ネットワークという電子の網に包まれた街、デンシティ。
アナウンサーがニュースを読み上げている。
「まもなく一般公開されるリンクヴレインズですが、ネット上に誕生する下層電脳都市に市内は話題沸騰です。モニター募集には希望者が殺到し、予想を大きく上回る反響にSOLテクノロジー社は抽選が打ち切れず悲鳴を上げている模様です。なお、今後リンクヴレインズは一般公開される予定ですが……」
遊矢は顔を上げた。隣には口うるさい兄貴分気取りがいる。
「なにをぼーっとしているんだ、遊矢。まさか怖じ気づいたのか?」
「オレが?まさか、そんなわけないでしょ。馬鹿にしないでくれよ」
遊矢のすぐ横から興味津々でのぞき込んだ少年は、目を輝かせた。
「遊矢なら前時代のシステムセキュリティなんて突破余裕だろ?」
「遊矢はこの分野に関しては天才ですからね、キミにできないならここの誰もできませんよ。それは困ります」
「だからこそ、ここを選んだんだ。ここなら人通りも少ないし、ハッキングにはうってつけだ」
「あーもううるさい、外野は黙っててくれよ!」
遊矢はうしろをにらむ。半透明な彼らは肩をすくめた。
「で、今は何してんだ、遊矢?」
「今?今はね、当選者リストのアドレスにハッキングして、適当なところから自分の名前を書き込んでるとこ」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫、きっとうまくいくさ。オレを誰だと思ってんだよ」
遊矢は得意げだ。
「おい、待て。私たちの名前まで入れる気か?」
「大丈夫だろ、ソリッドヴィジョンを遠隔操作すればばれないって。この世界にリアルソリッドヴィジョンと本物を区別する技術はサーモグラフィくらいしかないしね。主な活動場所はリンクヴレインズなんだ、そこまで現実世界と一緒にする必要はないだろ……って、げ」
「どうした?」
「あっちゃー、だめだこれ。生体情報読み取ってアバター生成するパターンだわ、これ」
「ってことは」
「残念、オレのアカウントしかつくれないね。リアルソリッドヴィジョンでユートたちのソリッドヴィジョン作ってもいいけど、いろいろ接続が面倒だしなあ。うん、やっぱり現実世界の俺たちに寄せようか。どうやら複垢作成はそんなに面倒じゃなさそうだ」
「これがリンクヴレインズの当選者リストか」
「こうしてみると壮観ですね」
「たしかにな、意図を感じる人選だ。そもそも抽選はやったのか?」
「そんなの関係ないね。選ばれるくらいの人脈持ってる人なら、きっと後出しでアカウントもらえるよ。よーし、それじゃ早速登録開始っと。オレの代わりにはじかれる可哀想な誰かさんは……」
遊矢はキーボードをたたく。一人の指名を見つけた遊矢の目は輝いた。ユートたちはつられて笑う。
「よーし、ビンゴ!大当たり!だろうとは思ってたんだよ、へっへー」
遊矢はハッキングを始めた。
「パスワード承認。リンクヴレインズのモニターユーザーの登録変更を行います」
電子音性に従い、無断で設定を変更する。そして遊矢のアカウントに書き換えてしまった。
「うまくいったのか?モニターに当選すると自宅にライセンスが届くらしいが」
「住所は変更しないのですか?」
「変更する必要ないだろ?この郵便を追っかけて住所特定するんだからさ」
「あ−、なるほど!遊矢頭いいな」
「だろー?もっと褒めていいんだぜ?オレ褒められると伸びるタイプだからさ」
ウインクを飛ばす遊矢にユートとユーリはあきれ顔だ。
「さーて、やっとこさコンテナ暮らしともおさらばだね!やっと見つけたぞ、城前。G・O・Dのカードデータ今度こそ破壊させてもらうからな、覚悟しろよ」
遊矢がハッキングしたアカウントの前の所有者の名前は城前克己16歳の高校生である。
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bkm