ペルソナ4 14
「白昼堂々玄関から入ってきた犯人。目撃者がないか警察はすでに洗っているはずだが期待はできないはずだ。訪問者を偽ったにしても身元がすぐ割れるような格好はしていない。あるいは訪問者として違和感がない格好。たしかなことは、次々にマヨナカテレビの世界に人が行っているのは偶然ではない。こっちにいる誰かがさらってテレビに放り込んでいることだけだが、これは証明できない殺人だ。でも、前例はある」

「え」

「少なくても、この国はたびたび《力》に目覚めた人間が起こしてきた怪奇事件に遭遇し、一応の決着をみてきた。この街の警察にノウハウがあるかはわからないが、前例はある」

「リヒトさん......あなたはいったい」

「僕は10年前のある事件からペルソナ使いになったんだが、ネンフィアスキャンダルという言葉を調べてみるといい。今なら携帯で調べられるだろう」

「あ、この空間、電波たつんだ」

私も携帯で調べてみてわかったのだが、どうやらこの世界ではペルソナ絡みの事件がたびたび起こっていたらしい。

「ネンフィアっていう会社の日本支部代表が偽名だったっていう話ですか?」

「なんか、黒い噂が色々出てくるけど、ペルソナとなんの関係が?」

「日野は生まれながらのペルソナ使いで、家庭内暴力をする父親と空気の母親から妹を守るために殺害してる。だが、犯罪を立証できず事故死扱いだ。本人から聞いたから間違いない。色々あって、この赤の書とツイとなる黒の書に過去を改変する力があることに気づいて、全てをなかったことにしようとしたんだ。この時、原因不明の廃人化事件が多発したんだが、それは
ペルソナが魔晶化した鎌、グリムリーパーによりペルソナ使いからペルソナを無理やり奪取し、その無念を集めて、この黒の書を無理やり起動させようとしたから起こったんだ。僕はこの本を巡る争いの中でペルソナ使いになった。そして、どうして僕がここにいるかというと、グリムリーパーを使うシャドウが出現した、とイゴールから呼び出されたからだ」

スポットがイゴールにあたる。

「左様でございます。赤の書の持ち主に認められたリヒト様ならば、月森様たちの力になるのではないかと。グリムリーパーは我々の力の及ばない領域の力が作用していますのでな......」

「もしかして、黒の書ってやつがまた奪われた、とか?」

「いや、それはない。一応確認したが、黒の書は無事だ。僕たちが1番信頼している男......僕の親友で一緒に戦った仲間なんだが、そいつが今の管理者なんだ。大丈夫、心配いらない。でも、だからこそ困るんだ。なぜ今になってグリムリーパーをつかうシャドウが現れたのか、わからない。暗礁に乗り上げた矢先に僕は君たちとあったんだ。新たなペルソナ使いに。だからこそ助言ができたらと思っている。なにか気になることがあったら話してみてくれ。力になれることがあるかもしれない」

リヒトはそういって私たちをみる。

「ペルソナは1度目覚めると基本失われることはない。学生だけじゃなく、大人も犯人に入れた方がいい」

「なるほど......ありがとうございます」

とはいっても今のところ、犯人の手がかりはない。今までの被害者は山野アナ、小西先輩、そして天城。女性ばかりである。山野アナだけみれば容疑者は柊みすずだが、全国コンサート中でアリバイがある。元議員秘書の生田目太朗は議員を首になり、むしろ被害者だ。犯人が何人もいるとは思えないため、口封じの可能性が高い。今のところは、山野アナの事件に関係がある女性が狙われるということしかわからない。

「先回りできないかな」

「先回りか......そうだよな、さっき月森がいってた現行犯しかないわけだし......」

そうして浮かぶのは、マヨナカテレビの前に流れる犯行予告めいた映像だ。不鮮明だがマヨナカテレビの前に流れるのが重要なのだ。

「それも大事だが、相手はグリムリーパーを、君たちにけしかけているのはたしかだ。あれは本来自然発生するものじゃない」

「リヒトさん......あなたは1月頃に私と戦ったといってましたよね。まさか......」

リヒトは目を細めた。

「そのまさかだ。神薙晃くん、君はグリムリーパーを使う《コトシロヌシ》のペルソナ使いとして僕の前に現れた。あの時の君は強かったよ」

一言、リヒトはそういった。私たちが手も足も出ない《刈り取る者》、グリムリーパーを一撃で屠る強さがあるリヒトがいうのだ。

私は顔が引き攣るのがわかった。

「《コトシロヌシ》使いの神薙というペルソナ使いが八十稲羽市に現れた。これは警告だと思ったよ」

リヒトは教えてくれた。

《コトシロヌシ》は日本神話でよく知られている「国譲りの巻」で登場する。アマテラスが出雲のオオクニヌシに国譲りを迫った時、オオクニヌシは
「一人じゃ決められないから、美保ヶ崎に行ってる息子のコトシロヌシに聞いてくれ」と言う。
 
弟のタケミナカタ神は断固として拒否したのに対して、コトシロヌシ神はあっさりと国譲りを承諾。国譲りを迫られたときもノンビリと釣りをしていたことと、国譲り後に海にもぐって消えることから、七福神の「エビス様」、あるいはヒルコと同一視される。


オオクニヌシがコトシロヌシに重要な決定をゆだねたのは、コトシロヌシが出雲の地母神であるカミムスビ神の意志を尋ねるという儀式をしたからだ。

コトシロヌシは神の言葉を受ける依り代の神格化とされる。 コトシロヌシが国譲りの際に鳥遊び・魚遊びをしていたのは神事を指している。

国譲りの最後、タケミナカタがタケミカヅチの武力に屈した後は、オオクニヌシの子孫の先頭に立って、天津神には背かないようにしたという。

「つまり、《コトシロヌシ》は、八十神の代表にあたる神なんだ。そのペルソナを使うことの重大さがわかるだろう?ペルソナはその人の本質をよく表していると言われている」

それにだ、とリヒトは続けるのだ。

神薙とは、神の依り代、または神の憑依、または神との交信をする行為や、その役割を務める人を表す言葉だ。

神を祀り神に仕え、神意を世俗の人々に伝えることを役割とする。女性は「巫」、男性の場合は「覡」、「祝」と云った。

シャーマニズムによるシベリア、アメリカ原住民、アフリカなどにみられるシャーマンも同様である。

自らの身に「神おろし」をして神の言葉(神託)を伝える役目の人物を指すことが通例である。古代の神官は、ほぼ巫と同じ存在であった。祭政不分の社会であれば、彼らが告げる神託は、国の意思を左右する権威を持った。

神や精霊など、神界・霊界・自然界の超物理的な存在と交流する力または立場を持っている。この交流を交信ともいう。

祈祷などの手段で己の意識を神懸かりの状態(トランス状態の一種とも言われている)に置き、交信する対象の存在に明け渡すことで、対象の言葉(託宣、神託)を知ったり人々に伝えたりすることができる(伝えることを役割とする)。

即ち一種の超常的な力を持ち、超常的な存在と交信する能力があって、それを以て的確な答を神託を求める人々に返すことができると見なされている。

一方、神託を授けていた一部の巫は、もっと現実的な別の能力に優れていたらしいことが、最近の研究で指摘されている。それは即ち、情報収集力と、政治的視野に立った判断力である。

例えばギリシャのデルポイにおけるアポロンの神託は、古代ギリシャ世界では大変な権威を持っていた。そのためデルポイには各地から都市国家の使者を含む多くの人々が集まり、またそれを目当てに無数の民衆も集まっていた。

そして神託を下すアポロンの神官たちは実は、デルポイに集まる群衆から各地の情報や巷の噂などを収集し、それらを総合して独自に世界情勢を把握していた、という。

古代日本では邪馬台国の卑弥呼が巫女だったと考えられている。また、ヤマト王権でも代々、巫女たちが国家権力の一部になっていたとする見解もある。このように、祭政一致の古代においては、巫女が政治に参画していたとする説がある。

「さっきいったように、《コトシロヌシ》は神託を神格化した神だ。だから、今は違うかもしれないが、昔はそういった役職から生まれた一族なのかもしれないね」

「《ヒルコ》と同一視されることもある神さま......」

「シャドウのように目が金色だったから、なんらかの干渉を受けていたのはたしかだ。今の君のシャドウが《ヒルコ》でペルソナにならないなら、グリムリーパーによりペルソナの一部を奪われたからじゃないか?たとえ多重人格であろうと、並行世界の人間であろうと、その人の持つ根幹はそう変わるものじゃない。ペルソナとはそういうものだ。《コトシロヌシ》から《ヒルコ》に君の本質が変質しているということは、なにかあったんだろう。調べてみる必要があるね」


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