別れた原因は、浮気だよね。
ストローの端を噛みながら、鈴さんは笑って言った。
あれから何日か後の日曜日、俺は例の浮気相手と会っていた。あいつとは、同じ大学でも学部が違うから話していない。
のに、鈴さんとはあの日から、メールを1日互いに一通程度返している。
嗚呼、こういう関係って何て言うんだろうか。
「あんだけ綺麗な顔してたら、浮気くらいするよねー」
「鈴さんだって美人ですけどね」
「大輔はどっちかって言うと男らしい感じ」
「はあ、どうも」
「それにしても反応薄いねー」
「これでも色々動揺してるはずです」
「はは、自分でも曖昧なんだ」
綺麗な顔を綻ばせて笑う顔は、男も女もきっと好む顔なんだろう。可愛い訳ではないけれど、整っていて、青年だけど、少年を思わせる、あどけなさとか、でも大人びて見える笑顔とか。
あいつが彼とまた身体を重ねたくなるのも、どことなくわかる気がした。
「ねぇ、あの時から尚人と寝た?」
「会ってすらないですよ」
「そっか、俺は寝たよ」
言葉を考える前に俺は目の前のコーヒーを口に含んだ。苦い。あと、温い。俺もアイスにすればよかった。
「別れるつもり?」
「さあ…何とも」
「自分のことなのに」
「感情が追いついてないんですよ、きっと、多分、まだフリーズしっぱなしです」
自嘲するように笑い返すと、鈴さんはまるで俺がコーヒーを飲んだときの顔をした。それすら絵になるって凄いな、ほんと。
「知ってました?ノンケでしたっけ、ノーマル?ストレート?とにかく俺、ほんとは男に興味ないんです」
昼間のこんな日に、俺は一体何を言い出すんだろう、本当に。
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