Promise Flower | ナノ


 チキンはやっぱりただデカイだけのバカだった。


 チキンは空から降りてくるなり、道端に置かれている明らかに怪しい肉の塊をなんの躊躇いもなく、刃物のように鋭いくちばしでつついて食べ始めた。

 それもアイツは味覚音痴なのだろうか、美味しそうにパクパクと食べていく。


 チキンの食べっぷりを見ているとなんかお腹が空いてきて、ウェンの腹の虫がグーグーと大合唱している。


「アーデの作戦大成功だな」


「まさか本当に成功するなんて思ってなかったから、よかったわ」


 成功すると思ってなかったって。


 ウェンは苦笑いを浮かべながらニコニコと笑うアーデを見つめた。
 もし失敗したら、どうするつもりだったのだろうか。


「とりあえずチキン野郎がべろんべろんに酔っぱらったところを叩けばいいんだな?」


「えぇ。
 けれど油断しないでね。たまに酔うほど凶暴化する子もいたりするから」


「アイツがそうじゃないことを祈るしかないな」


 ウェンはそう呟き、苦笑いすると隠れていた茂みを飛び出した。


 ちょうどその頃にチキンの方も肉を食べ終えていて、多分酔っぱらっているに違いない。

 ウェンが結構派手に飛び出したのに、チキンは攻撃体勢に入っていない。
 むしろボーとぬいぐるみのような黒いつぶらな瞳でウェンを見つめている。


 今が大大大チャンス。

 ウェンは2本の刀を抜きチキンの左翼へと斬りかかった。


 とりあえず翼を傷付ければ相手が飛び立つのが困難になり相手の動きをだいぶ抑制することができる。


「こっちだぞチキン!!」


 ウェンはそう叫び、チキンの左翼を斬り落とす勢いで2本の双剣を振り下ろした。


 チキンは耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげると刃物みたいに鋭利なくちばしをウェンに向けた。
 そしてそのくちばしが目の前に迫る。


――マジかよ!


 ウェンは反射的に横にジャンプしてよけて思わぬチキンの反撃をかわした。
 もしかしてさっきの一撃で酔いが吹っ飛んだのだろうか。


 片方の翼はもう使えない。
 酔っぱらってなくても地上戦はウェンの方がだいぶ有利だ。

 ウェンは双剣を握りしめ、とどめを刺すつもりでチキンの頭を狙った。


 チキンの数メートル前で踏み切り、身体中のバネを最大限に利用して、ウェンは空高く飛び上がった。


『おのれ、紅姫!! ……貴様さえ……消えれば……』


 頭の中で直接、たぶんチキンの声が響いた。割れるぐらい頭が痛い。


「……こう……ひめって……だれだよ……」



 痛みに必死に抗おうとするウェン。しかし激痛はおさまらない。


――……つーか鳥って喋るのか?


 もう頭が完璧に壊れてしまったのか頭の中でそんなどうでもいいことをふと考えてしまった。

 どう考えても普通鳥が喋るわけない。
 鳥はピーチクパーチク鳴く動物だ。



「ウェン!!」


 下から隠れていた茂みから出てきた、アーデの凛とした声が聞こえてきた。


 最近なんかかなり色んな奴らにボコボコにされぎみだが、アーデの前でボコボコにされるなんて男としてカッコ悪いとこをみせるわけにはいかない。


 だから今はこんなところでチキンがどうとか考えてる場合じゃない。
 チキンのことなんてあとからいくらでも考えられる。


 アーデの声援(?)のお陰でウェンの頭の中からチキンの声がかきけされた。


 ウェンは、我に帰り、チキンの頭の上に着地して、剣を高く振り上げた。


 白銀の刃が目映い太陽の光に照らされてキラリと輝く。


「……これで、とどめだぁ!!」


 ウェンはそう叫び左手で握った双剣をチキンの頭に深々と突き刺した。


 チキンは甲高く一鳴きすると、激しく頭を振り、ウェンを振り落とすと、右翼とウェンが傷付けた左翼を羽ばたかせ太陽が傾き始めた西の空へと舞い上がった。







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