「かわいい格好をして、ちょーっと利口なことを言うだけで、この世界はもっと生きやすくなるってこと、君は知ってる?」
名前は、あまり多くを持っていない女だった。
だからこそ俺は、彼女になにかを施すことが好きだった。
「いざやさ「殊更君は、それをすべきだと、俺は思うよ。君はもっと上手に、世の中を渡るべきだ」
半分正解で、半分不正解なのだろうと思った。
彼女は確かに、世の中をもっと楽に渡る方法を望んでいる。だがそれはおそらく、こんな方法ではない。
今日彼女に着せたワンピースは、胸元に大きな黒いリボンのついた灰色のワンピースだった。
脱がすときに邪魔になりそうなリボンだな、と思いながらもついつい手にとってしまった。
黒と白、どっちつかずな灰色は彼女によく似合う。
「ああ、結び目がおかしなことになってるね」
おいで、名前。
今まで上手に生きて来れなかった彼女は、正しい愛情の受け取り方を知らない。
だからこそ、付け入りたいと思ったし、俺が与えてあげるべきだとも思った。
彼女はわからないなりに、俺の愛情に従順だった。
今もそう、わからないなりに、俺が名前を呼べば大人しく寄ってきて、椅子に座ったこちらがリボンを結びやすいよう、かがんだりもするのだ。
その意図は、俺にもまだ、見えない。
緩んだリボンを解く。
しゅるん、と、無機質な音がした。
それを再度彼女の胸の前でクロスさせ、今度はきつく結ぶ。
「君になにかを施したところで、一生見返りなんてなさそうだけど、」
リボンを結ぶ瞬間、彼女の唇もまた同じようにきつく結ばれた。
「俺としては、君になにかをあげる、という行為自体が好きだったりするんだよ。
その唇をそっと親指でなぞると、ふるり、と震えるそれ。
「だから君はそう、大人しく享受していればいい」
わかったね?という問いに頷かない彼女をそのままに、そっと、立ち上がる。
リボンを結ぶ理由はできた。
次は解く理由が欲しい。