もしもの話をしよう

 真っ暗な空を見て思う。あれは時間が動いたら本当に水色なんだろうか。
 雲を見て思う。あれは本当に白色をしているのだろうか。

 私たちの中じゃ、この世界で見えるものが全てで、本に書いてあることが信じられない。
 時間が動いたら、四季というものがあるらしい。時には暖かかったり、ときには暑かったり、時には涼しくなり、時には寒くなり……そしてまた暖かくなる。
 それさえも、信じられない。だって、知らないから。

 けれど、見たことがないからこそ、見てみたいと思う。信じられなくても、それが過去にあったというのなら、それを見てみたいと思う。
 そして、どんどん想像を膨らませて、夢を持ってしまうのだ。

 ……本で読んだことがあるけれど、私たちのセカイとはまた違うセカイがあるんだって。
 パラレルワールドっていって、私たちのセカイと交わることのない、何個ものセカイがあるんだって。
 それは私たちのセカイと似ていたり、それとは逆に全く違うセカイもあるのだとか。

 私たちのセカイと逆のセカイというのは、時間が動いている平和なセカイなんだろうか。
 それとも、時間が動いていなくても、私たちのセカイとは違って平和なのだろうか。

 その平和なセカイに私たちがいるとしたら、私たちはどうやって過ごしているのだろうか。

 今みたいに、時間を動かそうとしているのかな。
 それか、そのセカイの平和に満足して、何もしていないのかな。



「シルドはどう思う?」

「くだらない」

「酷いなぁ」

 素っ気ないパートナーの一言に苦笑する。確かに信じられない話だから仕方ないことかもしれないが。
 こうやってスウィートは本で見たこと聞いたことをシルドに話すが、返ってくる返事はいつもこんな感じだ。レヴィやミング達に話せば、少しはかわるのだが。

「私たちが生まれたセカイはさ、狂ってしまったポケモンや、悪さばかりするポケモンがいるけれど……もし、もしパラレルワールドっていうのがあって、平和なら……私たちはどうしているのかなぁって思わない?」

「思わない」

「少しくらい話にのってくれたっていいのに……」

 大体シルドと話すときはスウィートが一方的に話しかけている。何故ならシルドが話さないから。そして時々「煩い」とスウィートが怒られる。
 今はそうでもないらしく、スウィートが好き勝手に喋っている。

「あ、でも……私たちが時を動かそうと思わないと出会えないわけだよね……」

「……お前はさっきから何の話をしてるんだ」

「もしもの話をしてるだけ。シルドは全く聞いてくれないから1人で呟くことにした」

「いつものことだろ」

「そう思ってるのなら少しくらい聞いてくれてもいいと思うんだけど」

 不機嫌といったような顔をしたスウィートにもシルドは何とも思っていないらしい。更にスウィートがむすっとした表情になった。
 しかし、意外にもシルドは話にのってきた。

「少し違うセカイなら出会ってないんじゃないか」

「……どうして?」

「少しでも違う行動をしたら、未来というのはすぐに変わる……。もしそのセカイが俺たちと何か少しでも違うセカイだとしたら、あっちの俺たちはこっちの俺たちと別の行動をしているだろう」

「……だから、出会えていないってこと?」

「その可能性が高いだけだ。出会ってないかどうかは知らん。自分で考えとけ」

 うーん、とスウィートが頭をひねる。シルドはそんなスウィートを見て溜息をついた。
 そしておもむろに立ち上がると、スウィートが目を丸くしてシルドを見る。そんな様子にシルドはまた溜息をつくと、スウィートが頬を膨らませた。

「もう行くぞ。こんなくだらない話する元気があるんだから休憩も必要ないだろ」

「くだらないって……失礼な。私は真剣に考えてるのに」

「そんな絵空事について考える暇があるなら今について考えろ」

「少しぐらいいいじゃん……」

 拗ねた子どものようにそっぽを向いて、スウィートが立ち上がる。
 シルドがそれを見て先に進むと、慌ててスウィートもシルドについていく。本当にせっかちだな、などと思いながら。

「でも、シルドだって、ミング達だって、色んなセカイを見れば幸せなセカイがあると思うの」

「…………。」

「……私にだって、小さい頃に望んだ風景が、あるかもしれない」

「………………。」

「数十もあるセカイに、私たちがいるのかさえ分からないけれど……それでも、幸せに暮らしているセカイは絶対にあると思うの。このセカイだけじゃないはずだから」

「お前は結局何がいいたい?」

 シルドに問われ、スウィートが苦笑しながら首を傾げた。何が言いたいいんだろう、と。
 そしておもむろに空を見上げた。今日も、空は水色じゃない。かわらない、暗い空だ。

「まぁ……私たちのセカイも、そんなセカイになれば、いいかなぁ、なんて」

 思ったりして。
 シルドがそう言ったスウィートを見て、目をそらした。


「……叶わないなんて、分かってるのにね」





もしもの話をしよう
(想像のセカイぐらい、幸せを願っても、いいと思うの)









こんな暗い話を書く気はなかったのだけれど……気付いたらこんな感じに……。
未来組の明るい話が書きたい……。
因みに「叶わない」というのは未来を変えても消えるのだから、幸せな未来はないという意味です。




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