閑話D
「え、黒咲がいない?」


目が点になる遊矢にそうだよと苛立った様子で沢渡は返した。


「どこ探してもいねーんだよ!どこほっつき歩いてんだ、あの堅物は!」


沢渡が言うには、黒咲と赤馬零児がリハビリに励んでいる病院にたどり着いたはいいが、そこから二人は近くにあるホテルでずっと過ごしているのだという。赤馬零児の許可がなければ南極基地に入ることすらできない。軍需産業にすら顔が利くのだ、おそるべきレオ・コーポレーションとと行った方がいいだろうか。もしかしたら20年後、本当にこの会社は世界を制するところまでいったのかもしれない。そのせいで、その根幹となるリアルソリッドヴィジョンを媒介に現れたGODに根こそぎ世界を食いつくされたのだから。そんな絵空事もとうの赤馬零児から説明されては否定のしようがない。そもそもここにたどり着くまでに沢渡と黒咲は地を這いつくばるような努力をして自力でその真相にたどりついている。だから答え合わせにしかならなかった。病室でそれをきいた赤馬は目を丸くして、そうか、とだけいった。そして口元をつり上げたのだ。さすがだと。その意味は恐ろしくて沢渡は聞けていないのだ。20年後の自分たちを知っているから声をかけた、やはり20年前も優秀だといいたいのか。それとも見くびっていたがそれ以上の働きを見せてくれてびっくりしたのか、どちらともとれる反応だった。でも、おかげで沢渡も黒咲もここにいることが許されている。赤馬零児直々に自分の身の上やここに来た目的、これからしなければならないこと、そういったものを説明してもらったのだ。つれてってくれるともいっていた。認めてくれたことは事実だ。


黒咲は赤馬零児にデュエルを挑みたがっていたが、数ヶ月間も宇宙にいた一般人がすぐにデュエルできる体になるわけがない。ドクターストップがかかっている、とかかりつけの医者止めに入ったせいで黒咲はここのところ不機嫌だったという。


「そっかあ、すごいじゃん」


にへら、と笑う遊矢にまあなと沢渡はまんざらでもなさそうに笑った。


「もしかしてどっかで憂さ晴らしにでも行ったんじゃねーだろうなあ?」


がしがし頭をかきながら、沢渡は困ったようにため息をついた。


「あーもう仕方ねえ。あとであの馬鹿は探すとして、案内するぞ」

「うん、よろしく」

「赤馬社長はどこに入院してるの?」

「あ?決まってるだろ、最上階だよ」

「び、VIPね」

「あたりまえだろ、世界が誇るレオ・コーポレーションの若き社長だぜ」


ほら、こいよ、と沢渡はなれた様子で二人を案内する。インフルエンザでもはやっているのか、病院は入院病棟を封鎖しているようだ。にも関わらず沢渡が持っている社員証をかざすだけであっさり通されてしまう。最上階に直通のエレベータは、1階のずっとずっと先にあった。沢渡がいなければきっと迷子になってしまいそうだ。沢渡曰く彼らもなれるまで大変だったようだ。ここまで広大な敷地を持つ病院となると背景にある 。


案内が終わると、そそくさと沢渡は踵を返した。結局黒咲は見つけられなかった。



遊矢たちがここに到着するのを待つ間、沢渡と黒咲は病院近くのホテルに泊まることになった。宿代はすべて赤馬のポケットマネーである。もしかしたら経費から出ているのかもしれないが、そんな恐ろしいこととてもではないが聞けそうにない。


「……寝れねえ」


沢渡はのそのそと毛布を蹴飛ばし、ふかふかのベッドからスリッパを探る。不相応なほどに豪華絢爛なホテルだ。赤馬社長がここで遊矢たちと合流しろといったのだから仕方ないが、どうにも落ち着かない。まあ、赤馬社長のリハビリが終わらないと南極なんて行けないのだからなれるしかないだろう。遊矢たちさえくれば、情報共有などで時間はつぶれてくれそうだが、どうにも気分が高まってしまい落ち着かない。隣の部屋で寝静まっているはずの黒咲を起こさないように足を忍ばせて外に出た。冷たいタイルに雑魚寝よりはよっぽどマシだが落ち着かない。くあ、とあくびをかみ殺し、ぐしぐし涙目をこすり、そのままぼんやりとした足取りでドアを開けた。ぱち、とライトをつける。


「……あれ」


すぐ隣の部屋の扉が開けっ放しだ。なんて不用心な、と思いつつのぞいてみる。

「黒咲がいねえぞ?一回帰ってきたのか?」


からっぽな毛布をみて、先にトイレにでもいったのかと思いつつ、ドアを開けた。ひんやりとした冷たさが沢渡を襲う。寒い寒いといいながら沢渡は廊下を歩く。トイレをのぞいてみたが誰もない。入れ違いだろうか、と思いつつ沢渡は電気をつけた。


「……おいおいおい、まじかよ」


さっきまでなかったはずの扉を見つけてしまった沢渡は冷や汗がだらだらである。こんなことができる人間など心当たりがありすぎる。どうする、遊矢たちを起こすか、と思いながらドアを開けると、さっきと同じ通路に出てしまった。


「こないだとは反対のパターンかよ」


ワンキル館の秘密通路に侵入しようとして、館長から門前払いをくらったことを思い出す。何度か試してみるが結局同じ通路に出てしまう。


「はいはい、わかったよ。行けばいいんだろ、行けば!」


半ば投げやりになりながら扉を開いた。


「よーお、沢渡!待ってたぜ」

「城前」

「そーいや最近デュエルしてなかったなーと思ってさ、デュエルしねーか?」

「なんだよ、その軽いのりは!?」

「え、だめか?再戦したいっていってただろ?」

「いいけど、えー、えーなんだよそれ!扱い軽すぎるだろ」

「扱いが軽い?どこがだよ。脅威は最初に取り除くべきってのは当然の流れだろ?」

「……まじ?」

「そのつもりできたんだろ、沢渡?」


城前はにやっと笑った。




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