アンケート@ジョーカー夢(連載とは別の男主)
『ここを通らんとする者は何者ぞ。名を名乗らぬ者を通すわけにはいかん。汝の名を名乗れ』

暗闇に突如出現した男がこちらを見つめている。SNSでよく使っているハンドルネームを入力した。

『ふむ、汝は御子柴良紀というのか。良紀よ。汝は何を望む?人の欲望というものは際限がない。ここでの有り様を定め、扉をくぐるがいい。そちらの魂の有り様と矛盾しないようにすることだ。仮初めとはいえ扉の向こうに広がるのはもう一つの現実だ。最初は小さくともやがて歪みは大きくなり、果てに待つものはなにか、汝はよく知っているはず。さて、汝の仮想体は何を望む?』

表示されたメイキング画面を吟味しながら入力する。決定したことを伝えると、相違ないな?と問われる。うなずくとようやく少年にも光があたった。

20XX年某日、某会社から発売されたVRゲームの発売日である。良紀はベータテスターの応募から漏れてしまったものの、タイトルが発表されてから延期を繰り返すこと3年、ようやく日の目を見たこのゲームの情報収集はかかさなかった。起点は真女神転生でも、プレイヤーの行動により世界がほかの派生作品に分岐し、ストーリーが変化していくことが告知されている。できるなら攻略サイトを見ながらプレイしたいがVRゲームである以上そうもいかない。ある程度の事前情報はあるものの、プレイ初日である。ベータテスターからの積極的な布教以外の情報はない。

『こちらの世界に来ている間、悪魔に体を乗っ取られぬよう気をつけるがいい。それでは扉をひらくぞ。こちらの世界で汝の最後の時が、その魂の安らかであることを祈っている』

カタストロフが起きること前提の不吉な言葉を最後に、良紀はゲームを開始した。

このVRゲームは、表の顔と裏の顔がある。スタート時にはプレイヤーそれぞれに拠点となる場所があり、ストーリーの進行によりその拠点は変化することもあるし、しないこともあるという。良紀は高校生を選んだためか、どこかのアパートの一室にいるようだ。テーブルの上にあるのは現代人には欠かせないスマホなどが入った鞄。クローゼットにはたくさんの制服が収納されている。まるで制服マニアのようだが、ひとつ選ぶと消えてしまうらしい。スマホを確認するとアプリが入っている。目玉のような奇妙なもの、自分の死に顔が見えるという曰く付きのアプリ、ある掲示板発祥の悪魔育成ゲームDDS、某会社ゲームでみたことがあるものがいろいろと入っている。遊び半分で死に顔アプリを起動すると、今日の朝学校に行くとパレスに巻き込まれて、鴨志田率いるシャドウに処刑される様子が映っていた。メールを確認すると高飛車な女子高生から担任の先生を見舞いにいくから来いと場所と時間が指定されている。これはDDSで悪魔を召喚できるようにしてからいけということだろうか、それともペルソナに目覚めろということだろうか。これもまじめに学校に登校するか、サボって担任の先生の見舞いにいくかで世界が分岐していくのだろう。とりあえず、派生作品に世界が分岐したところでほかのアプリが使えなくなるわけではないらしいので、DDSで悪魔を一人や二人仲魔にしておく方が無難だろうか。

制服を選ぶのは明日でもいいはずだ、今日は日曜日だとスマホにかいてある。

良紀は鞄を手にあたりを散策することにした。DDSを起動する。どうやらチュートリアルのようだ。カメラを起動しあたりを探ってみると、反応がある。そこに向かうと女神転生シリーズではおなじみの悪魔、ピクシーがいた。

「はあい、こんにちはぁ!」

うふふふ、と彼女は宙返りする。悪魔はAIが設定されている。対応を間違えると理不尽な目に遭うのはお約束だ、ここは友好的にいくべきだ。

「アタシに話しかけてくれたニンゲンはあなたが初めてだよー!ねえね、もしかしてサマナーってやつ?」

うなずくとやっぱりねとうなずいた。

「アタシ、とーきょーにくるの初めてなんだ。よかったら案内してくれない?」

肯定するとうれしそうに彼女は笑う。

「えへへ、ありがとー!大好き!ねえねえ、一緒に行ってもいーい?一緒にいきたーい!これからどっか出かけるんでしょ?アタシね、甘いものがたべたい!」

それなら近くを探索するついでに買い物をしようと提案すると彼女はうなずいた。

「いつもなら、もっと強くなったら話を聞いてあげるんだけどねー!今回は特別だよ!アタシ、ピクシー!今後ともよろしく!」

きらきらとした粒子をまといながら彼女はスマホのDDSに収まった。傍らにはマグネタイトが表示される。ピクシーを召喚し続けるには、この数値が0にならないようにしないといけない。DDSが設定を求めてくる。どうやらスマホのナビとして設定できるようだ。

プレイヤーの拠点はプレイヤー専用の住居であり、悪魔を召喚しても問題ないが町中で召喚していると霊感が強かったり別の能力に特化しているキャラに探知されると聞いていた良紀は出さなかった。なにせまだレベルは1である。良紀は無線LANのヘッドホンをつける。ピクシーとの会話は聞かれたらまずい。

『ねえね、名前は?』

「良紀、御子柴良紀だ。よろしくな』

『良紀ね、おーけい!こっちこそよろしくー!さあて、さっそく甘いものもとめてれっつらごー!』

良紀は周囲を探索することにした。ピクシーがみせてみせてとうるさいから、道を覚えることもかねて写真を撮りまくっていると、オートモードに入っているDDSがニュースを垂れ流してくる。プレイヤーの行動指針にもなる情報だ、注意しなくてはいけない。有力政党の時期首相候補としていくつかアトラス作品で登場する有名どころがならび、候補者選びは難航するらしい。かと思えば、悪夢にうなされて突然死する男性が急増中だったり、謎の猟奇的な事件が起こって井の頭公園が封鎖状態になったり、新しいエネルギーとして発電所ができたというCMが流れたり忙しい。しばらく歩いていると、生活の拠点になりそうなスーパーがみえてきた。

『あまいもの!あまいもの!今日のアタシはプリンな気分!』

(コンビニでパフェもあるけどどーする?)

『なんですとっ!?』

(でも遠い)

『うっぐ、しかたない。ピクシーさんはプリンで我慢する!でもでも、明日は良紀学校いくんでしょ?コンビニでパフェ買ってね!』

(わかった)

こいつ直接脳内にを地で行くピクシーに苦笑いしつつ、良紀はスーパーに向かう。

「あの、すいません」

声をかけられた良紀は足を止めた。

「このあたりに佐倉惣次郎さんのお宅があるって聞いたんですけど、ご存じじゃありませんか?」

『うわわわ、良紀、良紀、すっごいよこの子!すっごい無駄に色気があるのに、めがね一つで相殺しちゃってる!何この子怖い!っていうか、良紀に話しかけるなんて、あっやしー!もしかしてどっかの悪魔が人間に化けてるのかなあ?』

ピクシーがきゃいきゃい騒いでいる。良紀は思わず笑ってしまった。あの?と戸惑いがちな少年に、良紀はごめんごめんと謝りながらヘッドフォンを肩に置く。どうやら聞いていたもののせいだと勘違いしてくれた少年はスマホの地図アプリを差し出した。ここら辺は道が入り組んでいる。わからないのも無理はない。良紀も写メをとりまくらなければ迷子になっただろう。

「佐倉さんの家なら知ってますよ、こっちです」

「え、あ、ありがとうございます。でもそんな、」

スーパーの袋をみて、申し訳なさそうに少年は肩をすくめる。良紀はヘッドフォンをしながら少年を案内し始めた。

「いいですって、俺、帰る道一緒なんで。ここらへん道が入り組んでるでしょう?何度も聞かないといけないから二度手間どころじゃないし、そっちの方が早いですよ。いきましょう」

「そうなんだ・・・・・・ありがとうございます」

『良紀、やっさしー!さっすがはアタシがえらんだサマナーね!』

(褒めても明日はジュース追加するくらいしか出ないぞ)

『それでこそ良紀だよね!さすがはふとっぱらあ!』

ピクシーの鼻歌が聞こえてきそうだ。

やがて佐倉という表札がかかれた家が見えてくる。ありがとうございました、と少年はいう。どーいたしまして、と笑った良紀はきびすを返した。あれ、という声がする。当然だ、アパートは真逆の方向である。ルブランの近くなのだ。呼び鈴を鳴らしたものの、出てくる気配がない家主に少年は困惑したまま立ち往生である。困ったようにあたりを見渡す。良紀がまだ近くにいることに気づいて、あわてて走ってきた。

「あの、すいません!」

「あれ、どうしました?」

「佐倉さん、留守みたいなんです。どこにいるかご存じないですか?電話したら、ルブランにいるって留守電があったんですけど、今、その、スマホの電源がきれちゃって」

恥ずかしそうに少年は真っ赤になっている細い線が表示されたスマホを見せてくる。良紀はうなずいた。サマナーにとっても生命線となる悪魔召喚機であるスマホが使えないのは死活問題だ。気持ちはよく分かる。うんうん人助けのあとの甘いものは格別においしいもんねとピクシーはトンチンカンな賞賛を送った。

「ああ、ルブランですか?はい、知ってますよ。喫茶店なんです。ついでだから案内しますよ。俺の家、実はそっちの方が近いんで」

「ほんとですか?!ありがとうございます、何度もすいません」

「いえいえ。ルブランもわかりにくいところにあるから、初めてきた人なら迷っても仕方ないですよ」

それじゃあ、行きましょうか、と良紀は促した。

今回はペルソナ5のルートにいってみよう。



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