ショゴスの記憶

《遺跡》のある区画にて、私は化人製造の祭壇にのせられている。向こう側にはゆたう灰色の粘着質な生命体が満たされた水槽がある。その水槽からぐちゅぐちゅと音を立ててこちらに這い上がってくる。

「いや......いや......」

「たすけて......」

「だれか......」

それは女たちの悲鳴だった。スライムから聞こえてくる。有名なテケリ・リは太古の地球に飛来した宇宙生物「古のもの」達によって合成された漆黒の粘液状生物ショゴスが発する独特の鳴き声である。これは主人である古のものの言葉を真似ているのだとされ、断末魔なのだという。それを聞いたやつをさそいだし、食うわけだ。もっとも古のものたちの会話も理解できない人間にとっては「テケリ・リ」の連続にしか聞こえない。

ショゴスは非常に高い可塑性と延性を持ち、必要に応じて自在に形態を変化させ て様々な器官を発生させることができる大きなタールでできたアメーバのような形容をしている。

この《遺跡》に潜むスライムはショゴスも素材となっているようだから、どうやらその性質を継いでいるようだ。この遺伝子組み換え実験場のえぐい過去を見る気分である。

なぜ私がここにいるのかというと、これが夢だからだろう。江見翔の肉体に刻まれた遺伝子の記憶が見せているのだ。

「んふぅっ......」

口に押し込まれたそれは、溶けたガムに似たような感触だった。鈍重な肉塊から漏れ出るわずかばかりの液体は、唾液とはちがう味、ちがうにおいがする。体を這い回る粘着質な生命体が愛撫する。

「んんぅっ......ふっ、んむっ、んああっ!」

口が勝手に膣に似た動きを再現しようとする。膣の動きなど想像がつかないが、喘ぎの深さを確かめるように思いつくことはすべてやろうとしている。膣よりも膣らしい口になろうと努める。まるで狂気の沙汰だった。ずっと犯され続けていると頭がおかしくなってしまうのかもしれない。

そのうち、穴という穴がスライムに犯されていく。天国に上ったみたいに気持ちよくて泣けてくる。体が溶けちゃいそうになる。

「あああっ」

絶頂の極みにいるような声で快楽の海に溺れる。巡る血液と一緒に鋭い快感が全身を駆け、こめかみに溜まっていく。一度からだに起こりこびりついた快感はどこにも出ていかない。

火花に触れて火傷する皮膚と同じに顳の裏側の頭蓋に貼りつく薄い肉の層が音をたててただれる。そのただれに気付き快感をそこに集中すると、体中が全て性感帯になったような錯覚に陥いる。

力強く、雄々しく、どこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。脊髄に失神しそうなほどの快楽が走り抜ける。

「いや......いや......いやあ......」

私の声帯を借りて誰かが泣いている。

「たすけてっ......」

びくんびくんと体が痙攣する。一糸まとわぬ姿の秘部からはとろとろと液体が溢れてきて、太もものあたりがびっしょりになっている。つたい落ちる液体とスライムが混ざり合い、卑猥な音を立てながら侵食していた。

そのスライムからかつてその体を貪られた女たちの悲鳴が聞こえてくるのだ。気が狂いそうになる。きっと実際は真っ暗な《遺跡》の中で粘着質のなにかに侵されるのだから、理性が擦り切れて快楽漬けの淫乱に身を落とすのは早いに違いない。

(......あの人も、こんな感じ、だったのか?)

江見睡院の子供を身篭っていた女子高生に襲いかかる異種姦の悲劇。姿かたちは江見睡院なのに、大人になった女がまた襲われる惨劇。脳が想像するのを拒否した。吐き気がする。私の思考をよそに絶頂からなかなか降りてくることが出来ない体はスライムに犯し尽くされていた。

「はっ......ああ......」

ゆるやかに意識が覚醒していく。目を覚ました私はぬるりという感覚にまゆをよせた。よりによって夢精か、いかれてる。男子高校生の性欲はかなり単純らしい。

「はあ......はあ......くそっ......リョナ趣味はないんだけどなあ......」

涙がぼろぼろでてくる。

「なんでだよ......こんな夢ばっかり......」

忘れかけていた女としての快楽を思い出してしまった私は疼いてしまう体にもがくしかない。どう頑張っても得られることはない快楽だ。どうしろっていうんだろうか。

しかし、それが序章に過ぎないことを私はまだ知らないのだ。

(うそだろ......なんのじょうだんだよ......)

《夜会》のあとは夢は絶え間なく続いていくのだが、だんだん被害者の生贄が固定化してきたのだ。

(この夢は《遺伝子の記憶》だろ......なんであの人の夢を見るんだ......)

それは江見翔の母親になるべき人がうけた恥辱の記憶だった。彼女が《如来眼》や《菩薩眼》の家系や特殊な血族とは聞かない。死後も発動するような《力》ではない。ならなぜ私は彼女の夢をみる?

(......まさか、過去夢じゃないのか?)

だとしたら、江見睡院に犯され続けているあの女は誰だ。なにもわからないまま、私は今夜も祭壇に横たわる夢を見る。
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