瞬きをする。それを意図していたわけじゃない。だが、それで目を覚ましたような感覚がした。
目を瞑っていたわけではない、だが、ずっと閉じていた目をようやく開けたような気がした。
目を覚ます。俺は今、白昼夢から目を覚ましたのだろうか。
「え、花垣武道と松野千冬と徒党組んだ?」
「ああ」
昨日東卍の幹部会で使ったファミレスとは別の店に入り、俺たちは次の計画に移った。そこで呼びつけた小鳥遊に昨日のことを話すと、小鳥遊は心底驚いたように目を丸くする。そんな小鳥遊に頷くと、小鳥遊は見開いていた目を細めて拗ねるように唇を尖らせた。
「なんで私を呼んでくれないの? 私だって稀咲側のチームの一人じゃない?」
「テメェは東卍からしたら部外者だろうが」
「ひどい。黒龍の内通者を用意したのは私なのに」
ひとり不貞腐れる小鳥遊はそう言ってテーブルに肘を付く。
昨日、武道と千冬の警戒心をある程度解くために問題の黒龍の内通者を用意した。それを準備したのは小鳥遊だ。小鳥遊からの情報をもとにすればそんな面倒な手順は踏まなくても済むが、二人をある程度懐柔するためにはわかりやすい証拠を目の前に提示する必要がある。黒龍の幹部が邪魔に入ったのは想定外だったが、計画に支障はない。
「手を組むと言っても12月25日までの期限付きだ。仲良くするつもりはねぇよ」
「ふうん」
子供みたいに不貞腐れる小鳥遊に俺はそう言ってやる。最初から手を組むつもりなんて無い。途中で裏切るつもりだ。それで二人とも同時に潰れてしまえばいい。たった一ヶ月の一時休戦と言うだけだ。だが小鳥遊はそれでも少し不満そうで、俺は呆れてため息を吐いた。
「でも楽しそう。チーム名は?」
「ンなもんねぇよ」
嬉々とした顔つきで聞いてくる向かいの席に座る小鳥遊を見やる。そうしてはっきり言ってやるよ、今度は隣に座った半間が声を上げた。
「えー、せっかくだし付けようぜ。ハンマーズとかどうよ?」
「それじゃあ半間中心のチームじゃない。キサキーズとかどう?」
「ばはっ、ウケる」
「勝手に人の名前使ってんじゃねぇ!」
なんで期限付きの徒党にチーム名が必要なんだ、と内心で愚痴る。それでも二人はなにが楽しいのか意味の分からないチーム名を上げていく。いったい何が楽しいんだかわからず、俺はまたため息を吐いた。こういう雰囲気になると二人の相手をするのは面倒臭い。普段は不要に近づこうとしないのに、こういう時だけ息を合わせる。まったく扱いずらい曲者たちだ。
「それで? どういった心境なの、稀咲」
一通り気が済んだのか、小鳥遊はテーブルに頬杖を付きながら俺を見つめてきた。そこにさっきまでのふざけた雰囲気はなく、普段通りの感情の分からない笑みを浮かべた小鳥遊がいる。その切り替えの早さにまた息を吐き、テーブルに置いたドリンクに手を伸ばした。
「柴家三人には溝がある。それを利用するだけだ」
そう言ってコップに口を付ける。その目の前で小鳥遊は考え込むように顎を指で挟みながら視線を外へ逸らした。
「そういえば、柴八戒が東卍を抜けたわね。それを利用するの?」
「いや、利用すんのは姉の柴柚葉だ」
すると小鳥遊は一瞬目を丸くした。今回利用するのはチームに属する人間じゃない。そこに関係する人間を利用する。柴兄弟の関係を探れば、その人間が使えることを確信した。使えるものは使っていく。だから、関係者も無関係者も関係ない。
「それで柴大寿を殺し、黒龍を吸収する」
柴柚葉は思った通りに動くだろう。そして柴大寿を殺す。黒龍は使える。とくに、金を動かす天才と呼ばれる幹部の一人である九井一は、この先利用できる。なら、それを吸収するまでだ。そして邪魔な花垣武道も松野千冬もここで潰す。そうすれば。
「俺の邪魔をする奴は、もう居ねぇ」
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