ペルソナ4 27

重く垂れ込めた雲の裂け目から夕焼けが滲んで見える。雲が低く山の裂け目に沿って、霧のように押し寄せてくるのは瘴気だ。灰色の空に少しずつ裂け目が広がって、その奥からうっすらと光る水色の空が覗いていたが、その赤く黒ずんだ瘴気に覆われてしまい、今は見る影もない。

そんな空の真下に広がる廃病院となった稲羽市立病院を前に、私たちはいた。完二を助けるために、ダンジョンに再チャレンジするのである。

ペルソナを強化し、回復した私たちは、リヒトさんがくれたアイテムで先程よりは万全の体制が整っていた。これでダメなら完全なる実力不足だ、また撤退しなければならなくなる。リヒトさん曰く、コトシロヌシを使う神薙晃のシャドウの目的はあくまでもシャドウであり、ペルソナ。

つまり本体を殺した瞬間にシャドウもペルソナも消滅してしまうため、最悪の事態はまずありえない。マヨナカテレビのシャドウが完二を襲おうとしてもそのシャドウを殺すだろうとのこと。だから危機的状況に変わりはないが、急を急いては事を仕損じるからよく考えろ、とのことである。

安心していいのか、悔しがるべきなのかは判断に迷うところだが、完二をはやく救出しなければならないのはかわらない。

とりあえず、いってみよう、ということで廃病院内に生成されたランダムなダンジョンを私たちはひたすら進んで行った。迷わなかったのは、本来このダンジョンの主であるはずの完二のシャドウが道を教えてくれたからにほかならない。

そして、私は完二のシャドウが本体である巽完二と最後に別れた病院の一室にたどり着いたのである。扉を開いてまず思ったのは、不必要なまでに広い空間だった。個室でもないのにたくさんのベッドが並んでいて、その全てにぬいぐるみと花が置かれている。ぬいぐるみを見た瞬間に逃げ出したい衝動にかられるが今回はただのぬいぐるみらしい。

息をなでおろして、先に進む。

「あれが......あれが神薙晃、私のもう一人のシャドウ......」

びりびりと肌がやばい存在だと感じている。

「まずいな、ここも亀裂が入ってる。魔界と繋がってしまっている。《魔人》がいずれまた現れるだろうな」

「完二ッ!!」

神薙晃のシャドウが馬乗りになり、完二の首元に鎌をかけていることに気づいた月森が叫ぶ。

「お前がもうひとりの私か?巽から離れろ。そして私から剥がされたシャドウの一部、返してもらうからなっ!」

顔を上げた神薙晃のシャドウはニヤリと笑った。そして完二からどいた。

「月森先輩......?先輩方......?へへ、来てくれたんすね、心のどっかで期待してた甲斐があったぜ......。すんません、捕まえるどころか、捕まるようなマネして......情けねえ」

「完二、大丈夫か?」

月森から完二のところに行こうとしたが、神薙のシャドウが立ち塞がる。それを阻止したのはリヒトさんだった。

「月森君たちを相手にするのは僕を倒してからにしてくれないか?」

リヒトさんは赤い書を開いた。

「アティス」

リヒトさんに寄り添うように美しい男のペルソナが降臨した。神薙のシャドウはランランと輝く緑の目を細めて笑う。

「あの時のペルソナ使いじゃない。性懲りも無く、また再戦を申し込みに来たの?」

「そうともいうな。神薙晃くんのシャドウを奪い、それを隠れ蓑にして好き勝手しているようだが、これ以上君の好きにさせる訳にはいかない。なにが目的かは知らないが、これ以上魔界と現実世界を繋げる訳にはいかないんでね」

「前もいったけどそれは私に勝ってから言いなさいよね」

黒いローブの神薙のシャドウはそういって笑った。

「今度こそ、その鎌は破壊させてもらう」

「出来るものならやってみなさいよ」

神薙のシャドウは嘲笑した。

「グリムリーパーとあなた達が呼ぶこの鎌を形作る結晶体は、たしかに死神から出来ているわ。日本では古来から死神として三障四魔という存在をそう呼んでいるのは知っている?そこから出来ているの。そもそもあなたの知るグリムリーパーではないわ、そう簡単に壊せるようなものじゃない」

神薙のシャドウはそういってコトシロヌシがもつグリムリーパーという名前の鎌を見上げて笑った。そして語り出す。

三障とは聖道を妨げ、善根を生ずることを障害する3つの死神だという。

まずは煩悩障。仏道の妨げの心、貪・瞋・痴(とんじんち)の三毒の煩悩によって仏道修行を妨げる働きをもつ死神。

次に業障。魂に刻まれた業、言語・動作、または心の中において悪業を造り、為に正道を妨げる働きをもつ死神。

最後に報障。因果応報、悪業によって受けたる地獄・餓鬼・畜生などの果報の為に妨げられる働きをもつ死神だという。

四魔は生命を奪い、またその因縁となる4つ、またそれを悪魔にたとえたもの


まずは五陰魔(ごいんま)。心身からくる妨げで、色・受・想・行・識の五陰が、和合して成ずる身体は種々の苦しみを生じる働きをいう。

次が煩悩魔。煩悩障におなじ、心身を悩乱して、菩提・悟りを得る障りとなるから煩悩魔という。

そして、死魔。修行者を殺害する魔、死は人命を奪うから死魔という。

最後が天子魔。第六天魔王(天魔、マーラ・パーピーヤス、魔羅・波洵、他化自在天ともいう)の働きをもつ死神だという。

製造元はお前かという問いにもろくに答える気はないのか、神薙のシャドウは視線を外す。

「このグリムリーパーは、そのうち死魔から生成したもの。死神のペルソナから生成したものじゃない。だから壊せるなんて安直な考えは捨てたほうが身のためよ。ねえ、コトシロヌシ」

神薙のシャドウはそういってペルソナを召喚した。

「あれがコトシロヌシ......」

「あれが晃ちゃんの本来のペルソナかもしれないんだね」

「うーん、どうだろう......?ヒルコとコトシロヌシにわけられてるなら、ふたつを合わせたちがうペルソナだったのかもしれない」

「あ、そっか。じゃあ、月森くんみたいにペルソナにして合体させることができたら、晃ちゃんの記憶が戻るかもしれないんだね」

「今のところはそうなるね、そうとしか考えられない。私は記憶を取り戻さなきゃならない。戦うしかないね」

「そうだね。これ以上、晃ちゃんのシャドウに取り憑いてる誰かに好き勝手させるわけにはいかない」

「そうだねッ、晃が犯人だって勘違いされちゃたまんないもん」

月森が今のすきに完二をこちらに連れてきてくれた。私は武器を構える。完二と完二のシャドウを守るため、私は後衛にいるのだ。





それは圧倒的な存在感を放つペルソナだった。黒い烏帽子のような冠(漆紗)、薄紫色に金色の紋様が入った衣、白い袴。つま先が反り返った靴を履いている。イザナミとイザナギが日本大陸をつくるところを描いた絵にでてくる、奈良時代の貴族が着ていた服として私たちがイメージするものとよく似ていた。

白地に真っ赤な月、黒地に赤の満月がかかれた団扇のような、扇のようなものを両手に携えている。

コトシロヌシと呼ばれたペルソナは顔に布がかけられており、表情をうかがうことは出来なかった。

「2度同じ手は食わない」

そういってリヒトさんがコトシロヌシについて説明し始めた。コトシロヌシはすべての魔法攻撃に対して吸収耐性がある。代わりに物理攻撃に対して弱点があるという。だから物理攻撃すればいいのかと思えば、カウンターまでつけているそうで、下手をすれば返り討ちにあう可能性もあるという。

「え、じゃあどうやって攻撃すれば?」

「戦う土壌は僕が準備する。だから月森くんたちは戦いに集中してくれ」

そういうなり、リヒトさんは私たちにカウンターを付与するアイテムを発動させてくれた。

「神託をさずけよう」

コトシロヌシが喋った。オートで状態異常の付加率が上昇し、耐性があっても貫通してあたえてくる能力だという。

「天扇一閃」

コトシロヌシが舞った。その刹那、特大のダメージが複数回、衝撃波となって私たちに物理属性で大ダメージをあたえてくる。だがすべてカウンターになって返されてしまい、私たちは無傷ですんだ。

「下手に食らうと大ダメージの上に封魔状態になってしまう。気をつけてくれ」

「なるほど、そうやって戦うのか」

「これだけじゃないから厄介なところだ」

リヒトさんはそういって前を見た。神薙のシャドウがなにやら呪文を唱える。

「サバトマ、仲間を呼ぶスキルだ。月森くんたちは先に仲間を叩いてくれ」


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