ペルソナ5 (ジョーカー+志穂+夢主 ED後@)
1年間の東京生活を終え、地元に帰ってきた来栖は、ふたたび転校という形で別の私立高校に入った。かつて通っていた高校は退学処分になっている。冤罪が発覚したとはいえ、当時のことを思い出すと元の学校に通う気にはなれなかったのである。とはいえ、全国ニュースで冤罪が発覚し、次期首相とまで呼ばれた男のスキャンダルの目撃者であり、被害者を助けようとした善良な高校生だと周知の事実となっている。いくら未成年を盾に匿名だとしてもかつての退学処分を食らった人間が1年で帰ってくるなど調べればすぐに分かってしまう。興味本位の視線が多い中、培ったライオンハートで来栖は三年生を迎えることになった。いまさら退学時にやめた部活を行う気はない。アルバイトにでも精を出すかとぼんやり考えながら挨拶を終えた来栖は、窓際の席に移動した。


「君は」

「久しぶりだね、来栖君」

『おー、マジかよ、杏殿の親友、志穂じゃねーか!』

「あはは、こっちでも黒猫つれてるんだね」

「ああ。それより、鈴井はもう大丈夫なのか?」

「うん、って言いたいところなんだけどね」


まだテーピングをしているのは、違和感があるからなのだろうか。懸命の闘病生活も甲斐あって日常生活が送れるまでに回復したと杏が喜んでいたことを来栖は思い出す。バレーがまたやりたいと思えるまではマネージャーをしているんだ、と彼女は近況を教えてくれた。一瞬、誰かわからなかった。トレードマークだったポニーテールをばっさりと切り、ショートカットになっている少女は、その笑顔でようやく思い出すことができた。鴨志田の度重なる体罰と性的関係の強要に耐えきれなくなり、自殺を試みた鈴井志穂、その人である。

「まだお礼をいえてなかったな、ありがとう」

「ううん、いいの。来栖君が、ううん、来栖君達がやってくれたこと、私、わかってるから」

志穂は笑う。お礼を言うのはこちらの方だと。暴力事件という冤罪を証言できるのは、某政治家に楯突くことができなかった、来栖に助けを求めていながら手のひらを返して罪をなすりつけた女性しかいない。1年も前の事件の関係者を見つけ出し、名前を調べ、どこに居るのか調べてくれたのはほかならぬ彼女なのだと杏から来栖は聞かされた。実際に裁判の証人としてきてくれるよう仲間達が懸命に説得してくれた。

「でもまさか、同じ学校だとは思わなかったな」

「ほんとだね」

『よく考えたら、あの女性がどこに居るのかわかるってことは、暁の地元にいねーとできねえよな。なんで気づかなかったんだろ』

モルガナのぼやきに来栖はなるほどとこっそり同意した。

「今年一年よろしくね」

「ああ、よろしく」

隣の席なのも何かの縁だろう。

「髪、切ったのか?」

「うん、ここに来るときに思い切ってね。変かな?」

「いや、似合ってる」

「ありがとう」

ふふ、と志穂は笑う。周囲の視線が集まっていることには志穂も気づいているだろうに、戸惑う様子もない。どうやら鴨志田の件について、だいぶ落ち着いて考えることができるようになったようだ。もしくはこの学校だと事情が事情である、伏せているのかもしれない。来栖は志穂との関係を近くの男子に問われたとき、慎重に言葉を選ぶことにしたのである。

志穂に誘われ、中庭にやってきた来栖は近くのベンチに座った。

「あのね、杏に聞いたの。来栖君たちが怪盗団を続けようと思った理由って、バイキングに行ったからってほんと?」

来栖は静かにうなずいた。

「あのとき、ほんとはやめるつもりだったんだ」

「そうだよね、あの人のことは、うん、来栖君も退学かかってたもんね。わかるよ」

「打ち上げで、あのビュッフェ食べに行って、俺は獅子堂に会った」

「そうなの?!」

「ああ、今思うとすごい偶然だと思う。杏から聞いてるんだってな、メメントスとか、シャドウとか」

「うん。来栖君が改心させてくれたの、そのおかげなんだよね」

「あのとき、同じホテルで獅子堂は賛同者にメメントスやシャドウについて話して、悪用することを提案したらしい。その帰りのエレベーターで俺たちは偶然会ったんだ。正直、あれがなかったら、俺は怪盗団を続ける気にはなれっこなかった」

「そうなんだ・・・・・・なんだか不思議」

「もともとは、杏と一緒にいくはずだったんだろ?」

「うん。私がこんなことになっちゃって、でもキャンセルの日はすぎてて。代わりに来栖君たちと行ってくれたんだね。そっか。そうなんだ」

「そういう意味では、鈴井は俺達の後押しをしてくれたのかもしれないな」

「そう言われるとなんだか照れちゃうな。ありがとう、来栖君。貴方がきてくれて本当によかったよ。できることなら、もっとはや、ううん、ごめん。そんなこと言っちゃだめだよね。忘れて」

「ああ、聞かなかったことにする」

「ありがとう。話、聞いてくれて」

「話くらいならいつでも」

「ありがとう、ほんとに来栖君は優しいね。杏の言ったとおりの人で安心しちゃった」

ふふ、と志穂は笑う。

「今度ね、杏と一緒にご飯食べに行くの。来栖君達と一緒に行くのも楽しいかもしれないね」

「そうだな」

「来栖君て甘いの好きなの?杏と一緒に行ったんだよね、ビュッフェ」

『杏殿ほどスイーツ三昧はワガハイもうゴメンだぞ、暁。ワガハイ、寿司がいい、寿司!』

「どうしたの?」

「モルガナは寿司がいいみたいだ」

「あははっ、その子、モルガナっていうんだね。そっか、お寿司かあ。それならバイキングの方がいいかもしれないね。お金たくさん貯めなきゃ」

たわいもない話をしながら、来栖たちは昼休みを終えた。休み時間、昼休み、志穂の周りには友達が絶えない。来栖との関係を勘ぐるからかいに彼女は違うよと笑いながらやんわりと否定する。来栖君に迷惑だからやめてと言いながら、ごめんねという視線を投げてくる。来栖の中のイメージが少しずつ本来の彼女で上書きされていくのを感じながら、来栖は初めての授業になれるべく教科書に目を通した。

放課後になり、志穂は同じジャージ姿の女子生徒に呼ばれて教室を出て行く。今日はバレー部の交流試合があるらしく、その準備にかり出されるそうだ。じゃあね、また明日、と手を振りながら屈託のない笑顔を浮かべて去って行った志穂を見届けて、来栖はどうすべきか考える。SNSには転校初日の感想を今か今かと待っている元メンバーの面々がいる。来栖は杏にだけメッセージを投げた。

『おどろいた?』

杏の顔文字は笑っている。

『知ってたのか』

『いつ気づくかなーって思ってたけど、全然気づかないんだもん。面白すぎていうタイミング逃すって普通!暁もモルガナも全然気づかないんだもん』

『モルガナに言われて気づいた』

『やった、ジョーカーの裏をかけたね!』

得意げな顔文字が踊っている。

『ほかのやつに言っていいか?』

『うん、いいよ。大丈夫。というかみんな知ってる。あの人説得するのに、一番頑張ってくれたのが志穂だったから』

『そうなのか』

『うん』

『わかった』

とりあえず来栖は今の今まで誰も教えてくれなかったことを嘆く文面を投下する。タイムラインがあっという間に流れていく。みんな、今か今かと心待ちにしていたらしい。どーだ驚いたかと聞いてくるほほえましい言葉達が並ぶ中、来栖はチャイムがゆるやかな下校を促すことに気づく。担任から呼び出されていたはずだ、そろそろ行かなくては。また後で、と投げる前に、まーた転校初日に遅刻か?と共犯が冷やかすコメントが表示されたので、来栖は無言でこないだ約束したゲームの貸し借りをなしにすると無慈悲に告げることにした。ぎゃーっとスタンプが乱舞する中、来栖はスマホを切る。そして教室を後にした。

今回の担任は、なんというか生徒と仲良くなろうとするあまり、距離が近すぎてなめられている先生だった。ちゃん付けだったり、あだ名だったり、その地方特有の方言をよくネタにされるものの、慕われているけれども尊敬はされていないことがよく分かる先生だった。これが女性ならいうことなかったのに、とモルガナがぼやくのを心の中で大いにうなずきながら、教室を後にする。志穂に続いて、来栖である。訳ありだらけの生徒だから心配性気味の先生はこれからやっていけそうか、なにかあったら相談にのるから、と保健室の先生でも言わないような言葉をかけてくる。今までの待遇を思うとむず痒くなるが、これもそのうちうざくなってくるに違いない。

来栖が校門に出ると、志穂が違和感の残る足を気にしながら歩いているところだった。友達だろうか、マネージャー姿の女子生徒が鞄をもって隣を歩いている。親しげに会話している。さすがに邪魔する気にはなれず、行き交う生徒の中に紛れていこうとした来栖だったが、校門前に止まっていた車をみた志穂が手を振るのが見えた。ぺこりと頭を下げた友達と志穂が会話をしている。窓が開く。若い男性だ。志穂とどこか似ている。親戚だろうか。突然の転校だ、両親の仕事を考えると親戚の元でお世話になっているのかもしれない。志穂はどこかうれしそうに笑っている。男性恐怖症になっていないか、心配だったが大丈夫そうだ。横切ろうとしたとき、志穂に声をかけられた。

「あ、来栖君。帰り?」

「ああ、そうだけど。鈴井も?」

「うん」

「志穂、友達かい?」

「うん。ほら、前言ってた、学校の友達。来栖君」

「ああ、あの」

そこにいるのは担任くらいの男性だった。

「ああ、君が来栖君か。志穂や杏ちゃんから話は聞いてるよ。学校に通えるようになってよかったね」

「ありがとうございます。えっと?」

「ああ、ごめんごめん。僕は御子柴良紀、志穂の従兄弟なんだ。今、志穂は僕の実家から学校に通っててね。ちょうど近くを通りかかったから。どうする、志穂。乗る?」

「いいの?」

「いいよ、今日はノー残業デーだったからね」

「やった、ありがと」

「来栖君もどうだい?あっちの高校通ってたなら、こっちは結構遠いだろ?」

『こりゃ杏殿志穂の親戚だからって、結構暁やワガハイのことしゃべっちまってるなこれ』

来栖は苦笑いした。

「ありがとうございます」

「ああ、どういたしまして。これも何かの縁だ、志穂と仲良くしてやってくれ」

「はい」

来栖と志穂を乗せた車はゆっくりと走り出したのだった。


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