Promise Flower | ナノ



 鳥の大音量の耳障りな合唱が聞こえてくる。

 全く鳥という生き物は、人が寝ている時に静かにする気はないのだろうか。


 安眠妨害鳥に文句を心の中で言いつつ、ウェンは目を開けた。

 木々の隙間から登りたての眩しい太陽の光が目に入る。


「まさかもう……朝?」

 どうやらぐらいこの薄気味悪い場所で、かなりの時間爆睡してたようだ。

 一晩中爆睡できるところだから、まぁ寝心地はそんなに悪くなかったみたいだが、もう一度ここで爆睡するか? と訊かれたらもちろん断る。

 ウェンは大きな欠伸をして、ボーッと木々の隙間から見える空を見上げた。


 少し曇りぎみだが、綺麗な青空が雲の隙間から見える。

 今日も1日、ちゃんと仕事していかないとな。

 仕事……。
 そういえばか昨日、任務終了報告を九竜にしてる途中にバタッとぶっ倒れたような……。

「やっ、やば!!」

 屯所に帰る前に報告しとかないと、帰ったあとマジで九竜に殺される。


 ウェンは急いで携帯端末をポケットの中からとり出し、九竜に電話をかけた。


 しかし……。


『…おかけになられた…電話番号は……』




「つながんねぇ!!
 なんでこんな時に限ってつながんないんだよ!?」


 いつもはすーっとつながるのになんでこんな時に限って!!
 ほんとについてない。

 しかも、誰かわからないが誰かが、数人の足音が、こちらに少しずつに近づいてくる。


 血団の人間か、はたまたここを警備している、フィラ帝国騎士団か、それとも新手か。

 誰が来ようとこっちにしたらかなり迷惑な話だ。


「とりあえず、とんずらするか」


 場所も場所だし、誰が来たとしてもきっと怪しまれる。
 とくに、フィラ帝国騎士団の奴らだったら、有無を言わさずに墓荒らしとかいうことで牢屋送りにされてしまう。
 騎士団は昔から頭固い連中の集まりみたいなものだからこっちが何を言っても全く聞く耳を持たない。

 来たのが騎士団じゃありませんように。


 ウェンはそう強く願いながら、立ち上がり、服に着いた草をたたき落とすと、森の入り口に向かって歩き出した。


「……そこの、怪しい奴。止まれ」


 歩きだしていきなり誰かに声をかけられた。

 そこの怪しいのって、もしかしてウェンのこと? そんなわけないない。自意識過剰すぎる。

 ウェンは声を無視して歩き始めた。

 結果それがまた色々ややこしいことになるとは知らずに。


「……動いたな。
 全隊、帝国の聖地を荒らすあの男を捕らえろ!!」


――帝国の聖地って


 どうやらここに来たのは残念ながら頭の固い帝国騎士団サマだった。


 ウェンは舌打ちして騎士団を睨み付けた。

 目の前にある5mほど崖の上に帝国騎士団の皆さま約10人と、それを率いる隊長様らしき黒い髪のウェンと同じ年ぐらいの少年がいた。

 何でこんなところに餓鬼みたいな奴がいるのだろうか。
 素朴な疑問が浮かび上がった。


「一つ質問。
 今の騎士団って子供でも隊長になれるんですか?」


 ……一瞬間が空いた。

 少年の周りにいる騎士たちが気まずい顔で(兜をかぶっているから顔はみえないが)ウェンを見た。

 なんか悪いこと言っただろうか。


「盗人風情が調子に乗るなよ。
 私は、アレス・アフェリエ。
 代々優秀な騎士を世に送り出しているアフェリエ家の……」

「ごめん。
 悪いけど俺、貴族の家に“興味ない”から詳しくないんだ」


 ウェンはやたらと興味ないを強調して言った。

 アフェリエ家がどうとか言われても普通の一般市民のウェンには全くわからない。

 ちなみに今の皇帝は? と訊かれてもたぶん答えれないだろう。

 なんせ“興味ない”のだから。


「……雑魚が馬鹿にしやがって!!」


 しやがってって、なんか急に言葉使いが悪くなったような。
 ……気のせいか?


「お前ら、さっさとその墓荒し捕まえて牢獄にぶちこめ!!」


 少年はかなり激しい口調でしかもやけくそに騎士たちに命令してきた。

 ここで一暴れして、帝国に目をつけられるとあとで九竜にぶっ殺されそうだし、ここはおとなしく問題を起こさずに捕まるか。

 捕まってから、まぁ適当に無実潔白を証明してあの毒舌餓鬼大将に恥かかせてやるのもいいかもしれない。


 ウェンは2本の刀を地面におろし、両手を上に上げた。俗にいう降参のポーズだ。


「参りました。降参します」


 急に降参とか言い出すウェンに、殺る気満々の騎士さまがたは困惑した様子で毒舌餓鬼大将を見た。

「……お前……ふざけるな!!
 お前ら、多少ボコってから投獄しとけ!!」

「はっ!!」

ボコってからって、それは酷すぎじゃあ……。


 ウェンは抵抗する暇もなく嫌な空気を漂わせる騎士団の皆さまに囲まれた。


「殺れ!」


 そんな危ない単語が耳に飛び込んできた。







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