ペルソナ5 ジョーカー夢
『来栖君、悪魔討伐のアルバイト、いつごろ行ける?』

『今忙しいんだ、ごめん』

『わかった。じゃあ、来月にしよう。シフト期限金曜だからそれまでによろしく』

『了解』

来栖の予定は早めに予約しておかないと、あっというまに先約で一杯になってしまう。優先順位は女性陣、怪盗お願いチャンネルのクエスト、多すぎる趣味、そして男性陣。女性、とりわけ怪盗団の活動に重要な人物だとかこつけて、連日連夜いろんな年上の女性と会っているとは竜司のタレコミだ。誰が本命だ、とモルガナがちゃちゃを入れても、さあ?と笑うだけでなにもいわないものだから、彼らの間では来栖は女好きという暗黙の了解が生まれていた。こっちが策を講じないと平気で放置を決め込む厄介な友人に、祐介や竜司は寝る寸前を見計らって、嫌がらせのようなタイミングで遊ぶ約束をぶっ込むそうだ。数日続けばたいていは音を上げた来栖が渋々応じてくれるという。アキラもそうした方がいい、と提案されたが、今のところ実行したことはなかった。



アキラが来栖にメッセージを送るのは、悪魔討伐のアルバイトの日だ。怪盗団の実力をみるにはリーダーである来栖に相談した方がいいとの判断である。悪魔討伐のちょっと危険なアルバイトの誘いをしたとき、夕方から夜にかけて時間が拘束されるから、真っ先に予定を入れる。だから1ヶ月前に決めてしまおうと提案したのは他ならぬ来栖だ。もちろんアキラはそのやる気を感じて快諾した。定期的に怪盗団のペルソナの成長具合を確認するには、毎日会うより期間をおいた方がいい。怪盗団がもっとスケールの大きい巨悪を求めており、その情報ルートとして悪魔討伐隊であるアキラを期待しているのは知っている。なら、それに答えるのが筋というものだ。


なんとなくメッセージのやりとりと眺めてみる。代わり映えのしない内容だ。アルバイトの内容、待ち合わせ、依頼人、参加するメンバー、打ち合わせ、交わす回数こそ多いが怪盗団と協力者のやりとりだ。そういうスタンスなんだから今更である。

とはいえ、さすがになんとなくルブランに顔を出しただけで驚かれたのはショックだったアキラである。3年前のあの日から、仲のよかった同僚、もしくは30以下の若い先輩たちは半分以下になってしまった。仕事の量は変わらないのに人員は増える気配がない。当然仕事に忙殺される。ただでさえ、かつての同級生たちと会う機会に恵まれない特殊な仕事だ。もう2年もたつと大学に進学した友達とは話題が会わなくなってしまうし、高卒組と遊ぶ機会があっても気を張っていないと世間との接触が寸断されて数ヶ月がざらな仕事だ。おいてきぼりを食らってばかりいる。話すにしても特殊すぎて話すに話せない。自然と交流は減ってしまい、たまに予定があった友達、オフが重なった同僚と遊ぶくらいだった。

せっかく悪魔について知っている子たちと知り合ったのだ。いつまで怪盗団をするのかはしらないが、もうちょっと仲良くなってもいいかもしれない。たまには誘ってみるか、とスマホを眺める。

『ついでに空いてる日、教えて。どっか行こう、みんなで』

そういえば最近遠くにいってないなあ、と思いながら愛車を添付する。なんとなくノリで投げたメッセージである。ものの数秒で既読がつく。反応はやいなあ、と笑っていたアキラはまさかの電話に戸惑いを隠せない。え、何で電話、と動揺するアキラに、当たり前だろ、と来栖はうれしそうに笑った。

「大げさすぎるだろ、来栖君」

「どこがだよ。タイムラインは見てるのに反応ないし。映画とか、遊びにいったとか、ぜんぜん食いついてこないから、興味ないのかと思ってた」

「いや、反応してるだろ」

「アキラもいきたいって?いったことないだろ。どっか行こうって今日が初めてだ」

「あのさ、仕方ないだろ、気軽に遊べないのは。僕の仕事はシフト制だし、悪魔が出たら非番だってすぐ動員かかるんだ。振り替えなんて死んでるし」

「俺たちがパレスを消したらオフの日も長くなるっていったのは、アキラだろ。でも反応ないだろ、いつも最後にちょっと顔出すだけだし」

「君たちのやりとりが面白いから、つい読んじゃうんだよね。というか、タイムラインの流れが早すぎるんだよ。追いかけてるだけでもう話終わってるし。明らかに授業中にやってるだろ」

「あれで早いとかアキラ、ほんとに18?」

「う、うるさいなあ。僕以外はみんなガラケー世代のおっさんばっかりなんだよ!だいたい寮の電波が死んでるんだ、察して」

「え、今、寮からしてる?俺たちが来たとき、圏外だったけど」

「当たり前だろ、部外者が気軽にスマホ使える部隊がどこにいるんだ。僕たちの敵はスマホ使って悪魔召喚するんだよ?」

「あ、そっか」

「たまにそういうとこ抜けてるよね、来栖君て」

「うるさいな」

すねたようにつぶやく来栖にアキラは笑う。

「じゃ、みんなの空いてる日、聞いといてくれるかな、来栖君。僕の車でどっかいこう」

「いいけど」

「けど?」

「俺もアキラとどっか行きたい」

「え、男二人で?」

「男二人で」

「えー、やだな。なんで女の子じゃなくて男の子乗せないといけないんだよ」

「惣治郎さんと同じこというんだな、アキラ」

「え、ほんとに?心外だなあ、あの人昔は結構遊んでたってフロリダのマスターいってたよ。人のこといえないだろ、来栖君。君だって噂はかねがね聞いてるよ?」

「竜司か?祐介か?」

「早いね、察するの」

「どっち?」

「どっちもかな。だいたいさ、僕のやってる仕事考えてよ。女の子と会う機会が壊滅的に少ない上に、一般人の恋人作るの絶望的な職場だからね?ああもう、いっそのこと悪魔の恋人でもつくるかなあ」

「それだけはやめとけ」

「君にだけはいわれたくないかな」

「アキラって恋人ほしいんだ?」

「できたらね。楽しいなとは思うよ、想像だけど」

「いってて悲しくないか?」

「うるさいなあ」

「アキラ」

「なんだよ」

「今度のオフはいつだっけ」

「明後日」

「暇?」

「暇」

「なら、さっきの話、どこいくか考えとく。あとでメッセ送るな」

「え、マジで男二人で?あ、みんなで出かけるし、その下見でもする?」

「・・・・・・まあ、それでもいいか」

「なにその空白」

「なんでもない。こっちの話だ」


来月の下見として話が再開し、少し感じた違和感はいつしかアキラの中でなくなっていった。


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