Don't blind your eyes!の前日譚(カイト夢)
レポーターからマイクを向けられたカイトは、いつもなら相手にしない取材をうける理由をぶつける。

「ふん、インタビューなど好みではないが、ある人物にメッセージを伝えるため、ここは利用させてもらおう。俺は必ずこの大会に優勝し、最強のデュエリストだと証明してみせる」

いつもなら軽くあしらわれる今大会の優勝候補から、強気な断言を引き出せたインタビュアーは興奮気味にその先を促す。

「ハートランドに俺の実力を認めさせると同時に、デュエルを授けてくれた師にも認めさせてやる」

カイトの師匠。クローバー校が誇るエースを育て上げた師匠、思わぬ発言にインタビュアーは名前を聞いた。

「クリス、クリストファー・アークライトだ。我が師よ、このニュースをみているのならこの大会にエントリーしてその目で俺を見極めてみろ。未だに俺が未完成などと言わせはしない!決勝戦の舞台で待っている!」

公共の電波で名前まで出した時点で、次の日からクリスの名前が町中の噂になるのはあたりまえ。たとえクリスがニュースをみていなかったとしても、本人の耳にはいるのはまちがいない。ハートランドのマスコミは、こぞって将来のプロデュエリストの師匠が誰か躍起になってしらべるだろう。クリスに多大な迷惑をかけることはわかっているがカイトはかまわなかった。

クリスはかつてカイトにデュエルを教えた男だ。極東チャンピオンのプロをしている弟はすでにプロであり、指導もかねていたクリスの指導力は明白。このままプロになるまで教えを請うつもりでいたカイトに突きつけられたのは、もうくるなと言う突然の別れだった。

「君のデュエルは確かに完璧に近い。しかし完璧ではない。自分になにが足りないのか、よく考えてみることだ。それがわかったらまたくるといい」

いくら問いつめてもそう繰り返して諭すクリスを思い出すたびに苦い記憶がよみがえる。カイトがクローバー校にはいる数年前の話だ。良くも悪くもかつての自分とは変わりつつあることをカイトは自覚している。今ならクリスの言葉がわかる気がした。だから強硬手段にでたのだ。正攻法では応じてくれないことなど突然の離別が納得行かずアークライト邸に通い詰めたあのときに思い知っているのだ。少しくらい意匠返ししてもいいはずだ。

こうして、カイトは満を持して、ハートランド主催の大規模な大会に参戦することを宣言し、インタビューを終えたのだった。翌週にはクリスに関する特集記事が並び、デュエル大会に参加すると明言されたことでカイトは全力を出すことを誓ったのである。余計なお節介でオービタルがクリスのデュエルデータを収集しようとして軽くあしらわれ、マシンスペックをもっと上げろといわれたと嘆く事件はあったもの、それ以外は問題なく予選は進む。順当に勝ち上がり、カイトは早々に準決勝進出をきめた。そして控え室でクリスとデュエルする準々決勝の相手とのデュエルをみていたのである。トーナメント表をみる限りでは、相手を先行制圧してなにもできないまま封殺する相手以外、クリスの障壁になりそうな決闘者はいなかったのである。クリスと同様公式大会には縁遠い人間なのかデータがない者同士のデュエルだった。結果だけみればカイトの漠然と抱いていた理想どおり、クリスが勝ち上がり相手は負けた。しかし、問題はそれではない。気づけばカイトは会場に向かっていた。控え室で待っていれば帰るために荷物を取りにくることはわかっていたが我慢できなかった。すれ違ったサヤカたちがどうしたの?と叫ぶのが聞こえたがそれどころではなかった。

「待て!」

「え、もしかして、おれか?」

「ああ、そうだ。城前克己」

予想通り、控え室に向かう途中だったらしい相手は、全力で走ってきたカイトに呼ばれて目を丸くする。ぜいぜい息をあらげながら近寄ってくるカイトに戸惑いがちに首を傾げた。

「おまえに聞きたいことがある」

「え?なんだよ」

「クリスとのデュエルで使ったあのカード、どこで手に入れた」

カイトの発言に城前は心当たりがあるのか、あー、と頬をかく。

「やっぱナンバーズ使うのまずかったか」

「ナンバーズ?なんのことだ」

「・・・・・・え?」

「なにを驚いている」

「ホープとかライトニングのことじゃねーの?」

「たしかにあのカードは驚異だったが、そうではない。俺が聞きたいのはダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのことだ」

その言葉を聞いた途端、城前は硬直する。そして冷や汗がたらりとながれた。

「その様子だとユートのことは知っているようだな。あのカードはまさしくスペード校のユートのエースモンスターだ。一般に販売されていた覚えはない。その上効果が汎用性を高めているとなると捨ておけん。どこで手に入れた?クリスに全力でぶつかり、敗北してなお誉められていた実力者がカードを偽造するとは思えない。コピーカードなのだろう、つかまされるとは軽率だったな」

「・・・・・・たしかに買ったカードだけどさ」

「どこのショップだ?」

城前が教えてくれたショップは聞いたことがない。わざわざ遠征してきているそうだから、地方のショップなのだろう。カイトは城前が挙動不審に陥っていることを確認し、大会失格を心配しているとふんだ。

「城前、ダーク・リベリオンを見せてみろ」

「お、おう」

差し出されたカードをみて、カイトは目を細めた。

「すごい完成度だな、俺もユートとデュエルしたことがなければわからないレベルだ。一般人ではコピーカードだと判断するのは不可能だろう、おまえに落ち度はない。ついてこい、城前。運営委員会には俺が掛け合ってやる」

先を促され、城前は不安な顔をしたまま、カイトのあとを追った。


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