アニメ21話ネタで鴻上君と雑談
やりきれない寂しさに襲われて外を見た鴻上は、月の光を受けて海がガラスのかけらのように淡く光っているのが見えた。ましゅまろのように、いまにも溶けてしまいそうな柔らかい月が、ぼんやりと浮かんでいる。


眠れない鴻上のお守りをしてくれるのは、いつだって夜の間ずっとなり続けている漣の音。そして骨と皮だけになってもなお、生きていることを証明してくれる父親の腕から聞こえるかすかな鼓動だ。いつもなら心休まる音色だが、残念ながら今夜はそういう気分になれそうもなかった。


「誰かいるのか」


声は鴻上の思っている以上に冷たく響いて、発した本人が訂正を迷うほどだった。しばしの迷いののち、なにもなかったかのように、鴻上は静かに足音の主を見る。


「今夜は誰もこないはずだが」


主治医をはじめとした来訪者の予定はない、はず、だ。ベランダから見下ろしてみたが、誰もいない。鴻上は注意深く辺りを見渡す。足音はすぐ近くにあった。どこだ?


「……」


鴻上は隣の部屋をみる。ログアウトするときの衝撃に耐えられるよう、狭い棺桶みたいなポットがあったはずだ。本来リンクヴレインズにログインしたユーザーはログアウトも同じ場所でなければできない。例外を鴻上は知っている。


「ゆーれいさんが何の用だ」


薄く笑った鴻上に、ゆーれいさん、と呼ばれた誰かさんは反応した。近くにあるパソコンが勝手に起動する。


「やあ、元気にしてるかい?」


ウインクするのは初めてみるアバターだがその小癪な笑みときどった喋り方を鴻上はよくしっている。


「死神が何の用だ。俺の魂でも取りに来たか?」

「やめてよね、なんの冗談だい、それ」


露骨に嫌そうな顔をする画面越しの青年である。ホットドックを買いに来たとき、バイトをしているこのアバターの中の人と遭遇するとは思わなかったのだ。世間話で住所を特定される流れになっても、もうどうしようもなかった。不可抗力である。


「これでおあいこだね」


青年は笑う。今まで一方的に鴻上がゴーストと和波誠也が同一人物だと知っている状態だったのだ。観念するしかなさそうだ。鴻上はそうそうに白旗を上げた。


「なんのようだ、死神」

「だからやめてってば、キミらのせいで風評被害まじでやばいんだからね?」


仮想現実にあるまじき日食から数日。公式からの予告もなく、なんの前触れだとユーザーたちは噂をしあった。のちにアナザーと呼ばれることになる原因不明の意識障害が明らかになったとき、誰もがあの日食に思いいたるのだ。


ゴーストがついに本性を表した、という噂がたった。正体不明、神出鬼没、毎回アバターが無駄に変わる謎のデュエリストがいて、強いデュエリストに勝負を挑み、ユーザー情報を不正取得して去っていく。目的がわからない謎のアバターだが、謎の日食のあと、ゴーストにユーザー情報を奪われた多くのユーザーが突然意識不明になる事件が多発した。たいてい近くには端末があり、リンクヴレインズにアクセスした形跡がある。いつしかゴーストは未練を残してしんだデュエリストの魂が仲間を求めて魂を集めているという噂が信ぴょう性を帯び始めた。


ゴーストに目をつけられたが最後だ、が暗黙の了解だった。ユーザー情報をとられたくないと思っても遅いのだ。デュエルを途中で投げ出そうとしても、外部との通信を遮断した結界の中に閉じ込められ、デュエルが終わらないとでられないと笑顔で宣告されるのだ。気に入られればユーザー情報を抜かれる。デュエリストでなければ気に入られないようプレミを連発したり、延滞行為を繰り返したりすればいい、と考えるだろうが、ゴースト自身は本当無邪気なデュエリストだと対戦しているとわかってしまう。ほんのうを刺激されたデュエリストは白熱するデュエルが抗えない。連絡先をこうかんすればまたあの熱気を感じることができる、となればそれはもう抗いがたい誘惑となる。ゴーストがあらわれたら逃げ出すユーザーが増えた。


そんな中、真正面からデュエルをする集団が現れた。ハノイの騎士である。今まではハノイの騎士にゴーストがデュエルを挑むのが通例だったが、日食を境に構図が逆転した。どうやらハノイの騎士の連中はアナザーの被害にあわないらしい、という噂がたった。なら憧れのハノイの騎士になればゴーストとデュエルできるのでは?ついでにSOLテクノロジー社に対する鬱憤ばらしとしてサイバーテロに参加できるのでは?と気軽に考える若者が増えた。その結果、連日連夜のハノイの騎士とゴーストによる全面戦争のような状況となっていた。今のところ統率が取れているうえにデュエルの実力が高水準なゴーストに軍配があがっている。ハノイの騎士になると支給される、捕獲用のプログラムは今のところゴーストが餌食になる前に逃げられてしまう状態となっていた。


アナザーの症状が数年前に猛威をふるた、サイバーテロ集団グレイ・コードと酷似しているとある病院の医師が指摘したことでネットは大騒ぎになった。もともとハノイの騎士やサイバーテロ集団との関係がささやかれていたゴーストである。噂が噂を呼び、いつしかグレイ・コードのしわざではないか、という噂が確定事項のように垂れ流されることになった。その結果、もたらされるのは正義の集団、という称号をえたハノイの騎士の人気の爆発と知名度の上昇、支持者の急増、参加者の増大である。


ゴーストだけでなくplaymakerも標的
であると主導者である Dr.ゲノムが宣言したことでリンクヴレインズは一気に狂気ともいえる熱気が満ち満ちた。


あのplaymakerとデュエルできるかもしれない、はデュエリストたちの本能を刺激した。


ハノイの騎士は日食を境にメンバーが膨大になった。もはや管理できる数をゆうに超えていた。ハノイの騎士の名を借りた有象無象がリンクヴレインズに蔓延っているのだ。


「あのねえ、リボルバーくん。ボクは今ひっじょーに君に意義を申し立てたい気分なんだ。約束と違うじゃないか!なんでグレイ・コードのメンバーリストに抜けがあるんだよ!秘書課の女幹部とか!君んとこの幹部とか!特にDr.ゲノム!!ボク見たことあるよ、この人!フランキスカの上司だった人じゃないか!」

「アバターだぞ?他人の空似ではないか?」

「そんなわけあるかー!アバターから生体情報クラッキングして相手を特定するなんてプログラム、この国で何人も精通してたらそっちの方が怖いよ!ボクも御用達のこのプログラム、グレイ・コードのサーバから奪ったやつ使わせてもらってるんだ。名乗る名前が違うだけで中の人は同じに決まってるじゃないか!一応生体情報確認させてもらったけど間違い無いからね。初めから穴のあるリストとか汚いなあ、せめて黒塗りとかにしなよね」

「秘書課の女に関しては完全にこちらの落ち度だから謝罪するが、Dr.ゲノムにかんしては断る。今のSOLテクノロジー社のリストから生成したものだ。あの人は対象にはならん」

「きったないなー、あの人昔所属してたクチじゃないか!」

「言わなかったお前が悪い」

「えー!グレイ・コードの手口そのまんまな事件起こしといてよくいうよ!ボクたち迷惑してるんだからね、残党の炙り出しの邪魔しないでよ」

「あいにく今回の作戦はDr.ゲノムの意向が大きい。あの人に文句をいいにいくんだな」

「はあ?なにそれ、リーダーでしょ、君。いくらお父さんの関係者だからって強く言えないのはどうなのさ?今回の件だって、playmakerはロスト事件の被害者だって他ならぬ本人が明言してるんだ。Dr.ゲノムのプログラム使わせてもらって、生体情報と一致するアバターを探し出して襲撃すればいいだけの話じゃないか。グレイ・コードって格好のスケープゴートがいるからって遠回りしすぎじゃないの?」

「playmakerについては私の問題だ。あの人の力を借りる必要はないと踏んだだけだ。どのみち実力あるデュエリストは排除するに越したことはないからな」

「強がっちゃって。合理的かつ効率的な考え方するとこ気に入ってたのに、playmakerとデュエルしてからなんか変わったね、リボルバーくん。まえはそんなんじゃなかったのに」

「人のこといえるのか、ゴースト」

「ボク?ボクそんなに変わったかな?君ほどじゃないと思うんだけど」

「私から見ればお前の方が劇的に変化しつつあるぞ、ゴースト」

「ふーん?まあ、どうでもいいや。生きることは変わりつづけることだよ、リボルバーくん。ボクは人間だから変化だってしていくのさ。プログラムじゃないからね」

「いってくれる」

「だいたいさー、playmakerに会いたいならメッセージ送りつければ食いつくのに。変なところで律儀だよね、キミ。あっちは行き詰まって君がログインするの待ってるのに。聞きたいことがたくさんあるんだってさ。意外だよね、キミが思いっきり鴻上博士を父さんって呼んだのにどうやらplaymakerは家族を洗うまでは考えつかないみたい」

「あの時は互いに余計な邪魔が入ったからな、聞かれなかったんだろう」

「ボク、連絡先教えてあげようか?」

「いらん。お前に貸しを作る方が脅威だ」

「えー」

「だいたい、なぜお前がplaymaker狩りに参加している」

「え?面白そうだからだよ」

「聞いた私が馬鹿だったか」

「まだまだボクに関して勉強ぐ足りないみたいだね、リボルバーくん。ボクの行動原理はいつだってデュエルだよ」

「そうだったな」

「まー、末端を制御しきれないのはでかくなりすぎた組織の弊害だよね。いずれポイする予定かもしれないけどさー、線引きはちゃんとしないとグレイ・コードみたいになるよ?」

「耳が痛いな」

「自覚があるならDr.ゲノムにばしっといえばいいのに」

「部外者が首をつっこむな」

「今のボクはハノイの騎士だからねー」

「ほう?ならそのイグニスを渡せといえば応じるのか?」

「え、やだ」

「ならくだらない茶番はするな」

「もー、つれないなあ。playmakerはいいのになんでボクとはデュエルしてくれないのー!」

「自分の胸にでも聞いてみるんだな」

「えー、つまんない。ねー、せっかくきたんだから一戦くらいやろうよ、リボルバーくん」

「今はそれどころじゃないんだ、帰れ」

「ちえー、冷たいやつ。そんなんだからグレイ・コードにハノイの騎士の資金流されちゃうんだよ。内通者の炙り出し行き詰まってるんでしょ?」

「………」

「そりゃDr.ゲノムに強くいえないなら行き詰まるよね、がんばって。キミのおかげでこっちはだいぶグレイ・コードのテロ計画が縮小してるみたいで助かってるからさ、あはは!」

「待て」

「うん?」

「なら、今ここで取引をするか」

「お?なになに?」

「今、ここに残りのグレイ・コードのメンバーの疑惑がある者達のリストを渡すが、私からではない。いいな」

「おー、ありがとう!ボク、なにしたらいいの?」

「Dr.ゲノムとデュエルでもなんでもして、資金源の不正についての情報を持ってこい。こいつは前金だ」

「おー、奮発してくれるね!海馬コーポレーションとこの内通者リストじゃん!わかったよ、ボクがんばっちゃうからね」

「お前の持ち帰った結果次第でほかのデータをくれてやる」

「おーけい、任しといて!ところでさ、ついでにボクの分身たち捕獲しようとすんのやめてくれないかな!」

「断る。イグニスを無尽蔵に増やしてるのは前からわかってたんだ、自業自得だとでも相方に伝えておけ」

「けちー」




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