甘くて、苦い。 | ナノ


▽ホワイトデーの話



バレンタインの時と違い、今日は特に何か貰うことはない。
本来返す立場にあるんだろうが、生徒達から貰ったものの大半に名前は無いし、そもそも確認すらしていない。

本命からも、貰っていないから、関係ない日だ。



「ほら、これ」
「なんだ、これ」
「バレンタインのお返し」

と、思っていたら、そうでもなかったらしい。
目の前に差し出されたのは彼からの、包装されたたったひとつの飴玉。

「……俺、何かやったか?」
「お前のじゃねぇけど、お前から貰ったから」

他の生徒から貰った横流しの品か。
珍しく律儀なことで。

「それ、ハッカだから」
「……お前が嫌いなだけだろ」
「ばれた?」

あまり甘くないハッカ飴は、彼の口には合わないのだろう。
差し出されたそれを一応受け取るものの、実際俺だってそんなに好きではなかった。

「お前、メンソール吸う?」
「まあ」
「メンソールとハッカって、似てんだろ」

ぱり、と包装紙を破いて口の中にいれると、確かに少しだけ似ているような気がした。
ただ、そこに甘味しかないけれど。

「ミント、だからな」

舌に乗せて見せ付ける。
そうすると吸い寄せられたように顔が近付いて、舌が舌に触れた。
首の後ろを手で引き押され、自分の咥内に、彼の咥内に、舌が絡まり合う。

熱で溶け出す飴が唾液と混じって顎を汚してべたべたした。

「……これなら、俺も食えるかも」
「俺はごめんだ」

早業のように解かれたシャツの胸元に、染みを作る。
そこをまた彼は吸って、染みが広がってしまった。

「良いよな」
「勝手にしろ」

部屋のソファーに押し倒されて、このソファーも汚れるのかと思うと、何とも言えない気分になった。

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