「……先客がいたのか……」
隣から少し驚き混じりの、落ち着いた感じの声の返事が返ってきた。
声どこかで聞いたことがあるような気がする。
でも、ウェンの周りに議会に出席できるような偉い人はいないし、気のせいだろう。
「先客っても、ブチ込まれたのはつい最近だけどな。
……それよりあんた騎士とトラブってたけどなんかやらかしたのか?」
こんなに率直に訊いてよかったのかわからないが、隣から微かな溜息の音が聞こえてきた。
「あぁ。宮殿に入れてもらえなかったから、ちょっと剣抜いて抗議したらこの有り様だ」
剣抜いて抗議って、明らかに抗議じゃないような気がするのはウェンだけなのか?
明らかに強行突破しようとして失敗して牢獄にぶちこまれてるように見える。
「それで強行突破失敗したわけか」
「誰も斬ってないから大丈夫だ」
「いやそういう問題じゃなくて……」
なんかお隣さんとえらい話がずれてるような気がしてきたのでウェンは話題を変えることにした。
「あんたはなんでそこまでして宮殿に入りたかったんだ?
なんか用でもあったのか?」
「……ちょっとな。こっそりと顔見たい奴がいるんだ」
男は明らかに今までとは違う優しい口調でそう言った。
口調からしてもしかして……。
「それって女の子?」
ウェンは期待を膨らまして訊いてみた。
別に女の子だったからってウェンにはあまり関係ないが、ちょっと気になる。
「あぁ。一様、婚約者だ」
「……へぇー。婚約者」
待てよ。今お隣さん婚約者とか言ったような。
婚約者ってけ結婚相手ってこと。だったら、彼女より上の存在!?
今のお隣さんの婚約者発言は、彼女いない歴=年齢のウェンへの宣戦布告か。
第一なんで婚約者が宮殿住まいのお嬢様なのになんで強行突破しようとしたのだろうか?
まさか身分差を越えた……って、さっき議会がどうとか言ってたしお隣さんもそこそこな地位の人だと思うのでそれはない。
じゃあ何故。
「……さっきから俺のことばっかだけど、君は何やらかしたんだ?」
お隣さんに逆に質問された。
「うっ、それは……」
ここで正直にあのことを、話したほうがいいのか?
血団の人間でお宅の騎士団に任務遂行の妨害をされましたって。
お隣さんいい人そうだし話したら権力で釈放してくれるかも。
「白の森に墓荒しが入ったって話を耳にしたが、それは君がやったのか?」
最悪だ。いきなり帝国側の話でこられた。
だからあの話は誤解でウェンは墓荒しをしてたのではなくて、帝国からの要請を受けて、任務を遂行していて……。
本当に帝国は自分たちが血団に要請したことも忘れてしまったのだろうか?
「俺は墓荒しなんてしてない!!
黄昏の血団の任務で帝国から要請のあった……」
「白の森での堕天使及び亜種の討伐。とてもじゃないが新人が受けれるレベルの任務じゃない。
今君が生きてるだけでも奇跡だな」
お隣さんはウェンの言葉を引き継いでそう言い、何かが壊れたような大きな物音をたてた。
堕天使及び亜種の討伐、やっぱり亜種まじりの討伐だったか。
あの髭親父あウェンを殺すつもりで、任務に送り出したのか。
あの髭親父のことだ、きっと今頃執務室で
『あぁ〜アイツ今頃生きてるかなハッハッハ〜』とかふざけたこと言ってるに決まってる。
と言うか団内部のことを知っているってことはお隣さんってまさか…血団の人?。
鉄格子の隙間から長身の男の姿が見えた。
さっきみた黒い長い髪の、お隣さん。手には長剣が握られている。
もしかしてあれで鉄格子を破壊したのか。
でもどうやって牢獄内にあんな目立つ武器を持ち込んだのか気になる。
「君はどうする? 牢獄の中にいるか
まぁ今の騎士団に言い訳は通用しないから、罰則くらうのは覚悟しないといけないかもな」
「もちろん出ます!」
罰則くらうなんて冗談じゃない。ふざけるなだ。
お隣さんは、鉄格子に向かって剣を振り下ろした。
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