トレジャーハンターギルド《ロゼッタ協会》所属の宝探し屋は、基本的にHunter Assistant Network Tool、略してH.A.N.T.という電子辞書に似た端末で活動を行う。《ロゼッタ協会》公式サイトにアクセスして任務を受けたり、メールや電話機能を使ったり、戦った未知なる敵の図鑑を確認したり、スキャニングしたデータの閲覧が出来たりする。基本は電子音声の英語なのだがカスタマイズできるのだ。着信の設定もできるため私は個人で設定を変えていた。
ちなみに武器調達も《ロゼッタ協会》サイトから提携しているサイトにアクセスすることで可能だ。
武器弾薬等を購入する通販ショップの名前はShadow of Jade。ちなみにバーチャル店主は若い男性で忍び装束に身を包み、やあ、いらっしゃいと声をかけてくる。《ロゼッタ協会》の宝探し屋は外国人が多いからこうもあからさまにNINJAだとウケがいいんだろう。金を稼ぐためならなんでもやりかねんからなこの24さいの店主は。
サイトのQアンドAにはオンラインしか受け付けていないとあるが、うそつけという話である。私は世界観を共通している魔人学園のシリーズもやったことがあるため知っているのだ。
彼はいわゆるゲスト出演というやつである。こんなにノリがよかったかは疑問符がつくが、天然で守銭奴だったはずだから周りの仲間に唆されたか迷走したか。容易に想像がつく。
彼は元禄時代から続く如月骨董品店を若くして営む青年で、如月翡翠(きさらぎひすい)、JADEは翡翠という意味だ。なぜ如月で2月辺りからサイト名を採らなかったのか甚だ謎だ。
かつては厳格な祖父によって厳しい修行を送ってきたせいか、性格は冷静でかつ実務的。使命感にとらわれやすく、仲間と衝突することもあった。先代店主であった祖父は彼に店を譲って数年前に失踪。母は幼い頃に他界、考古学者の父は音信不通。たぶん今もひとり暮らしを送っているはずだ。
まさかとは思うが音信不通の父は私と同じで宝探し屋だったというオチじゃないだろうな?
ともかくオンラインショップを経営するあたり運営は上手くいっているようでなによりである。
如月は徳川幕府に仕える隠密・飛水(ひすい)家の末裔で、水を操る力を持ち、その力で江戸の町を護ることを任務としていた。ノリの良さはあるが、仲間であろうと金は取る。 戦闘ではアイテム面では優秀だが、打たれ弱いのが難点。
魔人学園は登場人物がみんな宿星があり、いわゆる幻想水滸伝みたいに特殊な才能や力があってラスボスを倒す話だったため、如月も玄武という力があるのだ。あの玄武に変身できるというわけだ。
だから亀というわけである。
かつては仲間うちからしっかり金取るわ、自分の装備すら買わせるわとセコイことしていたが、今はどうなのだろう。ちなみにショップを利用しまくると愛想が良くなるあたり根っからの商売人である。
クエストで得た報酬アイテムのうち、ほかのクエストで使えそうにないやつはさっさと売り払うに限る。売り払いたいやつを片っ端から撮影してメールで送る作業を繰り返し、送信した。査定してもらうためだ。
しばらくしてメールがきた。
「うわ、たっか」
ゼロが2つくらい多い気がする。やっぱりイスの大いなる種族の知識を信仰するカルト教団あたりにご贔屓にされているせいか。クトゥルフ神話関連の団体さんからのクエストが殺到している私は当然報酬も邪神関連の品となる。見てくれよ、このチャウグナーフォーンの銅像。
アジアの山岳地帯にある洞窟の台座に鎮座している石像そのもののクオリティだ。夜になると動き出して犠牲者をむさぼり食うと言われても納得出来る。
胴体の端にヒルのような口を持つ、吸血鬼の特徴を持った象の他にもタコや人間が組み合わさり奇妙な姿になっている。耳は水かきのように広がり触手が伸びている。鼻は細い部分で直径30センチで朝顔の形に広がってる。手は人間と同じ形をしており、膝に肱を置きながら掌は上を向いている。肩幅は広く角ばり、胸と腹は太っているかのように突き出しているという。象の仮面を被った半裸の太った巨人だ。
禍々しいにも程がある。手元においといたら精神が蝕まれたりSANチェック入ったりしそうだから早く売り払いたいのだ。
手元においとくならやっぱりこのバステト神の銅像とか......。
「こんにちは、亀急便でーす」
「はい、どうぞ」
窓から現れたNINJA装束の男性に私は梱包したダンボールの山を渡す。
「いつもご利用ありがとう」
やはり邪神関連のアイテムはかつての黒魔術を使う仲間に高く売れるらしくNINJAは上機嫌である。
「おや、その猫は」
「ああ、それは可愛いから売らないで飾ろうと思いまして。バステト神の石像です。可愛いでしょう?」
NINJAはバステト神の銅像に釘付けだ。
「あのー、JADEさん?」
「少し触ってみても?」
「えっ、ああ、はいまあいいですけど」
言ってる傍から白い手袋つけて高そうなハンカチ口元に当てながら慎重に見始めたぞこいつ。なんでも鑑定団で見た事あるやつだ。これは高い。確信した私は飾ろうと決めた。
「江見くん」
「なんですか?」
「これ、譲ってくれないだろうか」
「えっ、売りませんよ。さっき言ったじゃないですか。つーか譲れだと!?明らかに高そうな扱いしといて?」
「価値がわかっていない君のところより僕のところに来た方がこの猫も幸せだと思うんだが」
「ええ......。アンタの趣味的にまねきねこの方がいいんじゃ?バステト神じゃないはずだ。目を覚ませ、バステト神に商売繁盛のご利益はないはずだぞ!」
「たしかにそうだがこれは猫の神様だ。まねきねこの上司にあたるはず。ならば無関係では無いはずだ」
「無理やりすぎません!?」
「とにかく譲ってくれ、なんでもする」
「今なんでもするっていいましたよね?じゃあ高いんでショップ安くしてください」
「それは出来ないね」
「まさかの即答だと......!?なんでもするっていいましたよね、今」
「常識でかんがえたまえ」
「NINJAがなんかいってる」
「そのNINJAから買ってる不審者は君だが」
「それは不審者スタイルじゃないです。宝探し屋の正装です」
「じゃあなんで《魂の井戸》でこそこそ着替えてるかいってみたまえ」
「人の事いえるんですか、アンタ」
「これは由緒正しきNINJAの正装だ」
「オレの知ってる忍者じゃない」
ピンポンピンポン空気を読まない呼び鈴とドンドンたたく音がする。
「おい江見、さっきからうるせーぞ。なに騒いでんだ」
ぴたりと私とNINJAは顔を見合わせた。ガチャガチャドアノブを回す音がする。私は目配せをして、NINJAはうなずく。ただちに私たちは行動を開始した。皆守甲太郎は本気を出したらボロい寮の扉なんて蹴破るのだ。NINJAが逃げて私は内側から鍵をかけた。
直後に蹴破る音がして、扉が無残にも倒れてしまい、蝶番がきいきい悲鳴をあげている。
「おい、聞いてんのか江見!」
「あー!!」
「な、なんだよ」
「それはこっちの台詞だよ、皆守!どうしてくれるんだ、チャウグナーフォーンの像が台無しじゃないか!」
「ちゃ、なんだって?」
「やめろ動くな一歩も動くな!亜空間に飛ばされて毒飲まないと元の世界に戻れなくなるぞ!」
「はあっ!?」
それは有名なクトゥルフTRPGのシナリオの話だがこの世界にはクトゥルフ神話が実在するのであながち嘘ではないのである。いっててなんだがクトゥルフTRPGはあるのかこの世界?
固まってしまった皆守に説明してやるのだ。まあドアの下敷きになって損傷がでかいわけだが。
「なんでそんなもん持ってんだよ」
「もらったんだから仕方ないだろ」
「誰から?」
私は目をそらした。
「や、ややっぱりお前......おまえっ......」
皆守がうっかり落としてしまったアロマパイプを私はひろいあげる。
「皆守、弁償してくれ。割とシャレにならない」
「......それで呪われなくて済むのか?」
「それはわからないよ、封じられてるタイプだったらもう手遅れだ」
「だからなにがだ!」
「わかってたら世話ないよ」
「ぐっ......」
皆守はパイプをうけとった。
「まあ、チャウグナーフォーンは両生類を肉体や精神を改造して人間みたいにした眷属を人間と交わらせて繁殖するタイプだから、両生類みたいな女に誘惑されなきゃ大丈夫だよ」
「やけに具体的だな」
「呪いはあんまりしないイメージだな。でもここまで壊されたらどうなるかは保証できないよ」
「お前のだろ、どうにかできないのか」
「壊した人がなんとかすべきだとは思わないのか、皆守甲太郎」
皆守は冷や汗で顔色が悪そうだった。