ユートのデッキに限らず、エクシーズに特化したデッキはコンボデッキの側面が強い。そのためキーカードがわかりやすい。これを通してしまうとほぼ負けが確定してしまう、あるいは相当苦しい状況に追い込まれるようなカードが存在する。コンボはカウンターに弱いのが当たり前であり、マストカウンターを見極められてしまうと致命的な影響を受けてしまう。投入されたカードすべてが戦力であるグッドスタッフが環境から排斥されて久しいハートランドでは、いかにキーカードを通していくかが課題だとユートは習ったばかりだった。
相手の行動を観察して、その対抗策を警戒することが勝利への道だと。
ただ、今日知り合った城前という決闘者が扱うガガガデッキというテーマを、ユートは正直把握できていなかった。地雷デッキ、初見殺しデッキだ、と本人がいうのだ、少なからずそういう側面に頼った部分はあるのだろうとは思っていた。城前はとても勉強熱心なようで、その入手の難しさ故に対策もまだまだされていないファントムナイツの微妙なかみあわなさと弱点を分かっていたらしい。その差がプレイングに露骨にでたといってよかった。墓地が肥えていない状態での展開の遅さはずっとユートが悩んでいる部分でもある。そこをピンポイントでつかれてしまった。
プロを志す養成所に通い始めた手前、正直面白くない。
「俺の実力をみたいと言ったのは城前だろ、ワンショットしてどうするんだ」
思わず文句も出てしまう。こちらの実力不足と知識不足が招いた部分もあるのだが、まだ小学生のユートはそこまで正直に認めることができない。ごめんごめん、と手を合わせて謝ってくる城前がいうには、いつになく手札がよかったらしい。これは狙うしかなかったと言われても困る。
「そう拗ねるなよ、ユート」
「拗ねてない」
「その程度なのかよ、プロ養成所って」
「そんなわけないだろう!」
反射的にユートは返す。大会で憧れている決闘者がいる。ずっと憧れている人がいる。ようやく所属しているプロ養成所の門をたたいて、試行期間が終わろうとしているのだ。まだまだ追いつくには時間がかかるけれども、いつかは同じ舞台に立ちたいと願ってやまない場所である。もちろん城前の口調から本気で侮辱しているわけではなく、ユートが不機嫌になってしまったから、奮い立たせようとしていることはわかる。それでも唇はとがってしまう。
「言ってくれると思ったぜ。あんなに楽しそうに教えてくれたんだ、そんなわけねーよな。じゃあ、見せてくれよ。ユートがそこで学んでること」
「ああ、もちろん。もう一回だ、城前」
「いいぜ、かかってこいよ。今度は事故るなよ?」
「だから手札事故じゃない!」
「だから、そこでムキになるのがそれっぽいんだって」
「ぐ」
たしかに初手で罠が固まっていることは否定できないユートである。城前のデッキがある程度わかったのだ、今度は負けたくない。そう思って始まった決闘は、先ほどよりターンが長引いた。
「俺はこの瞬間を待っていた!」
「なんだって!?」
「俺は手札から《幻影騎士団ダスティローブ》を召喚する!そして《影無茶ナイト》のモンスター効果を発動!レベル3のモンスターの召喚に成功した場合、手札から特殊召喚することができる!こい、《影無茶
ナイト》!」
「レベル3モンスターが2体!くるか、ユート!」
「ああ、何度も同じ手は食わない!俺はレベル3《影無茶ナイト》とレベル3《ダスティローブ》でオーバーレイ!こい、ランク3!《幻影騎士団ブレイクソード》!」
「きやがったな、ランク3のダイヤウルフ!」
「効果はしっているみたいだな。なら、説明は不要だな、城前。俺は《ブレイクソード》のオーバーレイユニットを1枚取り除き、モンスター効果を発動!城前の《No.39希望皇ホープ》と《ブレイクソード》を破壊する!」
「おっと、そうはいかねえな!おれは《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動!その効果は無効にさせてもらうぜ!」
「一度食らった手はもう通用しない!俺は墓地にある《幻影騎士団トゥーム・シールド》を除外し、城前の《ブレイクスルー・スキル》の効果を無効にする!」
「げっ、通っちまったか」
「さあ、一気に決めさせてもらうぞ、城前!俺は《ブレイクソード》の効果により墓地からすでに墓地にあった《サイレントブーツ》とエクシーズユニットだった《ダスティローブ》をレベル4にして特殊召喚する!そしてこの2体でオーバーレイ!こい、ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
ユートのフィールドには、エースが登場した。真正面からその勇姿をみることができた興奮を城前は隠すことができない。口上がないのはエクシーズ次元がまだ平和だからだろうか、それともユートがまだ口上を考えていないだけだろうか。それはわからないけれども、迫力ある雄叫びがあたりに木霊した。
「《ダーク・リベリオン》、そいつがユートのエースか!でも《幻影霧剣》で置物になってるとはいえ、おれの《ホープドラグーン》の攻撃力には及ばねえぜ!」
「ああ、たしかにそうだ。でも超えてみせる!《ダーク・リベリオン》のエクシーズユニットを2枚取り除き、モンスター効果を発動!《ホープドラグーン》の攻撃力を半分にし、その攻撃力分アップする!いけ、トリ−ズン・ディスチャージ!」
「おっと、そうはいかねえよ!俺は墓地にある《スキル・プリズナー》を除外して、効果を発動するぜ!もちろん対象は《ホープドラグーン》だ!こいつを対象として発動したモンスター効果は無効だ!」
「くっ、」
「あっぶねえ」
「まだ安心するのははやすぎるんじゃないか?」
「なんだって?」
「俺は言っただろ、城前。超えてみせるって!」
「へえ、じゃあ見せてみろよ!」
「まさか初めてのデュエルでここまで追い詰められるとは思わなかった。ここで決めないと俺は負けるな。でも俺は負けない!いくぞ、城前!」
「こいよ、ユート」
「俺は墓地にある《ダスティローブ》を除外してモンスター効果を発動!デッキから同名カード以外の《幻影騎士団》カードを1枚手札に加える!俺が手札に加えるのは、《RUMー幻影騎士団ラウンチ》だ!」
城前は目を見開いた。初めてみるカードである。漫画版のユートのカードが混じっていたりするから、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に知らないカードが出てくるとは思わなかった。これはやっと面白くなってきた。そう思った。
これまでのターンの流れで、幻影騎士団のカードを把握している様子が目立っていた城前が初めて狼狽えた様子を見たユートは、なんとなくうれしくなって口元をつり上げた。極端な話、ずっと詰め将棋をしているような気分だった。このターンでようやく流れを引き込むことができたが、それまではずっと城前がユートが苦手とするところで妨害や展開をぶち当ててくる。間髪でサクリファイスエスケープを決めたり、ワンショットキルを止めたりできていたが、ひやひやしっぱなしだったのだ。やっとつかめた運命の糸だ、逃す気はなかった。
「さすがに知らないみたいだな、城前。俺は《幻影騎士団ラウンチ》の効果を発動!このカードは自分フィールドにあるエクシーズユニットがない闇属性エクシーズモンスター1体を対象として、発動することができる!対象となったモンスターをランクが1つ高い闇属性エクシーズモンスターにランクアップすることができるんだ!俺はレベル4《ダーク・リベリオン》でオーバーレイを再構築!こい、ランク5!《ダーク・レクイレム・エクシーズ・ドラゴン》!!」
城前の目前に、見たこともない美しいドラゴンが飛翔する。城前は息をのんだ。
「《ダーク・レクイレム》は《ダーク・リベリオン》をエクシーズユニットとしているとき、効果を得ることができる。俺は《ダーク・リベリオン》を取り除き、モンスター効果を発動!《ホープドラグーン》の攻撃力を0にして、その分攻撃力をアップする!そして、俺は《D・D・R》を発動、除外されている《ダスティローブ》を特殊召喚する!さらに手札から2枚目の《サイレントブーツ》を特殊召喚する!2体でオーバーレイ!再び現れろ、ランク3!《ブレイクソード》!もちろん対象は《ブレイクソード》と《ホープドラグーン》だ!」
「くっ」
「そしてレベル4の《サイレントブーツ》《ダスティローブ》を特殊召喚し、2体でオーバーレイ!こい、ランク4!《ヴェルズ・タナトス》!さあ、これで終わりだ、城前!2体でダイレクトアタック!!」
「うわあああっ!」
城前の敗北を告げるブザーが鳴り響いた。
「あー、負けた負けた。楽しかったぜ、ユート」
ほこりを払いながら立ち上がった城前は、ありがとな、と笑った。さっきの何もできないままのワンショットの雪辱を晴らすことができたユートはうなずいた。
「《ダーク・レクイレム》と《RUMー幻影騎士団ラウンチ》か、初めて見た!なあ、どんなカードか見せてくれよ!」
「え?あ、ああ、いいけど。そんなに気になるのか?」
「当たり前だろ、知らないカードが出てきてテンションあがらない決闘者なんているのかよ?」
「まあ、たしかに」
城前のエクストラデッキから召喚されるモンスターは、いずれもユートがハートランドで一度も見たことがないモンスターばかりだった。どきどきしたのは事実だ。それと同じことを城前は感じてくれたらしい。《RUM−幻影騎士団ラウンチ》が出てきた瞬間から、城前のテンションがみるからに上がったのはよくわかる。ネットなどで調べたのに出てこなかったカードを相手が使ってきた瞬間の緊張感と好奇心がない交ぜになった感覚は、高揚感と相まって楽しいものになるのだろう。それなら、とユートは提案する。
「城前のエクストラ、見せてくれないか?《ホープ》と《ホープドラゴン》が気になる」
さすがにエクストラデッキをすべて見せてくれとはいえない。でも、デュエルで活躍したモンスターくらいならいいだろう、城前も同じこと言ってるんだし。城前はいいぜとうなずいた。そしてデュエルディスクからカードを2枚取り出し、差し出す。
「このナンバーは?これも名前なのか?」
「そうそう、ナンバーズっていうんだ」
「ナンバーズ、か。変わったテーマだな」
「テーマというか、シリーズというか、見ての通り99枚あるんだ。おれ、このナンバーズ集めてるんだよ。珍しいカードだからなかなか見つからないんだよな。もし見かけたら教えてくれよ」
「ああ、わかった」
「さんきゅー、助かるぜ。おれがハートランドにきたのは、このカード集めるためでもあるからさ」
「そうなのか・・・・・・なるほど。でもエクストラは15枚だろ?99枚は入らないんじゃないか?」
「だからさっき組んでたんだよ、たくさん」
「ああ、なるほど、そういうことか。あはは、大変そうだな、城前。がんばれ」
「おう、がんばる。さーて、どうするよ、ユート。いい子はおうちに帰る時間だぜ?」
「まだ決着ついてないのに帰るわけないだろ」
「よっしゃ、さすがはユート。言ってくれると思ってた。さあ、いこうぜ」
「ああ」
デュエルブースの独占をスタッフに注意されるまで、城前とユートのデュエルは続いたのだった。