神鳳充

「君が噂の江見くんですか」

「えっと?」

「君は神鳳充(かんどりみつる)クン」

やっちー、月魅と図書室や書庫に入り浸ること1週間、定位置になっていた自習スペースの最奥で私は生徒会の生徒とであった。びっくりしているやっちーを見ていると教えてくれた。

神鳳充は3年B組の弓道部部長。生徒会会計であるという。つけくわえるなら遺跡の墓守である阿門帝等の腹心である髪の長い冷静沈着な男。強い霊媒の能力を持ち、また弓術の達人でもある。開いているかいないか判らない細い目が特徴。

口寄せのできる家系のため、次の当主となるはずが病弱の妹がいるらしいがなにかあったのだろうか。わざわざこんな学園にいるんだから追い出されたか逃げてきたかの2択だと思うがそれはどうでもいい。今の神鳳は妹から貰った簪と引替えに妹や関係する記憶をまるごと失っている状態だからだ。

問題は彼が幽霊などのこの世に在らざるものを見たり祓ったりできる家系の人間だということである。

「初めまして。君の噂は聞いていますよ、父親を探しに来たとか」

「はやいね」

「ごめんね、江見クン」

「いいよ、気にしないでくれ。隠すようなことじゃないからな」

「よければ僕になにか手伝えることはありませんか?」

「どういうこと?」

「いえね、生徒会室の資料をかりたいと噂話が聞こえたものですから」

「えっ」

私はやっちーをみた。やっちーはぶんぶん首を振る。カウンター席にいる月魅もだ。やっちーは2人から真っ先に疑われている状況に少し涙目である。さすがに生徒会に私のことを話すほど口は軽くないらしい。私は葉佩九龍が宝探し屋だと月魅にばらす未来の前科を知っているからなんともいえなかった。

「僕も本を読むのは好きでして、よく利用するんですよ」

「八千穂さん」

「ご、ごめん......あたしそんなに声大きかったかな......」

「資料室からよく聞こえましたよ」

「八千穂さん」

「うわあ......ごめんね、江見クン」

やっちーは凹んでぺしゃんこに潰れてしまった。もっともらしいことをいってはいるが私たちが資料室に入り浸りの時間帯に神鳳が入ったところを見たことは無いので嘘だなとすぐに気がついた。図書室の利用者を見ることが出来るスペースがあるので、それとなく入る音がしたら確認していたからだ。

そもそも幽霊がみえる体質の神鳳なら学園内にウロウロしている幽霊あたりに話を聞いたらあっさり情報提供があるだろう。

あるいは皆守が気を利かせてくれたのかもしれない。めんどくさがり屋のくせに面倒みがいい、いわゆるツンデレのめんどくさい男だからだ。

「オレに話しかけてきたってことは、見せてもらえるのかな?卒業文集とか名簿とか」

「ええ、大丈夫ですよ。持ち出しは出来ませんが」

「そっか。見つからなかったらまた声かけるよ。B組だよね」

「ええ、わかりました」

「ありがとう」

「僕達も墓地に近づかない善良な生徒まで迫害するほど冷酷ではありませんから」

直球で忠告するのは神鳳らしい。いきなりのご登場に驚いたが、生徒会室に出入りできるというなら乗らせてもらおうではないか。

なにせ私は五十鈴からイスの大いなる種族にこの学園についての情報提供をする任務も課されているのだ。

そして私は数日後の放課後に生徒会室を訪ねることになる。

「僕以外誰もいませんがようこそ」

がらんとした異様に広い執務室みたいな部屋にて神鳳はまっていた。

「驚きましたね、君だけですか」

「やっちーは部活だし、月魅さんは図書委員の会議があるらしくてね」

「そうでしたか、ではどうぞ」

狙いをすましたように日付を指定しておきながらなにをいうのだこの男は。思いながらも口に出すほど愚か者ではない。私は見上げるほど大きな本棚を見上げた。

「この区画が卒業文集やらの資料ですね」

「ありがとう」

「僕はここで仕事をしてますので、終わったら声をかけてくださいね」

「わかったよ」

私はとりあえず図書室書庫になかった年代から1冊1冊遡ることにした。集中し始めたら数時間なんてあっというまだ。下校を促すチャイムが鳴り響き、私は神鳳に帰るよう促される。

「どうでしたか?」

「思った以上に量が多いから時間がかかりそうだなって」

「そのわりにメモしてますね、それなりに」

「メモ魔なんだ」

「勉強熱心ですね。その熱意に免じて何日もかかりそうですし、連絡先交換しましょうか」

「えっ」

「なにか?」

「いや、意外だなと思って」

神鳳は笑った。

「みたところ、どうやら君はまともなようですから」

「え」

「悪質なやつが取り憑いてるならこの学園に仇なすと困るから祓おうかと思ったんですがどうやら幽霊じゃないらしい」

私は釣り上がる口が抑えきれない。神鳳は目を開けた。

「生霊だとでも思ったのか?」

「男女のもつれで江見くんに取り憑いてるのかとばかり」

私は破顔した。

「神鳳にはオレはどう見えてるんだ?」

「20代の女性が江見くんの中にいるように見えますね」

「ならなんで除霊しない?」

「初めはそうしようかとも思ったんですが、君を祓ったら昏睡状態になると思うからやめにしたんです」

なるほど、と私はうなずいた。

「懸命ね。関わる気がないなら軽率に首を突っ込まない方がいい。関わらない方がいい。これはアタシたちの問題だもの」

「危害を加える気はないんですね」

「アンタがアタシたちに危害を加えたらその限りじゃないわ」

「なるほど」

連絡先を交換して私は生徒会部屋をあとにした。

なぜか微妙な顔をした皆守と次の日挨拶することになることなど知らないまま自室に帰った私は棚に飾ってある宝石を機械に設置した。

「ってことがあったんだけど構わないわよね?」

五十鈴と連絡を取るためのイスの大いなる種族が発明した通信機器だ。これは《ロゼッタ協会》の管轄外である。

「バレたならしかたないでしょう。アナタの働きには感謝していますのでこのまま続けてください」

「わかったわ」

通信を終えた私はそのままインテリアとして棚においた。どうみてもアンティークだ。まさか電気もなにも使わないで連絡できるなんて思わないだろう。

さて、寝ますか。

この学園に来てから私は風呂に入ったらすぐに寝る。なぜなら朝早くに行けば墓守は学校に行くためすれ違いとなるからだ。

「よお、転校生。また会ったな。こんな朝早くから元気だな」

「おはよう。夕薙もマラソン?」

「ん、ああ、まあそんなところだ」

私に声をかけてきたのは夕薙 大和。私と同じ3年C組のクラスメイトだ。柔道部所属という見るからに頑健で屈強そうに見える偉丈夫だが、外見に反し病弱体質だ。海外に行っていたことがあり、私より2歳年上である。超常的な物事に対して過剰とも思える拒否反応を示す。

ちなみに皆守とは、互いに腹に一物抱える存在であることを知りつつも、そ知らぬ顔で牽制しあう関係だ。

根っからのオカルト大嫌いだが、そりゃそうだ。ブードゥー教の儀式の生贄にされそうな惚れた女の子を救おうとしたら、父親と女の子を殺されて命からがら逃げたら夜に老人になる呪いをかけられたのだ。

そりゃオカルト大嫌いになるに決まっている。

ちなみに彼が今の墓守だ。これから寮に行くみたいだから墓地は無人である。明らかにランニング姿の私を見て夕薙はさして疑問にも思わずすれ違い、別れを告げた。

私はそのまま学園敷地内を満遍なく物色してそのまま墓地に向かった。宝探し屋は基本潜伏先での現地調達である。世知辛い。

墓地のある区画から遺跡に侵入し、
《魂の井戸》に向かう。いわゆるセーブポイントや体力や精神力回復のための部屋だ。ここで私は宝探し屋になるのだ。

ジャケットにゴーグルに手袋、そしてライフル、爆弾。

「さあて、今夜はどこまで行けるかな」

タイムリミットは夜明けまでの3時間、バディなしの単独特攻、セーブなしいうオワタ式縛りプレイである。葉佩九龍がくる9月までにどこまで攻略できるだろうか。え?執行役員たちをたおさないと次のエリアにいけない?いや、案外知らない区間がたくさんあるんだよ、この遺跡。だからこそ江見睡院こと父さんは最深部にまでたどり着いたのだとは思うんだよね。

それに私は遺跡の財宝というよりは碑文やエリアごとに模してある日本神話の関連性とかの情報を入手して《ロゼッタ協会》とイスの大いなる種族に送るのが役目なのだ。次にやってくる宝探し屋は期待の新人だから諜報部門の宝探し屋はぜひともサポートしてやってくれというわけである。

「......えーと」

ピッキングにより無事解錠した宝箱からアイテムを入手した私はアサルトベルトにつっこんだ。

「よかった、アイテムは補充されるみたいね。これなら葉佩のこと心配しなくてもよさそう」

これならクエストもこなせるだろう。葉佩より下のランキングにいるのはまずいからね、先輩として。

「よし、今日は一気にクエストこなすか」

私は気合いを入れて遺跡に侵入したのだった。そしてきっかり3時間たったころ、すべての戦利品を《魂の井戸》から自室に送り付け、墓地から這い出てまたぐるりと学園敷地内をまわることになる。朝日が昇る頃に男子寮に到着というわけだ。

自室に帰り、整理をそこそこに、風呂場で水浴びをすませて身支度をととのえ、H.A.N.T.を起動する。《ロゼッタ協会》から転送されてくるお礼メールややっちーたちからのメールを返信しながら昨日売店で買っておいたパンと牛乳を冷蔵庫から出して朝食代わりにする。

「しっかしなんだよ、皆守。この意味深なメールは。どういう意味なんだ」

お前って実は、いやなんでもない、的なメールが来ていた。数時間してからいや気にしないでくれ的なメールが来ていた。時間はだいたい真夜中。私が爆睡していた時間帯だ。なにか私が潜入している証拠でも掴んだのだろうか。冷や汗がながれる。

「おはよう、皆守。昨日の意味深なメールなに?」

送ったら速攻で返ってきた。はやっ!

「なんでもない」

「なんでもないわけないだろ」

「すまん」

「だからなんだよ」

「いや、その、あれだ。夕薙から聞いたが朝マラソンしてるんだって?」

「登山が趣味だからね。学園の規則だと外に出られないから登山にいくための体力作りだよ。朝は捗るんだ。皆守もくる?」

「いや、いい」

「残念」

「でもな、ひとついっとく。夕薙はあんまり信用するな、2年もダブってる先輩とつるむとろくなことにならないぞ」

笑うスタンプを押しながら私はしばらくして合点がいった。

「あー......見張ってたのか」

歴代の宝探し屋たちは葉佩九龍をみるに律儀に夜になったらすぐに探索していたようだから、私が転校してからずっと見張っていたのかもしれない。これで1週間たつから皆守的には警戒心が薄まってきたのだろう矢先に、夕薙から挑発でもされたのだろうか。夕薙的には呪いがばれるわけには行かないから深くは言わないはずだが。

残念ながら私の活動時間は3時から6時前だ。バレたらバレたなりに次の手を考えなくちゃいけないが、これは夕薙から聞いて確認したかったのかもしれない。あいつら無駄に意味深な会話するからな。

「よし、誘うか」

私は自室を出ることにした。
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