんな思いをこめてシィーナを睨みつけると、違う奴が反応した。

「シィーナさん、食べかすが口元についています。……あと、食べ歩きはよくありませんよ」

 スッとシィーナに拭くものを差し出したのはフライゴン、翡翠だ。困ったような笑顔でシィーナを咎めるが、いい方からしてあまり咎められた感がない。
 俺としてはもうちょっとキツイいい方をしてもいいと思う。つーか俺ならやる。

「ていうか早く進もうよ! 助けを待ってるポケモンがいるんだから!!」

 とても煩い、元気な声。声の主はチコリータのリフィネ・カミューズ。とにかく早く早く! と背中を押してくる。
 女のくせしてめっちゃ力が強い。コイツ本当に性別あってんのか?
 そんな思いが通じたのか、リフィネがぎろりと睨んできた。

「ちょっと……今なんか失礼なこと考えなかった、蒼輝?」

「考えてねーよ。叩く準備すんな。叩き返すぞ」

 そして俺は、このメンバーの(一応)リーダーであるミズゴロウの柊 蒼輝。何のリーダーかというと、救助隊『ベテルギウス』のリーダーだ。因みに、元人間。まあそれはおいておこう。
 今は「でられなくなってしまって困っている」という依頼を受け、ダンジョンに来たはいいが……洞窟が2つもあるなんて聞いていない。

「とにかく左だ。いくぞ」

「…………。」

「ちょっ、待ってよ! 先に行こうとすんなーッ!!」

「リフィネは元気だねぇ。んぐっ、よし行こうかー」

「シィーナさん、また蒼輝さんに怒られますよ……」

 俺が進むと、黙ってカイアはついてくる。そしてリフィネが文句を言いながら、翡翠の言葉を聞くからしてシィーナはまたしても木の実を取り出して食いながら、それを見て翡翠は苦笑しながら来ているのだろう。
 こんなメンバーだが、まあ何とか成り立っている。

 救助隊『ベテルギウス』は、世界を救った。
 俺にとっては昔のことに聞こえる。あれから結構な月日がたち、俺たちはこうやってのびのびと救助隊活動をしている。

 最近は夢を見なくなってしまった。時折は見るが、頻繁に見ることはない。
 夢は、記憶喪失になる前の俺の記憶。それは、大抵は楽しそうなもので。悲しい出来事を見ることの方がない。

 俺としては全て思い出したいのだが、全く思い出せないのが実情。

 翡翠は人間だった頃の俺を知っている。だから聞いたこともあったが、翡翠は俺がこちらの世界に来る前に少し会っただけなので、詳しいことは知らないらしい。翡翠は嘘を言う奴ではないので、結局は分からずじまい。
 申し訳なさそうに翡翠はしていたのだが、翡翠を責めるのは筋違いだろう。

 そういえば1度だけ……シィーナが「岩に頭を打ち付けたら戻るんじゃないー?」とか言って、それを真にうけたリフィネが俺の頭を思いきり岩に打ちつけたことがあった。
 正直、死ぬかと思った。
 シィーナは軽い冗談のつもりで。リフィネは俺の役にたとうという一心でやったらしいが、俺にとっては役にたつどころか殺す行為かと思えた。
 翡翠は止めようとしていたのだが間に合わず。結局その後10日ぐらい俺は動けなかった。頭の痛さで。

「…………頭痛くなってきた……」

「えっ、ちょ、大丈夫? 蒼輝」

 元凶であるリフィネが話しかけてくるが、相手をしてやる気にもならない。ていうか頭が痛くなったのはお前のせいだ。

「……ダンジョン、じゃ、ないみたいですね。珍しく」

 きょろきょろと翡翠が辺りを見ながら呟く。……俺も物思いに耽ている場合ではない。

「とっとと行くぞ。宿の掃除が終わってない」

「ボクも1日のお菓子摂取量が半分にも満てないよー」

「……来る前に十分食べていませんでした?」

「もー!! みんな真剣に救助活動してよーッ!!」

「…………。」

 そんなこんなで、今日も救助隊『ベテルギウス』はいつも通りだ。


 



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