ペルソナ5 夢主のコープ8-2
大聖堂の周りを囲う塀をよじ登り、真っ白な建物の周りに施されたきれいな装飾をよじ登る。塀の遙か下には、二人一組で歩いている真っ白なローブを着た教徒とおぼしき人間がみえた。アキラは苦い顔をする。どうしたんだ、ときいた来栖に、アキラは腕にある端末を渡してくる。

そこには悪魔が表示されていた。

アークエンジェル

下級第二位に位置する天使。なお、天使の階級は天使と大天使にわかれるもの、さらに細かく分かれるものとに分類される。前者は名前のある有名な天使はすべて大天使とされ、それ以外はすべて天使という位置づけだった。しかし、後の世でつくられた分類では、大天使というくくりでしかなかった天使がさらに細かく分けられた階級に割り当てられたため、役職と地位が矛盾している。そのためどういった解釈がなされるのかで今でも議論がわかれている。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四人ももとは大天使(アークエンジェル)であった。アークエンジェルの役目でもっとも重要なのは、神の意志を使者として伝えるということである。いわば人間と神の意志を使者として伝えるということである。いわば人間と神の間の橋渡し的存在であり、天国における戦士であり、悪魔たちや身の軍勢と戦う際にはアークエンジェルらが点の軍勢を率いた。

「ここまでメメントスが浸食しちまってるんだ。まともな人間はいないって考えた方がよさそうだぜ」

「倒すか?」

「いや、やめておこう」

アキラは不安げにあたりを見渡す。

「賛美歌が聞こえないか?」

「賛美歌?」

「なにも聞こえないけど」

アキラは唇をかむ。

「アキラは聞こえるのか」

「ああ、聞こえるよ。おかしいな、あのときは聞こえなかったのに、どうして」

「落ち着け、アキラ。どっちから?」

「あっち」

指さす先には、おそらくミサを開くと思われる大聖堂の一番大きな建物が見える。ステンドグラスがみえるから、様子をうかがうことはできそうだ。大聖堂の見張りは異様なほど厳重である。メメントスに取り込まれたことで、シャドウが出現し、そこにつられてやってくる悪魔を警戒しているのか。それともシャドウという最上級のマグネタイトの塊を補給するために目を光らせているのか。さすがにそこまではわからない。これまで培ってきた怪盗団としての経験則から、見つからないルートを的確に見つけ出し、アキラたちは目的地を目指す。やがて大きな鐘が設置されているメインの建物の死角になるところに入り込んだふたりは、そっと中の様子をうかがった。

ステンドグラスは、文字を読めない人々に信仰を伝えるために設置されているため、モチーフとなる神話がわからないと意味がわからないただのきれいなガラス細工の作品に過ぎない。だが厳格にわけられた色、描かれている花ひとつに込められた意味、そういったものをひとつひとつ拾い上げていくことで、同じガラス細工でも受け取る情報はすさまじいものとなる。かつてそういった環境にいたためだろうか、アキラは置かれているステンドグラスの意味をひとつひとつ読み取ることができているようだ。聖書の有名な一場面が多いのだが、そのうち1つを見て、アキラは歩みを止めた。

「どうした?」

「これだけ違う。初めてみたな、こんなデザイン」

幼少期にみた記憶である。8年もたち、あたらしいものが加わったと考えてもいいが、はめ込まれているガラスはほかの作品と古さは変わらないように見える。

「これは天使?」

「でも羽が黒い」

「となりにいるのは女の人だな、これ」

「たぶん、ミサ?いろんな人がいるしな、うん。でも、着てる服が」

「賛美歌?」

「なんでそう思うんだ?」

「だって、これ、ここに」

アキラが手を伸ばす先にはなにか外国語の言葉が彫られている。英語ではないがアルファベットが使われている。ラテン語だろうか、それとも古い英語圏の言葉だろうか。わからないものの、アキラがいうには見たことがある単語だという。小学生のころ、お姉ちゃんと一緒に行ったミサで配られたひらがなの歌詞がついていた紙にはこの文字があった気がするという。

「とりあえず、のぞいてみようぜ」

「そうだな」

来栖に促され、アキラは立て付けが悪くなっている窓のひとつをあける。ここでようやく来栖とモルガナは女性の歌声を聞いた。アキラがいっていた賛美歌とはこのことだろうか、どうしてアキラにだけ聞こえたのかはわからないものの、背筋が寒くなる歌声だと来栖は思った。ベルベットルームでは、慰問にきているオペラ歌手がスピーカーごしにきれいな旋律を聴かせてくれた。牢獄に押し込められてはいるものの、彼女の歌があることである程度正気を保てている部分はあるのだ。イゴールとの対面はいつも鉄格子ごし、双子の看守は見張り、つめたくて狭い牢獄で、足かせをつけられ、囚人服を着せられている来栖にとっては彼女の歌だけが正常を保ってくれていた。それとはあまりにも落差がある。たしかに美しい旋律だ。だが、こう、心の中が塗りつぶされるような、ざわざわとしたものがこみ上げてくる、そんな不愉快な違和感と同居している、そんな音色だった。アキラはやっぱりすきではないようで、眉を寄せている。モルガナはうーん、と首をひねる。なにがこんなにいやなのか言葉に説明できない。アキラたちは様子をうかがう。

「あれは、」

「知ってる人か?」

「ああ、僕がお姉ちゃんといってた教会で、賛美歌を歌ってた人だ」

「じゃあ、やっぱりこっちに越してきたのか」

アキラはためいきをついた。

「違う、そうじゃない。いっただろ、モルガナ。ここにまともな人間は誰もいないって」

「じゃあまさか」

「3年前、僕たちの手で倒した悪魔の一人だ。でも、悪魔は本体をたたかないと分霊がたくさん生まれるから正直きりがない。本体が死んでも分霊はしなない。だから、彼女は分霊だと思う。本体は倒したはずだから」

「あんなにきれいな人なのにか」

「違うぞ、モルガナ。ここにはきれいな人しかいないんだ」

「そ、そういわれるとなんか怖くなってきたな」

どうやらミサの会場は戦闘が行われたらしい。会場はあらゆるものが破壊され、壊され、そしていろんなものが持ち去られている。おそらくここで悪魔討伐隊の作戦は決行され、誰もいないということはすでにいろんなことが終わったあとなのだ。隊員を見つけることはできないが、別のところにいったのだろうか。いやな予感がよぎるたびにアキラは必死であたりを見渡す。

白い独特の形状の衣装に身を包んだロシア人の女が賛美歌を歌っている。ドアが開いた。警備にあたっていた男女が入ってくる。この建物を警備していた幾人も入ってくる。どんどん並んでいく白いローブを着た人々。
だれも何も言わないのがただただ恐ろしかった。そして賛美歌がやむ。

そしてアキラと来栖、そしてモルガナは異様な光景を目撃することになる。

それは突然ロシア人の女の前に出現した。アキラたちが必死で討伐しようとしていた、魔人が生まれる卵である。白いローブを着た人々はそれをあがめるように恭しく礼をした後、ひとり、またひとり、と囲っていく。ふたたび女が歌い出す。

「どくどくいってるぞ、あれ。やばくないか」

モルガナは思わず身構える。

来栖は強烈なめまいに襲われた。恐ろしいほどの静寂があたりを包む中、巨大な繭が巨大な繭の鼓動がどんどん大きくなり、何かが産声をあげた瞬間が浮かんでしまった。アキラを探してあの巨大な繭を引きずりながら這い回る女がいたことを思い出してしまった。大丈夫か、と心配そうにのぞき込むアキラとモルガナに、気にするなと笑った来栖は冷や汗をぬぐう。その直後だ。

強烈な光があたりを包み込む。

すべてが白に塗りつぶされる。

視界が開ける。

「アキラ、どこ、アキラ」

「おねえ、ちゃ、」

ありし日の姉の声がする。アキラはひどくぐらいついたようだった。


prev next

bkm
[MAIN]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -