荒野での出来事




「……此処はどこだ」

 ぽつりと呟いた俺の言葉は、ひゅうっと風にさらわれた。
 『ベテルギウス』が歩いているのは、何もない、殺風景な荒野。大小さまざまな岩と、枯れた木がぽつりぽつりあるだけで、他は何もない。
 町も全く見えず、俺は顔をしかめた。

「ねぇ……これ、きちんと、町に……着くかなぁ……?」

 息を切らしながらリフィネが聞いてきた。汗が酷く、かなり体力を消耗していることが分かる。
 しかし今お前の心配をしてやる義理はない。

「お前が勝手に救助救助って言って後先考えずに突っ走るからこうなったんだろうが! ったく何でお前のせいでこんな目に合わなくちゃ……」

 俺が言った通り、原因はすべてコイツにある。そのおかげでこんな荒野を歩く羽目になっているのだから。
 カイアに聞く前にリフィネがどんどん先に進むため、こんな荒野にたどり着いてしまった。リフィネの救助意識の高さは認めてやってもいいが、それで周りが全く見えてないのは迷惑極まりない。
 進みながらカイアが地図を見て、町の方向を探している最中。まだ時間がかかるらしい。

「もうお前が突っ走っても俺はぜってぇほっとく」

「ボクもさすがに食事できる場所がひとっつもない場所に長居したくないから蒼輝に賛成かなー……」

「シ、シィーナまで!?」

 ついにシィーナにまで見限られたか。終わったな。
 ちらりとシィーナを見ればもぐもぐと木の実を食っている。しかしペースに気を付けているのかゆっくりだ。確かに町が見えない状況下、持っている食糧をむやみやたらに食うのはよろしくない。
 すると翡翠が困ったような笑みを浮かべて、会話に混ざってきた。

「ま、まあまあ。僕、もう一度 空を飛んで町があるか見ましょうか?」

「あー……悪いな、翡翠。頼む」

 はい、と頷いてから翡翠が空高く舞う。
 それを見ながら、バテているリフィネを睨みつけた。俺の睨みに対し、「うっ……」と表情を強張らせる。

「翡翠に迷惑かけんのも大概にしろよ……。トップで迷惑かけてんのお前だからな」

「うぅっ……気を付けますぅ……」

 さすがに罪悪感が募ったのか、素直に謝ってきた。俺じゃなくて翡翠に謝れ。
 カイアを見れば、まだ地図と睨めっこ中。さすがのカイアも現在地点も分からない、さらにただの荒野で目印も何もないとなれば苦戦しているようだ。
 すると空にいた翡翠が戻ってきた。

「どうだった?」

「町らしきものは見えなかったんですが……どなたかが、こちらに向かっているのが見えました」

「……こんな荒野に来る物好きがいんのかよ……。つーかソイツも遭難者だったら本気でめんどくせぇ……」

 どこだか分からない荒野にいる辞典でいやだ。砂埃すごいんだよ、此処。水浴びたい。
 すると翡翠が言っていた通り、バサッバサッという翼を羽ばたかせる音が聞こえた。上を見上げると、ペリッパーがこちらに向かってきているのが見えた。

「おーーーーいッ! 助けてぇぇぇぇぇぇッ!」

「食糧ちょーだいーーーーッ!!」

「遭難者かお前ら」

 つい俺がそういうと「似たようなもんでしょ!?」と返された。否定できない自分が悲しい。
 しかしペリッパーは下りてくることはなく、何かを俺たちの真上に落として飛んで行ってしまった。……え、何だアイツ。

「え、ちょ、助けてってばぁぁぁぁぁぁぁ!」

「食糧ぅぅぅぅぅぅッ!!」

「あれは食えねぇぞ」

「食えるかもしれないだろう!?」

「食う気かよ!?」

 シィーナとそんなアホなやりとりをしている間に、ペリッパーが落としていったものが俺の手元に落ちた。
 見ればただのシンプルな手紙。

「……誰からだ、これ」

「さぁ? はっ、もしかしてラブレター……!?」

「いや、こんな面倒なやりかたでラブレターとかないでしょー」

「『ベテルギウス御一行様』と書かれてありますが……」

 全員の注目が手紙に集まる。カイアだけは地図を見つめたままだが。
 差出人が書いてないか裏表を調べるが、『ベテルギウス御一行様』という文字以外、何も書かれていない。……字がすげぇ汚いのは気のせいだろうか。
 しかし、中身を見なければ何かはわからない。

 意を決して、その意味不明な不思議な手紙を、俺は開けるのだった。


 



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