Promise Flower | ナノ




 目の前の格子から微かに光が差し込むものの牢獄の中は薄暗く、ひやっとしていた。
あの森ほどじゃないがかなり気味が悪い。

 ウェンは冷たい床から体を起こして負傷した箇所を見た。

 足に大きな痣が1、2、3、4個。両手に切り傷数十箇所。
 おまけに頭が割れそうなぐらい痛くてズキズキする。


 騎士団の奴ら、みんな容赦なすぎだろう。
 ふつう武器持ってない奴にあそこまで本気で殴るか?
 本当に騎士道の欠片もない奴らだ。

 特にあのアレスとか名乗ったクソ餓鬼あんな奴がいるから騎士団が駄目になるんだ。

「帝国騎士団の馬鹿野郎!!」


 なんかアイツのこと思い出すと腹がたってきたのでウェンは思いっきり叫んでやった。
 しかしこれでもスッキリしない。
 やっぱり仕返しの意味でもアイツか騎士団の誰かを一発殴ってやらないと。


 騎士を殴るためには、ここから脱出しないといけない。
 ウェンは格子に手をかけ、ガチャガチャと動かした。


 当然、そう簡単に格子が開いて、脱獄できるわけない。
 とりあえず鍵を持っている看守が近づいて来るのを待つしかない。

 看守がボーッと前を通ったところを襲って鍵をいただく。


 もう本当にさっさとこんなじめじめした場所から出て、飯は不味いが、明るい屯所に帰りたい。



 ホームシックならぬ屯所シックに陥った、ウェンはもうやけになって、牢獄のど真ん中で大の字になって寝ころび、


「もう、最悪だ!!」

 と、お腹の底から思いっきり叫んだ。


 マジで最悪だ。

 やっぱ討伐任務が多すぎるってあの時、一発九竜に文句を言っとけばよかった。

 もう討伐任務なんか行くかって。


 そしたら、白の森で、堕天使の大群に会うことも、亜種のゾンビ軍団に殺されかけることも、クソ餓鬼率いる騎士団の皆サマに囲まれてフルボッコにされたあげく、あのクソ餓鬼に投獄されることもなかった。


 もうしばらく本気で任務サボりたくなってきた。


 よし、決めた。
 ここから出ても、屯所に帰らないで、実家の孤児院に帰って任務をしばらくサボタージュしてやる。

 九竜に家に乗り込まれて来ても、ビビらないで面と向かって抗議してやる。

 こんな重労働やってられるかって!!

 ウェンは、そう冷たい牢獄の中で一人強く誓った。


 ちょうどその時、コツコツと足音が聞こえてきた。

 見廻りの騎士だろうか?
 最初はそう思ったが、足音が2つ聞こえてくる。

 
 ということは、誰かウェンと同じように牢獄にぶちこまれるのか。

 何をやらかしたか知らないがそれはお気の毒なことに。


 一体連れて来られた奴はどんな奴なのだろうか?
 ウェンは格子の隙間から騎士と連行されてくる罪人をそっと見た。


 前を歩く騎士が邪魔でよく見えないが、多分罪人はまだ九竜よりずっと若い男だった。

 長く伸ばされているが、きちんと手入れされているサラサラの黒髪に、闇の中でも凛と輝く赤い瞳。

 顔は整っていて、悔しいがこれは俗にいうイケメンだ。
 優しそうな顔付きのこの男を、どっからどう見ても牢獄にぶちこまれるような悪いことをした奴には見えない。

 世の中何があるかわからないものだ。


「だから、俺は!!」


「……はいはい、言い訳ならあとで上の人に聞いてもらいな」


「そんなわけには!!」


男はまだ何か言いたそうだったが、騎士に言いくるめられてウェンの左隣の牢獄にいれられてしまった。

 本当に帝国騎士団の人の話を聞かない病はかなり深刻な状態のようだ。


 重たい音と共に、牢獄の鍵が閉められ、騎士は足早に牢獄から去って行った。

 騎士がここから去ったあと。

「あとで議会に提訴しておかないとな」

 と低く嘆くような声が聞こえてきた。


 議会って、皇帝とかそれに連なる超上流貴族が政治を動かしている、帝国議会のことだろうか?

 ということは、隣の人はそんなとこに文句言える御身分の人間ということになる。

 もしそうだとしたら、ここでぐちぐちと投獄された経緯を話したら、無罪ということで釈放、おまけに無罪の罪人を牢屋にぶち込んだあのくそ餓鬼に恥を晒せるかもしれない。

 ということは今がチャンス!!


 相手には見えないのに、ウェンは気持ち悪いぐらいの笑顔を浮かべて口を開いた。


「もしもし〜お隣さん?」








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