放課後を告げるチャイムが鳴り響くと同時に和波は後ろの席にいる島のところに向かう。
「島君島君、今度リンクヴレインズでデュエル大会あるらしいんですよ、いきませんか?」
「いいぜー、こないだ配信されたやつだろ?」
「はい」
「よーし、それじゃ今日の放課後な」
「おー!」
「おーおー盛り上がってるな、2人とも。相変わらず仲がよくてよろしい。悪いけどな、島、和波、残念なお知らせだ」
がし、と掴まれた肩。そして聞こえてくるついさっきまで授業をしていた先生の声。明らかに怒気をはらんでいる声色のまま真後ろから声をかけられ、ひえ、と2人は肩をすくませる。ぴしりと凍りついた2人は互いに目配せしたあと恐る恐る後ろを振り返る。そこにはいい笑顔の先生がいた。心なし肩を掴む手に力がこもりすぎてる気がしてならない。痛い痛いと2人は笑顔を引きつらせた。
「えーと、先生、なんですか?」
「な、なんだか嫌な予感が……!」
「あはは、わかってるだろ、2人とも。こないだのテスト、60点だったら追試だって。おめでとさん、お前ら揃って追試だ」
「えー、俺頑張ったのに」
「えっ、僕もですかっ!?」
「なーにしらばっくれてんだ、揃って真っ赤だぞ。そこまで仲良しでどうするんだ、お前ら」」
先生の笑顔は口元がひきつっている。突きつけられた答案用紙に島は固まる。やばいこれ親にバレたらお小遣い減らされる!和波は苦笑いしか浮かばない。これがバレたらリンクヴレインズにログインできなくなる!
「はい!はい!先生!俺アナザーになってたから授業出られなかったんですよ!?なんかこう救いは!救いはないんですか!?」
「だしただろー?手を差し伸べただろー?プリントちゃんとやればできるテストだったんだよ!問題そのまんまだったんだから!なんで全く同じとこ間違えるんだお前ら!ちゃんと勉強したのか?」
ぎくっとなる和波と島を見て、先生は、そんなことだろうと思ったよ、と呆れ顔である。
「提出されたプリント、お前ら同じとこ間違ってたからなあ。どうせ鈴木から写させてもらったんだろ?間違えてるってこないだわざわざ時間割いて説明しただろーが。なんでノートとってないんだ。なんで全く同じ間違いするんだ、おまえらは!自業自得だ!100点になるまで返さんからな」
「は、はい」
「先生、明日にできないですか?」
「無理言うな、最初に散々説明したぞなにを今更」
「う」
サボる可能性のある生徒にわざわざ声をかけて回っているらしい先生は、ちゃんとこいよとプリントを2人に渡すとばしばし肩をたたいて行ってしまう。睨まれているのは嫌でもわかる。ここまでされてしれっと逃げることなど和波にも島にもできそうになかった。結局下校は予定よりはるかに時間がかかってしまったのだった。
「どうしますー?時間あんまないですね」
「たしかになあ、今からリンクヴレインズはちょっと厳しいかもなー、くっそー。でも家帰るには早いんだよなー」
スマホを弄りながら島はため息をつく。
「あんま早く帰ると手伝いさせられるんだよ、めんどくせえ」
「僕もまだご飯つくる元気がわかないです、もう疲れて頭が回らないー。適当に済ませちゃおうかなあ」
「あー、そっか。和波今1人なんだっけ?大変だな」
「仕方ないですよ、一番大変なのはお姉ちゃんなんだし」
「そっかー、なんか腹減ったし、食べてくか」
「え、でも島くん夜ご飯食べられなくなりません?」
「いいよ、いいよ、今なら電話すりゃまだ間に合うし、たぶん」
「いや、でも」
「いーからいーから」
島は和波の静止を振り切り通話アプリを起動した。そして和波の姉がアナザーから目覚めたばかりで入院しており、和波が一人暮らし状態なこと。一緒に食べて帰るからご飯はいらないことを電話する。
「これでおっけーだろ、さあ行こうぜ」
「島くん……!」
「なんだよなんだよ、大げさだなあ、和波は。なに泣いてんだよ、そんなに感動することかあ?ダチとどっか食いに行くって普通じゃね?」
不思議そうに聞いてくる島に、そうですね、といいながらも和波は若干鼻声だ。ゴシゴシ乱暴に涙をぬぐい、どこ行きましょうかと笑う。へんな和波、と思いつつ、島は通学路を見渡す。
ファミレス、牛丼屋、ラーメン屋、ハンバーガー屋、どれも捨てがたい。
「ハンバーガー屋にするか?なんか俺今日はハンバーガーの気分だわ俺」
「じゃあそうしましょうか、僕はどこでもいいですよー」
ニコニコ上機嫌な和波に、そーかあ?と返しつつ、島は巨大なハンバーガーの看板を目指して歩きだした。ドライブスルーはなかなか進まないようで混んでいるが、中は意外と空いていた。
「なんかおもしれえ動画あがってないかなー」
「playmakerとか探してみてみます?」
「いいねー、探してみるか」
「はい」
和波たちが入店すると家族連れが多い。どうやらキャンペーンをしているようだ。
「チーズ祭り?」
「いいね、いいね、チーズ」
「久しぶりに食べたいなー」
「ポテトもチーズあるのか、へー!」
「僕こっち頼みますから島君こっち頼みます?」
「お、いいね!そうするか、シェアシェア」
「僕並んでますし、席どりお願いしていいですか?」
「おう、任せとけ」
和波が2人分のトレーをかかえたまま店内を探しているとこっちだよと島が手を振る。和波はとなりに座った。
チーズがたくさん挟まっているハンバーガー、ポテト、そしてチキンナゲット。野菜?なにそれ美味しいの?レベルでカロリー度外視なカロリー爆弾かつジャンクな味がたまらない。
「うまそー!食おうぜ」
「そうですね!」
適当に並べながら和波はそばによる。島は動画の視聴履歴を検索し始める。どうやら暇つぶしに動画を探していたようだ。
「これ面白いんだ、見ようぜ」
「あ、いいですね!僕もこの人好きですよ。モリンフェンで100回スピードデュエルしたら何回勝てるか検証するやつですよね」
「そうそう!ほんと才能の無駄遣いだよなー。面白すぎて腹いてーんだけど。俺もこんなデュエルしてみてーなー」
「なにいってるんですか、島くん。島くんにはもうファンがいるじゃないですか」
「でも全力でバカやる勇気はねーなー俺」
「あはは」
「あはは、マジでどうしたんだよ、和波。なんで泣いてんだよ、おまえ」
けらけら笑う島を見ながら、和波はなんでもないですよお、と笑った。