※ とあるおとぎ話
昔から、赤い色が好きだった。
文房具や服はいつも赤色を選んでいた。テレビの番組内で、外国を紹介する内容でクリームが真っ赤のケーキを見て、美味しそうと言ったら母や兄は若干引いていた。
赤い色をしているものは、何でも好きだった。
それは、私達の中に流れているものも例外じゃない。
既に動かなくなった、大きな塊から流れ続ける、赤。
それがすごく綺麗に見えて、
それからずっと毎日、その赤を見るためにお金を貰って、走り回って、刃を突き立て、見て、走り回って。
でも、そんな事も次第に飽きてきた。
赤を見ても昔のような好意はなくなり、むしろ嫌いになっていった。
「貴女が噂の殺し屋ですか」
夜中、人通りのない路地でまた嫌いな赤を眺めていたら。
突然後ろから声が聞こえ振り向く。
「…青…」
青の服を着た、自分より年上の男が立っていた。
チカチカと光る街灯のおかげで、笑みを浮かべているのが分かる。
「想像していたのと正反対ですね。君みたいな女性がこのような事を仕事にしているとは」
「…あなたには関係ないでしょ」
殺意を込め男を睨み付けるが、男はそれでも笑みを止めず、むしろ更に楽しんでいるように見える。
「そうですね。貴女からしたらそうでしょうね」
クスクスと笑う男に、ふつふつと苛々が募ってきた。
「何?私を捕まえにでも来たの?」
腰に下げてあるそれを見ながら、いつでも対抗できるように隠してあるナイフへと手を近づかせる。
「そんなに警戒しないでください。別に貴女を警察に突き出すわけではありません。ただ、―…」
目付きが鋭くなり、背筋に冷たいものが流れる。
「我々の仲間になりませんか?」
「…は?」
からん。
男の発言に、呆気に取られた私は既に手にしていたナイフを落とした。
「貴女は強い。そのような逸材を、閉じ込めておくなど可笑しい。そう思いませんか?」
さっきまでの緊張感は何だったのだろうか。
拍子抜けし、男の問い掛けに答えられない。
「……私は犯罪者だよ。この手でたくさん人を殺した、最低な女。こんな私を、」
“必要としてくれるの?”
私の問い掛けに、男は、
「貴女が必要なんです。我等の正義を真っ当するのに」
「……」
「室長、どうかなされましたか?」
「少し、昔の事を思い出しただけです」
私と貴女の出会いを、ね。
とあるおとぎ話。
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