アバター職人(遊作視点)
近くのコンビニで適当に済ませたあと、遊作はずっと地下にある隠し部屋で作業に没頭していた。


『あ、あのさー、さっきから何してんだ、playmaker様』


こちらに移動させた鍵付きのボックスからアイが声をかけてくる。付け替えたばかりの鍵、そして初期化したロボッピ。一連の流れ作業を強化ガラスの向こうから冷や汗でもかいてるのではないかという挙動不審ぶりで見ていたせいだろうか。微妙にアイの声はこちらをおそるおそるといった感じだ。今度はもっと複雑なやつにするか、と呟かれた言葉に、気づいてたー!?と叫んだのはいうまでもない。

命じてない領域まで掃除していたロボッピ。あれだけ騒がしかったのに、なぜか口笛をふくアイ。しかもちらちらロボッピを見ている。これはもう自供しているようなものだった。ロボットの反乱なんて一昔前のSFである。口癖の3つで推理を披露しながら、遊作はくそうとうめくアイをみてうっすら笑った。


「お前が食べたハノイの騎士のデータを解析してるんだ。手がかりがないかを探してる」

『ふーん?命を救ってくれた俺様へのありがとうも無しに?』

「うるさい」

『つめたーい』


音声を切ってやろうかと思ったがその手間すら惜しい。アイが取り込んだハノイの騎士のアバターを構成しているパーツやデッキ、デュエルディスクの詳細をひとつひとつ解析していく。サイバー犯罪では一級であるパーソナル情報にアクセスした遊作は、その中身を見て、やっぱりな、とつぶやくなり手を組む。


『ん?どーしたんだよ、playmaker様』

「予想通りハノイの騎士はAIだったみたいだな」

『そりゃそーだろ、あんときあの高さから落下したのにピンピンしてたんだ。しかも自爆装置まで搭載してたんだぜ。俺がハノイ以外の手に渡るくらいならって判断なんだろーよ』

「俺がデータストームに飲まれても平然としてたからな」

『あ、もしかして怒ってる?』

「お前はおしゃべりがすぎるな、音声を切るぞ」

『チュートリアル飛ばしたのはお前だろ、playmaker様』

「……」


遊作は目の前の画面に集中し始めた。しばらくは興味をひこうとあーだこーだ騒いでいたアイだったが次第に飽きてきたのかその瞼が閉じられる。スリープモードになられると解析がうまくいかなくなるため、遊作は仕方なく時々その無駄な会話に応じる羽目になったのだった。


『ダメっぽいなー、playmaker様』


キーボードを叩く手が完全に止まり、その文字列と別画面をにらめっこしながらなにも言わなくなってしまった遊作にアイが半笑いで問いかける。ジト目で睨んだ遊作だったが、これ以上進展は望めないようで面白くなさそうではあるが言葉短く頷いた。その通りだがお前に指摘されるのは気に入らないといいたげな眼差しに、アイはあいかわらず俺にだけ風当たり強いと愚痴をこぼした。こないだの鬼塚にはなかなか好感を抱いたようなのに、なんなんだこの差は。やっぱり人間は理解不能だと。興味なさげな返答をして、遊作は他の画面を検索し始める。


「今度はなにしてんだ?んん?アバター?成りすましには興味なさげだったのに、やっぱり気になっちゃうやつ?」

「違う。このパーツを他の奴らが使ってないか調べるだけだ。一致するなら製作者がハノイの騎士に提供した可能性がある。ほとんどないとは思うが、それがわかっただけでも収穫になる。ハノイの騎士の後ろ盾になるのがSOLテクノロジー社並みの財力がある証だからな」

『ふーん、そういうもんかねえ。ま、がんばれ』

「ああ、言われなくても」


遊作は淡々と返しながらネット上に氾濫しているハノイの騎士のアバターを調べていく。面白がってアバターやデッキに使用されたオリジナルのカードを再現したデータを公開している人間がいて、ダウンロードして使う人間がいて、動画や画像にあげる人間がいるのはネット社会ならではといえた。その中でも実際にスピードデュエルをした遊作にしかわからない条件に合致するものだけをピックアップしていく。音声環境、アバターに使われたパーツのカスタマイズにかけていそうな資金、そしてデュエルディスクの型番、あれだけのAIを搭載できそうなプログラム。アイのデータを解析して初めてハノイの騎士がAIだと知った遊作だったが、経験的に、そして直感的に、ハノイの騎士が本物か偽物か判断がついている。草薙にいわれて自分の特異な力を自覚したばかりだが、有効活用できるならするにこしたことはないのだ。


「……!」

『お?おお?いきなりどうしたんだよ、playmaker様!』


興味なさげに作業を繰り返していた遊作の目の色が変わったのだ?


「俺にも見せろよっと、検索!」


勝手に検索機能を使い始めたアイが遊作の調べているアバター製作者のページを表示した。


「おー!凄いなこの再現度!俺から見てもなかなかのクオリティだぜ」


それはハノイの騎士やplaymakerを再現したアバターの配布ページだった。運営にBANされても苦情は受け付けないのコメントは自信の表れだろうか。そのクオリティに比例する形でダウンロード数はこのまとめページの中でも上位に食い込むようだ。pv風にまとめられた動画の再生数も桁が違う。


『ありゃ?でも最近更新してないな、飽きたのか?』


ハノイの騎士のアバター公開後、更新が途絶えている。時々細部の調整をしているようではあるが。公開されているSNSをのぞいてみると、今は自分で考えたオリジナルのカードが思いの外評価が高かったため、そちらの製作にうつっているようだった。ハノイの騎士のアバターがよほどお気に入りなのか、ハノイの人というよくわからない愛称がつけられている。


キャラは、アイが食べてしまったあのハノイの騎士を元に再現されているようだった。


『で?どの辺が気になったんだ、playmaker様?』


食い入るようにそちらのカードの紹介動画までみ始めた遊作にアイが問いかける。


「最近、変わった特殊召喚のテーマ使う奴が増えただろ。元凶はこいつか」

『変わった……?あ、あー、あの?』


アイはすぐに気づいた。アイがデータマテリアルを解放してからヴレインズには5年ぶりにデータストームが発生するほどのサイバースの風が吹いている。運営にBANされてしまう危険性もあった。だがスピードデュエルは流行の兆しがあり、カリスマデュエリストが参戦を表明しはじめた時点で人々の熱狂に押され、運営も方針を転換せざるをえなくなったとされている。実際はアイをめぐる争奪戦が三つ巴であり、その部隊となるべく裏工作が進んでいるだけなのだがそれはさておいてだ。

最近、スピードデュエルやマスタールールでのデュエルに奇妙なスキルとそのスキルを前提としたオリジナルテーマが流行し始めたのだ。新しく魔法罠ゾーンの両脇を書き換えてしまうスキル。魔法罠の置けるスペースが圧迫されるが、その両脇においた専用カードのレベルの間の特殊召喚可能なモンスターを一気に並べるというとんでもない召喚方法だった。ペンデュラム召喚と呼ばれているはずだ。


『へー、こいつが。方向性は違うとはいえある意味天才かもな。なるほど、playmaker様、あれだな?戦いたくなったな?』

「なにを言って」

『口元がゆるんじゃってるぜ、playmaker様!』

「……それもある。だがそれより、俺が気になってるのはこのアバターの再現率だ。みろ、違うのはこいつのパーソナル情報だけだ」

『あっ……マジモン釣れちゃったやつだコレ!完全に同じコード使ってやがる!?』

「いくぞ、アイ。こいつはここのところ、このペンデュラム召喚のカードを配布しまくってる。なにか企んでるはずだ。いくぞ」


遊作はデュエルディスクにデッキをセットし、リングヴレインズに飛んだのだった。


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bkm
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