見知らぬ明日8


「最後の晩餐はやっぱりカレーなんだ?さすがは筋金入りだね」

「......誰かと思ったら翔ちゃんか」

皆守は不機嫌そうに眉を寄せた。

「隣いい?」

「カレーだろうな?」

「注文?まだ決めてないけど」

「カレー以外なら他あたってくれ」

「わかった、せっかくだしカレーにしようか」

「ならいいぜ」

私は向かいに座る。どうやら拒否するほどの嫌悪感ではないらしい。皆守の態度からするに、私が隠してきたことについてなにかしら気づいているようだが、食ってかかるような態度ではないのが意外だった。

トラウマと向き合ったことで多少なりとも前向きになって周囲を見られるような余裕ができたからなのだろうか?私が声を掛けたくなるくらいには、見るからに凹んでいた。《生徒会》の話し合いでなにかあったんだろうか。

「なにかあった?」

「まあな」

「なにか考え事?」

皆守はため息である。

「私が聞いてもいいやつ?なら聞こうか?口に出した方がまとまることもあると思うけど」

「..................阿門から頼まれたんだ、なにかあったら《墓》を全て掘り起こせと。ミイラは蘇生してそのままだと生き埋め状態になるから窒息しかねないってな」

「それはまたなかなかにヘビーな最後通告だね」

「何言っても聞きやしねえ。今まで阿門たちに丸投げしてた俺の言うことなんて聞く耳持たないのは仕方ないが、双樹や神鳳まで切り捨てるようなこというとは思わなかったぜ。しかも《執行委員》の連中にはもうメールで送ったあとだときた。何考えてんだよ、阿門のやつ」

なるほど、阿門の決意や覚悟を目の当たりにして動揺しているらしい。本来なら自分が戦った直後に目あたりにすることになるわけだから、考える時間があるのはいいことだろう。

「3年いて、あんなこと考えてるとは思わなかったってのもある。不甲斐ないやらなんやらで頭がごちゃごちゃしてるんだ」

「そっか......私や九ちゃんは1年にも満たない付き合いだけど、甲ちゃんはそうじゃないもんね」

「あァ」

「恩があるんだもんね。今言ってること、一言でも阿門には言った?」

「いや......呆然としてたら、そのまま会議が終わっちまってな。下手したら夷澤のが阿門に言いたいこと言えてたかもしれない。帰り際に葉佩からメールが来たもんだから、それ見た阿門が次会う時は敵だなと笑いやがった。なにもいえなかった」

「なら、次会うときにいいたいこといまのうちにあ考えたいんじゃない?上手く言葉にならないからイライラしてるんだよ」

「......そうだな、そうかもしれない。考えてみるか......時間はまだ無駄にあるしな」

「そうだね」

舞草が来たから、私はカレーを注文した。

「翔ちゃん、俺は付き合いは月日の長さだとは思ってないからな?」

「うん?」

「いや......翔ちゃんスルーするから」

「わかってるよ」

「ならなんで......」

「自分の言葉で自分の考えいおうと頑張ってるからさ、甲ちゃん。がんばってるなあって」

「.....お前な。前から思ってたが、お前のその知ったような態度はなんなんだよ。宇宙人からはそんなに詳細を知らされてたってのか?」

「私がいないこと前提の未来だからなあ。私が一方的に知ってただけで。今の甲ちゃんは私の知らない甲ちゃんだけどね」

「だから、今は珍しく話しかけてきたのか」

「まあね、私がいったところで何が変わるでもないでしょ?」

「お前、この期に及んで何いってんだ。正気か?」

「おっと、また私変なこと言ったみたいだね......これが狂気なんだよ、甲ちゃん」

地雷を踏み抜いた自覚はあった。皆守がめっちゃ不機嫌になったからだ。

「お前の影響がないなら、俺はなんにも変わってないことになるだろうが。俺までバカにしてることに気づけ」

割と本気で頭を叩かれた。痛い。

「大和がいってたのはこういう意味かよ......。全部終わったら覚悟しろ」

「お手柔らかに」

「できるか」

「ところでさ、九ちゃんとはなにか話した?」

「いや?」

「あー、なんかあっちこっち声掛けてまわってるみたいだね」

「もうすぐ任務が終わるんだ、挨拶回りも兼ねてるんだろ」

「九ちゃん、もうすぐいなくなっちゃうのか、はやいな」

「......そうだな」

「甲ちゃん、大丈夫?めっちゃ凹んでない?」

「......いつもはほっとくくせに、こういうときはいつも来るよな、翔ちゃんは」

「そりゃ心配だし」

「......」

皆守は私を見た。

「翔ちゃんもだろ」

「なにが?」

「あんだけ片付いてるくせになにいってんだ。翔ちゃんだって江見睡院が助けられたんだ、《遺跡》のこと片付いたら帰るんだろ?」

「前も言ったけど卒業まではいるよ?」

「そのあとはわからないだろ。そもそも連絡とれなくなるんじゃないのか?九ちゃんと同じなんだから」

「お、気づいた?」

「やっぱりそうか......。阿門の対応がここんとこ早すぎるから九ちゃんより先に情報流したやつがいるとは思ってたんだ。《ロゼッタ協会》と繋がってるんだな、翔ちゃん。つーか銃の扱いがうますぎるんだよ」

「さすがは人知を超えた五感を手に入れただけはあるね。本気出せばわかるんだ」

「わかりたくなかったけどな......」

「わからなかったら、連絡する手段は九ちゃんに聞くしかなくなってただろうね」

「......嘘は嘘でショックだが、実際に居なくなるって言われる方がダメージ大きいな」

「甲ちゃん、卒業したらやりたいことがあるっていったからね。それを信じようと思って」

「お前はいつもそうだよな......」

「私は九ちゃんほどやさしくはないけどね」

「どこがだ。九ちゃんは風穴あけて来いよっていってくれるが、待っちゃくれない。翔ちゃんは時々振り返ってくれるが手を伸ばしちゃくれないだろ」

「気づいちゃったことにフォローはするけど、それ以上は介護になっちゃうからね。甲ちゃんのためにはならないし、そこまで責任は持てないよ」

「......そうかよ」

「うん、そう。今の甲ちゃんは何かしないといけないのはわかってるんだ。あの時と違うのは何をするのか漠然とではあるけどわかってることだよ。違う?」

「......そうだ。でも、置いていかれるのは事実だ」

「まあそうだね、私たちは《宝探し屋》だから」

「......やっぱり《ロゼッタ協会》に入るのが手っ取り早いのか」

「九ちゃんに追いつきたいならそうだね」

「......そうだよな」

「依頼人やバディとして繋がりたいなら《ロゼッタ協会》のホームページで九ちゃんや私のハンターネームで依頼を出せばいいね。覚えてるでしょ、甲ちゃんなら」

「俺はそういうんじゃない」

「なら《ロゼッタ協会》しかないんじゃない?」

「そうだな......その前にしなくちゃならないこともあるが」

「同時並行でも怒るやつはいないよ。九ちゃんに相談してみたら?パンフレットくらいはもらえるよ」

「あァ、九ちゃんなら喜んで教えてくれそうだな」

「よかった。甲ちゃん、元気出たみたいだね」

「......ありがとう」

「どういたしまして」

「カレーお持ち致しました〜」

私はさっそく最後の晩餐を食べることにしたのだった。
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