「どごにいだんだのがど思っだらそごがよ〜ッ!メールぐれよばがぁ〜ッ!!」
号泣する葉佩にやっちーもろとも巻き込まれてしまった私はひたすらゴメンと謝った。
「んなことしてる場合かッ!はやく怪我してる連中運ぶの手伝えッ!」
「いだうっ!なんだよ、なんだよ、人が感動の再会してる時に水差しやがってこの野郎ッ!」
「アホか、んなの後からできるだろ。ほかの連中、こいつら助けたら《生徒会》に処刑されるんじゃないかってビビっちまって誰も手伝ってくれねえんだよ」
「なんだと〜ッ!?まさかさっきの狙撃もファントムの仕業とかいう流れか、もしかして?」
「もしかしなくてもそうだ。全く、よく出来た劇だぜ」
「やんなっちゃうね、まったく。よし、運ぼうか。やっちーは......そうだなあ、どさくさ紛れてゲットトレジャーしようとしてる不届き者監視してくれ」
「は〜いッ!ほら、九龍クンッ!なにしてるの、はやくみんな運ばなきゃ」
「ぎくうッ!皆守が増えた〜ッ!」
「いってる傍からお前は」
「痛いッ!」
ぎゃーぎゃーいいながら介抱に回っていると騒ぎを聞きつけた仲間たちが手伝いに来てくれた。みんなで手伝えばなんとかなる。おかげで保健室は超満員になり、エムツー機関の病院にみんな担ぎ込まれることになったのだった。
そして、この騒ぎがあまりにも大きくなり始めたために、午後からは明日まで休校になってしまったのである。
「えええ───────ッ!?そんなことがあったんですか〜ッ!?大変でしたね、みなさん!」
ひっくり返りそうなくらい驚いている菜々子に葉佩がうんうんうなずいている。昼休みを救護にあてたせいでだいぶんずれこんでしまった昼ごはんのために私達はマミーズにいた。
「そうなんだよ〜、おかげでお腹ぺこぺこなんだ。菜々子ちゃん」
「お疲れ様でした〜。なるほど、だからお客さまが今日はたくさんなんですね〜。ご注文はなにになさいますか〜?」
「カレー2つ」
「え、ちょっと待ってくれよ、甲太郎ッ!俺まだ頼んでないのに!」
「じゃあオレ五目ラーメンで」
「あたし、チーズバーガーセットお願いしま〜す」
「は〜い、かしこまりました〜」
五目ラーメンを食べながら考える。
墨木砲介の撃った弾丸がスライムに変化した理由がわからない。弾丸の中に混じっていたのか、力により生成された中にスライムが混入しているのか。前者ならリカと同じパターンで兄からの手紙が偽造され、弾丸が送られていたことになる。後者なら銃そのものにスライムが入っていて、力が発動して自動的に弾丸が補充される過程で混入したことになる。どちらだろうか。
「九龍、怪我は大丈夫?」
包帯をまいている手が目に入って声をかけた。葉佩はひらひらと手を動かしながら笑う。
「うん、大丈夫大丈夫。瑞麗先生にめっちゃ怒られたし、レントゲンとかされたけどあのスライムの成分は入ってないってさ」
「そっか、よかった」
「あれ怖かったよね、翔クン。九龍クンになにもなくてよかったよ」
「ほんとにな。逃げろっていってんのに逃げねえんだ、自業自得だぞ」
「いや、だってさァ......朝、皆守探しにいった時に見かけたんだよ、あいつ。あん時はまともだったからまた話通じるかと思って」
「はあっ!?」
「え、墨木クンとあったの、九龍クン」
「なんて?」
「いや、普通に歩いてたらさ、トイレの方から怪しげな声が聞こえてくるんだよ、うううっ、うううって。見るなっていったから目を逸らしたらありがとうっていわれてさ」
規律正しい男子生徒の声がするだけでどんな姿かはみなかったらしいが、声が一緒だったからとのこと。目をそらした葉佩に感謝したからか、嫌いとかではないと弁明したかったからか、墨木は自分が視線恐怖症だと自ら告白したらしい。どうしても自分を見る人の視線が痛くて怖くて苦しくて恐ろしくてたまらない。途中で見ず知らずの葉佩に弱音を吐いているのか正気に戻ったのか情けないと項垂れているようだったという。
さすがに心配になって声をかけたら、いたく感動されて安心させてくれるいい声だと褒めてもらえたと葉佩はにヘラと笑う。脳天気な、という話だが、見知らぬ人間だから安心して話せたのだろう。まさかそれが天敵の《宝探し屋》だとは思わなかったようだが。
「そっかァ......墨木クンて大変なんだね......」
「こんなことじゃ正義は貫けないってもがいてたけどさ〜、あれみてからだと銃乱射するようなやつには思えないんだよな」
「銃でみんなを傷つける正義ってなんだろう?」
「きっと忘れたから苦しんでるんだろうよ、他のやつらみたいにな」
なんだかしょんぼりしている八千穂に葉佩は悪いやつじゃなさそうだから《生徒会執行委員》として立ち塞がるならまた救い出すだけだと意気込む。
「よお。まったく、ここは相変わらず賑やかな學園だとは思わないか?」
「あ、夕薙クン」
「いつも以上に混んでるみたいでな、相席いいか?」
「いいよ〜、甲太郎奥詰めてくれ、奥」
「あ?仕方ねえな」
「助かる、ありがとう。しかしあれだな、それは名誉の負傷か、葉佩?」
「これ?うん、まあな〜。墨木は逃がしちゃったんだけど」
ビフテキ丼をおいた夕薙は、へえ、と意味深な顔をしながら笑うのだ。おいこっちみんな。皆守が怪しむだろうが。
「それにしても随分と物騒な匂いさせて食べてるな、葉佩」
「でもさ〜、物騒だから着てきたらこの有様だよ。運よすぎない?俺」
「なんだよ、俺にはなにも匂わないぜ?」
「まぁ、甲太郎の鼻はラベンダーとカレーの違いしかわからないからな」
「勝手に言ってろ。で、なんなんだよ、結局」
「なにって決まってるだろ、硝煙の匂いだよ」
「あ〜、ハズレ。俺、銃火器より剣のが好きだし」
「はははっ、そうか。まっ、夜遊びもほどほどにな」
「へ〜い」
「じゃあ、あれか。墨木の銃のせいか?どれだけ腕に自信があるか知らないが白昼堂々銃を乱射するような輩が、正当な法の執行者であるとは俺には到底思えない。葉佩はどう思う?今の《生徒会》のやり方に君は賛同できるかい?」
葉佩がカレースプーンをおいて水を一気に飲み干した。いつの間にか食べ終わっていたようだ。
「その前に聞きたいんだけどさ〜、夕薙は《生徒会》が無視してるのか、指示してると考えてるのか、どっちよ?それによって変わるけど。ど〜よ、夕薙」
「そうか?《生徒会執行委員》は《生徒会》の代表だ。制御しきれてない時点で意味するところは同じだろう?《生徒会》が真に學園の生徒のための組織ならばこんな暴挙にはでないはずだ」
「うーん、俺はそうは思わないけど?月魅がいうには4番目のファントムって定期的に現れてるっぽいんだよな。《生徒会》と敵対する立場として陽動してるっぽくてさ、今までは静観してるうちに自然消滅してるから慣例にならってるだけじゃない?組織として一番ダメなやつ。今回は色々別の勢力がごたごたしてんだから、いっぺん現場に顔ださなきゃダメなパターン」
「あっはっは、お前が一番辛辣だな、葉佩」
「人にはいろんな考え方があるけどさ〜、人間考えるのをやめたら終わりだと思ってるからね、俺」
「ははは、頼もしい限りだな」
長いこと沈黙を続けていた皆守がようやく口を開いた。
「夕薙......お前な、あんまりこいつを焚きつけるのはよせ。この學園の禁忌に近づけば待ってるのは《生徒会》による処罰だけだ。命をかけるほどのものなんてないだろ」
「それは葉佩が決めることであって、甲太郎には関係ないことだろう?そもそもなんでお前こそそんなにムキになるんだ?」
「それこそお前には関係ないことだろ?」
「え......ちょ、ちょっと、ふたりと」
「は〜い、たんまたんまたんま。2人して俺の取り合いとか嬉しいけど注目浴びるの葉佩恥ずかしい〜!」
「んなッ、止めるんならもっとまともなこと言えッ!!」
「おいおい、俺まで噂に巻き込むのは勘弁してくれよ」
「えっ、マミーズでこんだけ騒いどいて今更なにいってんだよ、夕薙。手遅れだぞ、あっはっは」
「どんな噂だよ......」
「え、聞きたい?」
「絶対にいやだ......」
「悪い悪い、たしかに葉佩のことで俺達が口論てのもおかしな話だな。悪かった。それと甲太郎」
「......なんだよ」
「たまにはカレー以外も食わせてやれよ」
「余計なお世話だっ!」
「えっ、待ってくれよ、それ余計じゃない余計じゃないッ!俺だってたまにはラーメン食べたい!」
「ああ、わりいな九龍。カレーラーメンがよかったか」
「ちがあうッ!!」
「ご馳走様、と。邪魔したな。俺はいつも通り、葉佩の活躍を楽しみにしてるよ」
「火種だけまいて帰るなよ、夕薙ッ!」
「ははッ、それじゃあな。あ、そうそう、江見。お前、男物の香水が染み付いてるぞ。萌生先生の時もそうだが密会は人を選べよ?まあ、お前の趣味なら余計なお世話かもしれんがな、七瀬あたりが余計な勘ぐりしてるから伝えておくぞ」
「えっ、ちょ、夕薙大和さん、去り際になにいっ───────」
明らかに楽しんでるという顔をして夕薙は去っていく。さっきまでの沈黙が嘘みたいに静まり返るマミーズにて私は逃げ出したい衝動にかられるのだ。
「翔チャン」
手を掴むな、葉佩。
「翔クン」
めっちゃ目を輝かせるな、やっちー。
「翔チャン、翔チャン、なにその話、すっげえおもしろそうな話じゃんか。聞かせろよ〜」
「あァ、なるほど。そういうことかよ、雛川になったとたんに国語の成績急上昇したのはそういうわけか」
どういうわけだよ、皆守。
私はためいきをついた。うっわ、帰りてえ......。
「引き継ぎだよ、引き継ぎ。オレがなんの手引きもなく潜入できたとでも思ってんの?」