パラレルアップデート 二日目
聞き慣れたアラームの音がする。いつもの場所を手探りするが、なぜかない。繰り返し起床を促してくるアラームに根負けした城前は、起きようと体を起こした。その瞬間に反転する視界。え、と思う時間もなかった。間抜けな音がひっくり返る。豪快に投げ出された城前は、そのまま冷たい床にダイブした。ばさりと上からふってくる毛布に視界を遮られる。強打してしまった体をさすりながら、いてててて、と毛布から這い出てきた城前は、ようやく目を覚ました。アラームは鳴りっぱなしだ。音を頼りにふらふらと立ち上がると、ずいぶんと離れた書斎らしき机に充電器がささっており、スマホは主の起床を待っている。ここでようやく城前は気づくのだ。ベッドから落ちたと。やっぱり柵がないベッドはだめだ、寝相が悪すぎる自覚がある城前は思うのだ。
くあ、と大きくあくびをしながら伸びをする。視界がいつもより低いのは、2×歳から縮んでしまったからに違いない。軽く体を動かしながら、城前はトランクの中を漁るのだ。昨日、九十九邸にお世話になるとわかってから、最低限度の生活用品は買いあさった。しばらくはこれでいけるはず。いくらお世話になるといっても、いつまでかかるか分からないし、なんたって異性が屋根の下にいるのである。さすがに洗濯物までお願いするのは気が引ける。たまったらまとめてやってしまえばいいだろう。寮では自分でやるのがお約束だったのだから。そんなことを思いながら、タンスからトランクからひっぱりだした服に着替える。城前が一階に降りると、すでに九十九一家はそろっていた。ここに遊馬がいればこれほど幸福な家庭はないだろうに、つくづく残念でである。そんなことを思いながら、城前は笑顔を作った。

「おはようございます」

「あ、おはようございます、城前さん。ご飯できてますから、どーぞ」

「ありがとうございます」

軽くお辞儀をして、教えてもらった席に着く。昨日からお世話になっている身だが、やはりご飯がおいしい。実家から離れて地方都市で就職し、一人暮らしが長くなってきた城前にとっては、実家に帰ってきたときを思い出させてくれるようなラインナップだった。

「やっぱおいしそうだなあ。あ、いや、おいしいことは知ってますけど」

「あはは、城前君は面白いことをいうんだね」

「ほらほら、はやく食べないと冷めちゃうでしょう。明里も遅刻しないうちに早く食べちゃいなさい」

「はーい」

わざわざ待っていてくれたらしい。いただきます、と手を合わせた城前は、さっそく湯気が立つ献立に手を伸ばした。

「城前君、今日はどうするんだい?」

「んー、そうですね。昨日一日考えたんですけど、やっぱり一番手っ取り早いのは俺が有名になることかなって」

「ほう?」

「ネットで見たんですけど、ハートランドって、大会がたくさんあるじゃないですか。一般人が優勝したらニュースになるくらいだし、珍しいんですよね?」

「ああ、とんでもないニュースだよ。詳しくない明里がスクープだってわかるくらいね」

「もう、お父さんやめてよ!」

「あはは。だから、その一般人が大会に出まくったら、それなりに話題になるんじゃないかなーと思いまして。大会に入賞できればネットとかに画像とか動画とかばらまかれるし、そこにナンバーズが映っていれば、反応する人は反応するんじゃないかなーと思ったんです」

「なるほど、たしかにそうだね。いい考えだ」

「ですよね?だから、しばらくはそうやって動いていこうと思うんです」

「ってことは、えーっと、城前さんはどんどん大会に出るってことですか?」

「はい、そうです」

「有名になった方がそのナンバーズとかいうのが集まるから、取材とかどんどん受けちゃうってことですよね?」

「取材っておおげさな・・・・・そんなに何度も来ないですよ」

「城前さん、全然わかってないです。デュエルモンスターズに詳しくない私がスクープだって取材を申し込むくらい大ニュースだったんですよ?そんな人がどんどん大会に出るようになったら、知名度あがっちゃって取材とかいろいろすごいことになりますよ。あの、城前さん。その取材、私が一番最初にしちゃだめですか?」

「え?」

「だって、昨日とった取材の内容、上司に伝えたらすごく反応良かったんです。もしかしたら、もうちょっと紙面を任せてもらえるかもしれなくて。ばっちりいい記事書きますから!お願いします!」

「ええっ!?いや、おれは別に大会の結果に顔出せればそれでいいかなって」

「だーかーらー!ハートランドでは、プロ養成所に通ってる訳でもない決闘者が入賞することだって大ニュースなんですよ!?それなのに城前さん、優勝しちゃったじゃないですか!しかも2つの部門で!そんなの、前代未聞なんですからね!?デュエルモンスターズわかんない私だってわかりますよ、それくらい!もっとことの重大性を認識してください!」

「こらこら、明里、今は朝食中じゃ。静かにせんか」

「だっておばあちゃん」

「そうよ、明里。気持ちは分かるけど、ね?」

「お母さんまで・・・・・・ってなにその笑顔?!違う、違うからね、私、そんなんじゃないから!あーもう、お父さんも城前さんも笑わないでくださいよ!」

「あはは、ごめんなさい。えーっと、よくわかんないけど、取材受けたらいいんですよね?わかりました。九十九さんにはお世話になってるし、そのときはよろしくお願いします」

「あ、はい、って、あ、受けてくれるんですね!ありがとうございます、そのときはよろしくお願いします」

明里はうれしそうに笑う。ころころ表情が変わって忙しい人だなあと城前は思う。ゼアルだと両親が行方不明になってしまったせいで、遊馬の両親代わりとして、九十九家の大黒柱としてがんばらないといけなかった明里である。両親が健在なため、いろいろと変化が生じているのかもしれない。こうして見ていると遊馬と似ているところが多い気がする。

「城前くんは学校には行かんのか?」

「明里さんから聞いたと思いますけど、一応おれ、ここに来る前は社会人だったんですよ・・・・・・。行きたいのは山々なんですけど、おれ、たぶん戸籍ないですよね?」

「ああ、そうか。別の世界から来たって話じゃったな。すまんすまん、つい」

「いえ、気にしないでください」

「ふふ、でも今の城前さんはどうみても14,5にしか見えないから、お酒もたばこもだめよ?」

「わかってますよぉっ!」

うわああんと大げさに城前は泣いてみせる。やっと日本酒のおいしさが分かってきたところだったのに、と悔し涙さえ浮かべてみせる城前に、お、いける口だったのか、と男性陣は反応する。今の城前はどうみても未成年だ、本人が社会人だと主張したところで身分証明書はただの紙切れ同然、戸籍がない以上証明できるものはなにもない。目の前でお酒を飲む意地悪をしようとしている男性陣に、城前は鬼悪魔とののしった。もちろん食卓に上がるのは笑いだけである。明里はどうみても年下しかみえないのに、本来は明里よりずっと年上なのだと主張する少年がおもしろくてたまらない。たしかに振る舞いは14,5にあるまじきところが目立つけれども、こうした仕草はどうみても子供じみていた。

「それじゃ、いってきまーす」

「おれもいってきます」

「二人とも気をつけてね。いってらっしゃい」

「そうだ、城前君、今度の土日に昨日話した二人と時間がとれそうなんだ。予定は開けておいてくれるかい?」

「はーい、わかりました。大会とか詳しい情報もってかえったら、相談しますね」

「ああ、わかったよ。いってらっしゃい」

明里と共に城前は九十九邸を後にした。今日はハートランドの散策がメインだ。近くの書店で住所が詳細に載っている本を購入し、ハートランドにある比較的大きな公園をしらみつぶしに広げては付箋をつけていく。そして、カイトたちが通っていたはずのプロ養成所を調べ、そこから近いはずの公園を中心にバイクを走らせる。半日ほどかけて回り終えた城前は、エンタメデュエルを布教する遊勝の姿も、不審な格好をした融合次元の手先も、大道芸人の振りをして瑠璃を探すデニスを見つけることもできなかった。時期がまだなのか、運が悪く会えなかったのかはわからない。とりあえず、行くべきポイントがだいぶ絞り込めたのは、いい仕事なのではないだろうか。リュックに地図を押し込め、今度城前が向かったのは、一番規模が大きいカードショップである。

公式大会の告知はネットで調べることができるが、非公式のカードショップはそれぞれしらみつぶしに回っていくしかないのだ。

いらっしゃいませ、というスタッフの声と共に来店した城前は、迷うことなくカードコーナーに目を向ける。発売中のカードのラインナップをざっと確認してみる。

「やっぱ発売されてたのか、こいつら」

ファントムナイツ、レイドラプターズ、どこかで聞いたことがあるテーマである。新規テーマなのか、封入率が恐ろしく低いあたりレアばかりなのがうかがえる。ここでテーマを揃えるのは大変そうだ。これはあれか、プロデュエリスト養成所にいけば優先的にカードが入手できるみたいな得点でもあるんだろうか。だから一般人の入賞率が恐ろしく低いんだろうかと思う。提示されている値段がOCG次元とくらべて目玉が飛び出そうな値段なのが笑えない。とりあえず、興味本位でのぞいただけだ。実際に買う気は微塵もない。むしろ今使っているガガガデッキに合いそうなカードがないか探すには、ゴミのような値段がつけられている掘り出し物を見つけるべきだ。どういうわけかこの世界ではモンスターの攻撃力ばかりが優先して価値を見いだされる世界観なことに定評がある。100円のコーナーにきれいなヴェーラーが投げ売りされている時点でもはやお察しというやつだ。城前は早速いろんなコーナーを歩き回り、ほしいと思っていたカードたちを揃えていく。恐ろしいほど値段が低いカード達である。万が一OCG次元とこちらの次元を行き来することができれば、転売屋をやりたくなってしまうような価格差だ。価値観が違うって怖いなあと思いつつ、城前はこれください、といつの間にか一杯になってしまったかごを渡す。スタッフの対応を待っている間、近くにあるチラシを手に取った。ここのショップの大会日程が載っている。この調子でいくつか店を回ってみよう。

提示された値段に思わず二度見する。ゼロがひとつ足りないんじゃないですか、と聞きたくなってしまうような値段である。財布的にはありがたいけれども、なぜか根拠のない罪悪感がわいてきてしまう。とりあえず城前はお会計を済ませ、近くのデュエルスペースに向かう。さすがにスタンディングデュエルが普及しているハートランドである、テーブルデュエルのスペースは狭く、スタンディングデュエル用のブースが設けられていた。のぞいてみたが、やはり人はすくない。今は平日の日中だ、プロデュエリスト養成所に通っている決闘者は間違いなく居ない。城前はかまわずテーブルに座る。この次元ではカードにプロテクターをつける人間はいないらしく、おそろしいことにカードショップで売っていないことがわかってしまったのだ。手持ちの余りと100円均一で購入した別用途のものを3枚ずつセットしていくのは城前にとって当たり前の作業なのだ。カードが反り返る恐怖と戦いたくない。たとえ不思議そうにほかの客がその作業をみていたとしても城前はかまわなかった。一通り作業を終わらせた城前は、カードをしまい、別の場所に向かう。

「やっぱガガガは発売されてんだな」

城前の世界でも見たことがあるパックが展示ケースにあるが、全然売れていないことがわかる。封入王がいないだけでここまで影が薄いテーマになっているということはエクシーズのエースの不在は大きい。種類はそれなりに充実しているようだが、エクシーズモンスターだけが恐ろしいほどのレアカードに設定されているためか。ネットで調べたかぎりでは、入賞者の中に使用者を見つけることはできなかった。ガガガデッキはエクシーズモンスターがいなければ、そもそも成り立たないコンセプトのデッキである。カードを並べることに特化したデザインは、棒立ちになるとどうしようもなくなる。回し方が普及していない上、カードの価値が攻撃力に比重を置いているこの世界において、低評価なのは無理もない。首飾りなどで下克上を狙うカードもあるにはあるらしいが、デッキレシピを投稿するにいたるほど評価されていないテーマらしい。大会結果の一覧をみながら、入賞者について検索してみる。黒咲隼、天城カイト、ネームドキャラを確認することはできたが、城前はバリアン出身の彼らの名前を見つけることができなかった。遊馬がいないのだ、ナンバーズを回収するには絶好の機会だろうにどうしていないのかわからない。バリアンが融合と組んでいるという不吉な言葉をゼアルから聞いたばかりの城前は、ためいきしかでないのだった。

「まー、投げ売りされてんのはありがたいけどね」

千円札でもおつりが来てしまうサイドデッキにうれしいんだか、かなしいんだか、よくわからない感情のまま、城前は立ち寄ったカードショップでデッキ調整をしていた。ガガガがパッケージのカードを片っ端から購入しているのはおそらく城前だけである。物珍しげな視線が多い。城前だってこれがナンバーズを巡る戦いの前哨戦にたいする前投資でなければ誰がここまで投資するという話だ。遊馬のデッキは使用モンスターの種類も数も多いから、ナンバーズを活躍させようと思ったら、そのナンバーズに対応したデッキを組まないといけない。今はホープドラグーンしかないからいいが、そのうち増えてきたらどのみち必要になる。いつ融合次元の奇襲があるかわからないのだ。用意するにこしたことはない。

ひたすらカードプロテクターにいれるという作業に没頭していた城前は、声をかけられた。

「なあ、少しいいか?」

「はい?」

顔をあげた城前は固まる。そこにいたのはユートだった。え、うそ、まじかよ、まだ昼間だぞ!?さっき時計を確認したからわかる、まだ14時だ。プロ養成所なり学校なり通っているのなら、そもそも今の時間帯にいるのはおかしい。もしかして休みだったんだろうか?なんてこった、油断した。全然想定していなかった出会いに硬直している城前である。どうして声をかけられたのか、必死で考えた。

「あ、ごめん、邪魔だよな」

一応ゴミは持って帰る前提だが、いい顔をしない人が多いのも事実だ。あわてて片付けようとした城前に、ユートは首を振る。

「いや、違うんだ」

「え?」

「これだけ開けてるってことは、買ったんだよな?」

「ああ、うん、そうだけど」

「ここらへんのショップで、まとめて買ってる決闘者って君なのか?」

「そうだけど・・・・・・あ、もしかしてほしいカードがあるとか!?ごめんな、全然人気あるパックじゃないみたいだからつい!」

「いや、いいんだ。シングルで買えばいいと思ってたカードがなくなってるとは思わなくて」

「いやあ、あんな値段で売ってたらついほしくなっちゃって、あはは。ごめんな、なんのカード?」

「え、トレードしてくれるのか?」

「今ちょうどデッキくみ終わったところなんだ。余ったカードは売ろうと思ってたところだから大丈夫だぜ」

ここにあるか?と城前がひとまとめにしてあるカードを差し出す。ずっしりくる重さにどれだけ買ったんだこいつという視線を感じるが、城前は苦笑いしか浮かばない。できることなら9期のテーマが使いたかったが、城前の軍資金ではとうてい手が回らない。エクシーズはもっているものでしか補えない価格設定だと相場が分かってしまった以上、デッキパーツやエースがそろわないデッキでナンバーズ回収なんて危なすぎてできない。城前だってできるならEMオッドアイズ魔術師を使いたいが、それが無理なことくらいわかっている。ガガガデッキが一般に普及している知名度が低いテーマだとわかったのだ、初見殺しはこちらのほうがいいはず。

そういうことなら、とユートは隣のいすをひいて、一枚一枚確認し始めた。

「このテーマ好きなのか?」

「うん、好きだぜ。ハートランドで初めて優勝したテーマだし」

「ガガガデッキで?」

「ガガガデッキで」

「すごいな、どうやったんだ」

「エクシーズモンスターがないと実力を発揮できないテーマだけど、ランクが自由に変えられるコンセプトはやっぱ優秀だぜ?」

「ランクを自由に・・・・・・魔術師デッキのコンボパーツに使われてるのしか見たことがなかったな。そんな効果があるのか」

「あー、たしかにそっちも優秀な構築だけどな。おれはどっちかてーと、シスターからいろんなランクを狙うコンボ軸なんだ。エクシーズモンスター手に入りにくいし、低評価なのは無理ないよ。ま、おかげで初見殺し?地雷デッキ?ビギナーズラックってことで」

「ビギナーズラックってことは、どこかの養成所にはいったばかりなのか?」

「え?いや、おれは入ってないよ」

「えっ、入ってないのに入賞したのか?」

「あーうん、一応?」

「すごいな・・・・・・。名前を聞いてもいいか?俺はユート」

「おれは城前克己。よろしくなユート」

「ああ、よろしく」

「で、ほしいカードはあったかよ?」

「ああ、よかったらこのカード、なにかとトレードしてくれないか?」

差し出されたカード達に、城前は快諾する。

「あんまり手持ちはないんだが・・・・・・」

ユートはカードケースを漁る。

「ここに城前のほしいカードはあるか?」

差し出されたカードの束は、雑多なものだ。おそらく城前のようにダブったものばかりなのだろう、1枚しかないと思えば、何枚も重複しているものもある。ざっと目を通した城前はスマホで相場を検索する。似たような価格設定のものを検索しているのをみたユートは慌てる。

「いや、そこまで気を遣わなくてもいいぞ、城前」

「だって初めて会ってトレードするんだし、一応大事だろ、そういうの」

「そうか?」

「そうだよ」

「城前がそういうなら・・・・・・あ、でも、もしほしいカードが見合わないなら、トレードなんだ。こっちも応じるから気兼ねなくいってくれ」

「そっか。じゃあ一つ聞いていいか?ユートが使ってるデッキってさ、もしかしてファントムナイツ?」

「え?あ、ああ、そうだけどなんでわかったんだ?」

「そのダブったカードみりゃわかるよ。墓地発動からのエクシーズ狙うテーマにはお約束のライロのレアカードぜんぶ突っ込んでるってことはいらないんだろ?それに闇・戦士のサポートばっか入ってるし」

「なるほど、たしかにそうだ。でもすごいな、城前。養成所入ってないのにすごい知識だな。有名な師匠でもいるのか?」

「だからいないって。ぜんぶ独学だよ、ネットとかで調べた」

「独学?!」

「いやだって、おれがいたところだとハートランドみたいに教えてくれるとこなんてなかったよ。イベントで教えてくれたりはしたけどさ」

「そうなのか・・・・・・ああ、なるほど、だからこっちにきたのか?」

「んー、まあそんなところかな。大会一杯あるみたいだし」

「だからビギナーズラック、か。すごいな、一般人でそこまでがんばってるやつは初めて見た」

「ってことはユートは養成所通ってるのか?」

「ああ、入ったばかりなんだ。憧れてるやつがいる」

「へえ、そうなんだ。がんばれよ。っつーか、それならなんでこんな時間にいるんだよ?」

「今日は職員会議があるからな、いつも早いんだ。それに今日は休みだからな、養成所も」

「ふーん?養成所って塾みたいなもんなのか」

「ああ、そんな感じだ」

「へえ」

「城前は興味ないのか?」

「うーん、まだハートランドきたばっかでよくわかんないんだよな。大会出まくった方が強いやつらと当たれるだろうし、今んとこそっち方面で考えてる」

「そうなのか。城前はすごいな、普通の人とは全然違う考え方をしてる」

「え、そうか?」

「ああ、プロになりたいなら養成所って普通は考えるからな」

城前が知っているより、幾分幼いユートは興味津々で城前にいろんなことを聞いてくる。やっぱり一般人がデュエルモンスターズで強くなろうと考えたとき、城前のような存在は異端なのだとうかがえる。そこまで聞いてしまうと、どこかの養成所に入ってネームドキャラと知り合ったり、ランキング上位の人とぶつかれたりするようにした方がナンバーズの持ち主の目にとまる可能性が高まるだろうか。でもまだ明里の雑誌が発売されていないから、反響がよくわからない面もある。発売日は来週だから、どのみちいろんな選択肢について考えるのはまだ先だ。今はナンバーズに操られた決闘者と戦うために、いろんなカードを入手する方が先だ。

「それじゃあ、養成所に通ってるユートの実力がどんなもんなのか、見せてくれよ。それがトレードの条件ってことで」

「えっ、カードはいいのか?」

「いいよ。今のおれにはそっちの方がずっと大事だしな」

「わかった。そういうことなら相手になろう」

「さんきゅー、助かるぜ」

城前は組んだばかりのデッキをデュエルディスクにセットする。その分厚さにスリーブを三重にしていると気づいたユートはすごいなと呟いた。うるせえ、ほっとけ!おれは三重にしないと不安でたまらないんだよ、と思いながら、城前はユートと共にデュエルスペースに足を運んだのだった。


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -