短編2 | ナノ




これの続き




「…嫌です。いきなり東京支部にまわされて、それで歳下の、しかも男の子のお守り??そんなのごめんですから、」

20歳を超えて、わたしは幾分か大人になった気でいたと思う。兎にも角にも、プライドも実力も頭脳もそこそこに高かったわたしは、上部からのその申し出を一蹴した。よく覚えている。

「…そう言うな、俺が手塩にかけて育てた犬だ。育ちは悪いが、実力はある。なんなら、お前よりも戦闘経験は長いくらいだ。」
「……そうは言っても、まだ10代でしょう?わたし、上手くやっていける気がしません、」
「2つしか変わらないだろ、黙って話を受けろ、」

半ば脅しのような塔間のその台詞も、よく覚えている。そうして彼を待っていた、あの白い部屋の白さも。
白は嫌いだった。だからこそ、真っ白なこのC3の東京支部が、わたしは好きではなかった。クラクラするのだ、なんというか、上も下も右も左もわからなくなる。
目眩を収めようと、天井の一点を見つめていれば余計に気持ちが悪くなった。その瞬間、突然に扉が開いたのでわたしは不機嫌な目つきでそちらを睨んだ。見れば、塔間が何やら小さな(彼と比べれば、の話だ)人間を引き連れ、部屋へと入ってくるところだった。

「…名字、狼谷吊戯だ、頼んだぞ、」

へんななまえ…と思いながら、何処と無く所在無さげな彼を見た。何?聞いてないよ泰ちゃん…という口ぶりから、彼が状況を把握せずにここに連れられてきた、ということがわかった。可哀想に…と思いながら軽率にその目を見つめてしまったわたしは酷く後悔した。

金色の瞳は不安なのかゆらゆらと揺れていた。けれど、心の何処かで確固たるものを秘めている、そんな気配を感じさせた。つめたくて、寂しくて、愚かな目。
どくりと心臓が波打った。あの目に見つめられてはならない、と思った。
だが、そんな願いも虚しく、彼は少し困ったように、犬のように上目遣いでわたしを見た。

ああ、死んでもいい。と思った。

それほどまでに美しかった。もし死ぬのなら今の、この気持ちのままで死にたいと思うほどに。この瞳に看取られて死ねるのなら、さぞ幸せだろうと思うほどに。




なんて、昔の話、なんだけどね。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -