こんなに真剣にかくれんぼするのは何年ぶりだうか。
近くにいる鬼がどこかに行くまでウェンは息を潜めた。
可愛い女の子が鬼だったらこんなに冷や汗だらだらで隠れたりしない。
鬼は物凄く危なくてデカくて怖いやつだ。
鬼の気配はどこかに行くことなく、どんどんと近付いてくる。
バサバサと鬼は、空へ上がって行き、空から黒いつぶらな瞳がウェンをとらえた。
『み〜つけた』
気のせいかあのバカデカチキンがそう言ったような気がする。
いや、今は見つかったらヤバい。
ウェンがバカデカチキンと名前をつけた怪鳥は、大きな翼をバサバサと羽ばたかせ、地上に突風をふかせた。
ウォルウールはめったにこないから、わからないがまるで台風が近くにあるような風の強さ。
傘をさせば空を飛べそうな気がする。
「……アーデ大丈夫か?」
「えぇ、なんとか」
白い長い髪を風に揺らし不思議な瞳を持つ、アデレードはそう頷いて答えた。
「アイツ空を飛びまくるから全然攻撃できないな」
「じゃあ怪鳥が空を飛べないようにしたらいいんじゃないかしら?」
アーデはそう簡単に言ったがそれができれば全然苦労していない。
「でもアーデどうやって、チキンを飛べなくするんだ?」
「あら簡単よ。
酔っ払わせたらいいだけだから」
アデレードはにっこりとして何かのお肉と酒をどこからか、取り出した。
酔っ払わせるっていっても鳥って酔っ払うのだろうか。
ウェンは半信半疑で肉を酒の中に漬け込んで行くアーデを見た。
「昔、お酒の中につけたお米をまいてそれを食べて酔っ払った小さな鳥を素手で捕まえて遊んだことがあるの。
さすがにあの子はお米じゃつられそうにないしね」
「アーデって結構ワイルドなんだな」
その遊びがまさか今のこの状況を打開する方法とは思いもしなかった。
小さい頃の遊びもいつかは役にたつんだなぁ〜と思いながらウェンは一つだけ気になることを訊いてみた。
「その後その捕まえた鳥はどうしたんだ?」
かなりどうでもいいことだが気になる。捕まえたのは小さな小鳥らしいし、まさか食べたりはしないだろう。
「食べたわ」
アーデはにっこりと微笑みながら答えた。
「マジですか!?」
可愛らしいというかは綺麗な見た目とは裏腹にアーデは結構ワイルドだった。
アーデとだったら無人島でサバイバル生活しても絶対に生き残れそうだ。
「……冗談よ。
ちゃんと逃がしてあげてたわ」
「……ですよね……」
それを聞いてなんだか少しだけホッとした。
アーデが捕まえた小鳥をムシャムシャと食べているところを想像するだけで嫌な寒気がする。
「このぐらい漬け込めば大丈夫かしら」
アーデはそういうと酒に漬け込みまくった肉が入ったトレイをウェンに渡した。
後はチキンに肉を食わせてべろんべろんに酔っぱらったところを、一気に攻めるだけだ。
――覚悟しろよ、バカデカチキン!!
一様、怖いアース“さん”にチキンには手を出すなと言われたが、相手から喧嘩売って来たのだ。
売られた喧嘩は倍で買うのがウェンの流儀だ。
「にしても、酒臭すぎだろ? ……臭いだけで俺まで酔っぱらいそう」
ウェンは鼻をふさいで肉を地面に置いた。こんなに酒臭かったら警戒してチキンが肉を食べないかもしれない。
「もしかしてウェンお酒苦手?」
ピンピンとしているアーデはチキンより先にフラフラになりそうなウェンを見た。
「……そうかも……。
俺結構強そうな顔してるって言われるのにな…」
アーデと話しているところちょうどご馳走の臭いを嗅ぎ付けたのかあのバカデカチキンが帰ってきた。
「よ〜く噛んで食べろよ、チキン」
ウェンはチキンには聞こえていないのにそう丁寧に一言忠告してから、アーデと一緒に急いで近くの茂みに隠れて息を潜めた。
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