宝を探し求める者よ

私は倒れていたらしく、無機質な声がしたことで目が覚めた。前後の記憶があいまいだが、強烈な光に目が眩む。その逆光によりいくつもの影がアタシを見下ろしているのはわかったが、まるで磔にされているかのように四肢が動かない。

「聞くがいい、《秘宝》を追い求める者よ」

「なぜお前は渇望する?」

「なぜお前は破壊する?」

「お前の明日へ繋がる道には光はなく───────」

「お前の通ってきた昨日には荒涼たる瓦礫の森が広がり、累々たる屍の山が積み重なり合う」

「よく聞け、秘宝を追い求める者よ」

「お前の真実の目はどこにある?」

「お前は自らの望みのために何を差し出す?」

「お前の心臓に宿るものはなんだ?」

「秘宝を追い求める者よ」

「未だ、お前の前には苦難と危険が広がり」

「お前には、それに抗うだけの人を超越した力もない」

「それでも追い求めたいというのか?」

「九龍の秘宝を───────」

「よかろう」

「いつの日か、お前が《秘宝》を探し出し、それを手にする時を待つとしよう」

「我が九龍の秘宝を───────」

なにやら一方的に言葉がなげつけられるのがわかったくらいで、意味を耳は聞きとってなどくれなかった。

そして私は意識を失った。

洞窟内のしんと沈んだ湿気のある空気に晒されながら、はださむさにたまらず目を覚ました。すぐそばにはエメラルドグリーンの地底湖がある。ふらふらと私は立ち上がり、あたりを見渡した。どうやら地下壕の最深部のようで、ここから地上に繋がるであろうという地獄のような竪坑がきれかけのランプをともしながら口を開けている。近くにリュックやらなんやらが散らばっていたのでかき集めたのはいいのだが。

「うっわ、なにこれ」

手榴弾、ライフル、ハンドガン、ナイフ、なにやらよくわからない機械。みるからに見なかったことにした方がいい物騒なものが私の周りに散乱していたのだ。

「しかも知らない身分証入ってるし。アタシの荷物どこいったのよ」

そこには知らない男の身分証やら旅行に必要なものが詰め込まれていた。

「もしかして誰かに襲われたとか?そんで奪われた?うっそでしょ、追い剥ぎ?」

恐ろしくなって私は逃げることを決めた。

確かめようにも暗すぎてわからないために、蟻の塔のように材木を組みわたした暗い坑道口に向かった私は覚束無い足取りで歩き出す。岩穴はまっすぐ立てないくらい狭い中をはいつくばりながら外に出た。

「!?」

目の前にはヘリコプターと担架をかかえた白衣の人間たち。慌ただしく作業をしているところだった。

「先生、人が!」

「どうやらバイタルサインは彼のようです!」

「すごい、自力でここまで出てこれたのか!」

あっというまに私の周りは人だらけになってしまった。うん?今なんて言ったの、彼?やっば、あの荷物の人も近くにいるの?悪いことしちゃったな。

「大丈夫ですか?落ち着いてください。我々は《ロゼッタ協会》所属の医師団です。あなたのH.A.N.T.から発信された信号を辿ってここまできました。もう大丈夫ですよ、さあ乗ってください」

「えっ、ちょっ......あの待ってください、アタシただの素人で」

「どうやら記憶に混乱があるようですね。はやくこちらに」

訳の分からないまま私は医療ヘリに乗せられてしまった。断片的な会話を聞くかぎり、私が地下壕にいっている間に大規模な地震があり、本来の通路は瓦礫で塞がれ、生き埋めになっていたらしい。たまたま10キロにもおよぶ地下壕の一角にいた私は岩盤が強いところにいたため崩落を免れたはいいが、地震により転倒して頭を打ったとのことだった。いつまでたっても帰ってこないから宿泊していたホテルの従業員が通報してくれたのかもしれない。気晴らしにと渡されたラジオからは皆神山を震源とする大地震により地殻変動が起こるほどの災害が起こったらしかった。

「君は実に運がいい」

バスケがしたいです、といいたくなりそうな白衣の男からそう言われた私は首を傾げた。

「《秘宝の夜明け》、墓守の襲撃、からよくぞ一人で天御子の遺産につづく碑文を探し当て、持ち帰ってこれたな」

かかげられた博物館でよくある古代文字でかかれた石板を見せられるが意味がわからなかった。

なにかのどっきりだろうか。なにもかもが私の知っているゲームのイベントと酷似していた。

はじまりはそう、九龍妖魔学園紀のSwitch版が2020年に出ると聞いて、久しぶりにゲームをやったら再燃したことだ。やがて物欲を抑えきれなくなり、1度は手放したコレクションを全て集めはじめた。そして完全版たるリチャージ発売記念に販売された皆神山の謎を題材にしたDVDを入手したのだ。私は、懐かしさのあまり貴重な有給を一気に消化して聖地巡礼を決行したのだ。


皆神山(みなかみやま)は、長野県長野市松代にある標高659メートルの山である。その周囲の山並みと異なる溶岩ドームの山容から、人工物と思い込む者が現われ、「太古に作られた世界最大のピラミッド」という説が起こり、一部信仰の対象になっている。

九龍妖魔学園紀はオーパーツがすべて本物でムーにのっていたり、やりすぎ都市伝説でやっていたりすることがすべて事実という恐ろしい世界線での出来事である。気功もクトゥルフもあるむちゃくちゃな世界だ。

だから世界最古のピラミッドなんて題材はもってこいだったのだろう。

登山を決行した私は、中腹の岩戸神社(ピラミッドの入口があるといわれている)、山頂には熊野出速雄神社(皆神神社)を巡った。ラーメンやは潰れていた。残念。

たしかにここは「皆が神の山」という名称もさることながら、見た目も本当に“人工物”としか思えないような周囲の山々とは一風変わった違和感のある異質な形状をしている。また、この山にまつわる不思議な逸話は古代から現代に至るまで数多く存在していて、日本のパワースポットや聖地の中でも特に謎多き場所の1つとして知られているだけあって雰囲気があった。

さすがにローカル線の広告にロゼッタ協会の求人広告はなかったが、DVDが実写だったこともありデジャブを感じることが出来た。

「やばくない、これ」

皆神山につづく駐車場の看板を見つけた私は目が点になった。


皆神山の造山方法はエジプトのピラミッドのように人の労力ではなく初歩的な重力制御技法(部分的干渉波動抑圧)により、当時長野盆地が遊水湖沼(最後のウルム氷期の終末期で東・南信の氷解水による)となっておりその岸のゴロタ石等堆積土砂石を浮揚させ空間移動させるといったダイナミックな方法だった。従って現在でも皆神山山塊だけが非常に軽く負の重力異常塊となっている。

「なんか目眩がしてきた......」

この皆神山の盛土的山塊が自重により不均衡凝縮=ねじれ摩擦現象=起電=電流発生といったダイナモ機能山塊となり、電磁波が生じこの磁力と重力制御(反重力)により物体(電磁反発飛翔体)が垂直に離着陸するようになった。古文書に出てくる≪天の羅摩船[アマノカガミブネ]≫等がこの飛行体だ。

「なかなかやばいわね、これ。やっちーよくこんなヤマ登ろうと思ったなあ」

皆神山は、古い古墳時代や弥生時代更に遡っての縄文時代やエジプト・インダス・黄河シュメール各文明よりずっと古い、今から約2〜3万年前(浅間山・焼岳ができたころ。飯縄・妙高・富士は約九万年前。)の超太古ともいうべき遠い旧石器の時代に造られた。人工造山=ピラミッド、ピラミッドはギリシャ語源で三角形のパンの意。

この皆神山を造った人間は、古事記に出てくる須佐之男命[スサノオノミコト](自然主義的な科学技術者の集団の総称)で現代科学とは全く異質ではるかに優れた高い知的能力を持つ人類だった。(旧人ネアンデルタール系)

「......九龍妖魔学園紀のダンジョン作ったやつらみたいね、これ」

何のために造ったかというと、墳墓ではなく地球上の各地や、宇宙空間への航行基地として造られた。超太古の宇宙航行基地である皆神山の祭神は従って高度の知的能力集団でみんな宇宙航行や宇宙基地に関する神々。

このように皆神山は、神々が活躍した基地であり、宇宙船で現われたり姿を消したりしたので自然人たちは神聖な山=高天ガ原[タカマガハラ]として崇め、後世に伝えた。

「高天原、あー......これはまた」

ツッコミどころ満載の文章だがここまでくると、創作力としてもさすがに大したものだ。こういった思想が現れるという背景が、皆神山のエネルギーには存在することは確かだし。

車がやっと通行できる細い山道を登った。中腹に、天照大神を祭る岩戸神社の石室があった。「皆神山ピラミッドの入り口ではないか」と書かれている看板があり、石室は確かにそれっぽくかなり暗いが中まで入れた。さらに歩くと道が広くなり、ほどなく、見晴らしの良い頂上付近に着く。頂上にも「皆神神社」と言う立派な神社があり、ここには、全国的にも珍しい低い標高でのクロサンショウウオの産卵池がある。

皆神山を下り、自転車で松代高校の横を通って西側の山を目指してこぎ、象山地下壕の入り口に移動した。皆神山の歩いて来た登山道の東側にも地下壕があるが落盤が激しいため立ち入り禁止。また、舞鶴山にもあり、気象庁の地震観測室になっており、天皇御座所などを少し見ることができる。

やっちーが落下して気を失っていた地下壕は思った以上にでかかった。総延長6km弱のうち500mが一般公開されていて、第3火曜と年末年始以外の9〜15時半の時間内なら誰でも無料で自由に入れる。


「ここが天御子の遺産への入口になるわけだ」


そして、その先でなにをみた?

「いっつうっ───────!!」

強烈な痛みが私を襲った。

「大変だ、はやく運びたまえ!」

「大丈夫ですか?」

呼びかけられたのはあの身分証の男の名前だった。なんとなく気づきたくなかったが、私の声は異様に低くなっていた。どうやらあのときあったあの光、九龍妖魔学園紀に背景のおけるラスボスに私はなにかされてしまったらしい。私は意識を失った。

「実に興味深い」

明らかに福山雅治ではない男の声で私は目を覚ました。医療施設にでも担ぎ込まれたらしく白い部屋に白い服で白いベッドに寝かされていた。

「ひっ」

私はたまらず後ずさった。明らかに気を失っているはずの男がたったまま喋りかけているからだ。

「ああ、申し訳ありません。私、この体はまだまだ不慣れでして。気を抜くとすぐこれだ」

「は、はあ......」

男は名刺を渡した。

「初めまして。私は五十鈴文昭。この体は《ロゼッタ協会》の医療班の事務をしている者です」

私は口が塞がらない。

「夢じゃないんだ」

「夢じゃないんですよ、私共が保証します」

「......あの、まさかアンタ天御子の関係者?」

五十鈴は笑った。

「違いますよ。あなた、あのままだったら化物にされそうだったので惜しいと思ったので我々が保護したんですよ。あなたの肉体は我々が管理して元の世界でちゃんと日常生活をしながらあいつらを撃退してます」

「せ、精神交換......精神交換じゃないのそれ。まさかあんた」

五十鈴はうなずいた。

「お察しの通り、我々はイスの大いなる種族とあなたが呼んでいるものです」

「......九龍妖魔学園紀ってダゴン教団も依頼主だったもんね......驚きはしないわよ」

「おや、そうなんですか。それは興味深いですね。あなたの体があいつらに拉致されなくなるまで保護してあげますから、あなたの世界について知りうる限りのことを教えてくれませんか?」

渡されたのは紙とペンだ。五十鈴に聞かれたことに答えるために書き始めた。

五十鈴を始めとしたイスの大いなる種族は、クトゥルフ神話にでてくる宇宙人だ。九龍妖魔学園紀は東京魔人学園と世界観を同じくするためにあらゆるオカルトが実在するやばい世界なのである。

彼等は時間旅行の際、自らの身体はそのままに、精神だけを別の知的生命体の肉体に送り込む。これは彼等が精神生命体だからこそできた技術・発想なのだろう。これによりタイムパラドックスの発生も軽減され、何より質量保存の法則に反することはまず有りえない。

イスの大いなる種族に保護されたと知った私は協力する以外に選択肢がなかった。なぜなら時間旅行をした私は彼から逃げたら最後、ティンダロスの猟犬による追跡を1人でかわさなければならなくなるのだ。

「ところでこの体の精神はどこいったの?」

「ああ、彼ならわが星の大図書館に招待しました。自由に知的活動を行うことが許されています。協力的ので街への外出許可も与えられ、そこそこ悪くない待遇が待っていますよ」

「そ、そうなんだ」

「彼もあなたと同じようにあいつらに化物にされそうになりましてね」

「だからって女を男の体にいれるのはどうなのよ」

「いかんせん緊急事態でしたので。あなたは知識をもちえていますから預けるにはあなたしかいなかったんですよね」

「ええ......いつ戻れるのよ」

「あなたの知る彼が天御子を倒したあたりでしょうか」

「うっそでしょ」

私は頭を抱える。持ち主が帰還できるまで私は死ねないし、宝探し屋をつづけなければならないというのだ。

「ああそうだ、あなたの次の依頼、これですよ」

2004年5月1日づけで天香学園にいくよう言われた私は気が遠くなった。

 
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