「......あ、あれ......葉佩先輩......みなさん......?僕、いったいどうしちゃったんでしょう?ファントムさんはもういない、お前を助けてくれるやつはもう居ないって先輩たちに詰め寄られて......。うう、頭がいたい......。気がついたら、ここで......あの、葉佩先輩は、何が起こったのかご存知ないですか?」
「よかった〜ッ!間に合ってよかったよ、響ッ!無事でよかった!!」
「えっ、あの、葉佩先輩ッ!?」
いきなり抱きつかれて響は混乱している。
「ひッ!!」
「なにびびってんだ、九ちゃんのメールだろ」
「は、葉佩先輩のですか?す......すいません、驚いたりして......。僕、音とか振動が苦手で......」
「九龍、そろそろ離してやってくれないか?手当が出来ないだろ」
呆れ顔の夕薙に促され、葉佩はしぶしぶ響から離れて、H.A.N.T.をみる。
「え......えと......その、ありがとうございます......」
「響、なんでセンパイたちに心配されてんのかわかってるか?」
「あ、い、夷澤君......ええと、なんで?」
「はァ?あんだけ迷惑かけといて何にも覚えてないのかよ、お前」
「人の事いえないじゃねえか」
「う、うっさいですね。あれはあれ、これはこれっすよ。響は男子寮を......」
「夷澤、その先いったらしばくからな〜?」
「......すんません。そもそもだ。前も言ったけどああいうアホそうな連中いたぶるなんて楽しそうなことするなら呼べって」
「そ、そんな、僕はそんなつもりじゃ......」
「楽しむも楽しまないも自分次第だろ。だいたい、報復しないからあんな連中にいつまでも付きまとわれるんだぜ?」
「......やめてって」
「あ?」
「やめっていったよ......何度もいったよ......。でも夷澤くんはいくら言っても止めてくれないじゃないか。病院送りにしたり、血だらけになっても殴りつづけたり、蹴り続けたり......そんなの助けてっていえるわけ......」
「......?」
「夷澤くん?」
「いや、たしかにお前を出汁にして憂さ晴らしはしてたけど、やりすぎたらプロ試験に響くからそこまでやった覚えは......」
「えっ?」
「あるんだよな〜」
「えっ、マジっすか」
「大マジだよ、何回理不尽な因縁つけて俺とやり合ったと思ってんだよ夷澤」
「ええッ!?覚えてな......まさか」
「そのまさかだな。そっか、俺と戦う時はもうほとんど意識なかったんだ?そこまで記憶飛んでるとかやべーな」
「まじかよ......葉佩センパイとやりあえたのに覚えてないとかどんだけ......」
「ところで響、どこまでおぼえてる?」
響は力なく首をふった。
「あの人たちに絡まれて......カッとなって......叫んじゃったせいで窓ガラスが割れて、雪が......。そうだ、真っ白な雪がたくさん......それから......ううッ、ごめんなさい。ぜんぜん思い出せないです......」
「そっか、白い雪か......」
「いったいどうしてこんなことに......?」
葉佩は響に説明を始めた。
「えッ!?《生徒会長》さんが僕を......?それに葉佩先輩が......みなさんが......僕のことを......?」
混乱している。感情の昂りによる声の大きさに反射的に頭を覆った響は、いつものようにガラスが飛んでこないことに気づいておそるおそる顔を上げた。
「あれ......」
キョロキョロ辺りを見渡す。
「ほんとだ......《声》で物が壊れない......なにも起こってない......」
喉をさするがなんともない。
「ほんとう、なんですか......」
響は涙目になる。
「あの、葉佩先輩......あの時いっていたように、本当の本当にファントムさんは死んでしまったんですか?そんなの嘘ですよね!?嘘だと言ってください......。ファントムさんはぼくを必要だといってくれました......だから僕は戦おうと......もう嫌なんですッ!あの地獄の日々に戻るのはッ!」
「何度もいうけど、嘘じゃない。あの日、ファントムは死んだんだ」
「ど、どうしてそんなこと言うんですかッ!?だって、あの人が死ぬはずないんですッ!あの人が死んだりしたら、僕は......僕はッ......!」
「それでも死んだんだ」
響は泣き出してしまった。
《力》を隠して生きてきた響にとって、なにをされても感情を殺してじっと耐えてやり過ごしてきた日々から解放されたのは本当に嬉しかったらしい。あらゆる人間から化け物と呼ばれたあの時の地獄と比べたら、いじめなんてマシだといいきかせてきたからだ。それでもどうして自分ばかりがこんな目に会うのかと思っていたときに、ファントムと出会った。
忌み嫌われてきた《力》が学園を変える《力》になる、必要だといってくれた。生まれて初めて誰かに必要だといってもらえた。
「ごめんな、響。俺が殺したんだ」
「───────え?」
葉佩は自分の素性を明かした。そしてファントムについて語り出す。
「《遺跡》に封印された何か......思念......悪霊......あッ、あんまり急すぎて頭が追いつかないんですけど、その......ファントムさんは死んだけど、その悪霊はまだ《遺跡》にいるんですよね?僕を必要だといってくれたのは、外に出たかったから......?」
「それはまだわかんないんだ。最深部にいって正体を拝まないと」
「そっか......」
「おい、響。そいつの力になりたいとかいったら、殴り飛ばすからな」
「い、いわないッ!いわないよ、だからやめてッ!ただ誰だったのか知りたいだけだよッ!葉佩先輩は何度も僕に声をかけてくれて、助けてくれたのに、僕が都合が悪いことがあると直ぐに逃げちゃったから、こんなことになっちゃったんだ。それくらいわかってるよ!僕はなにもしなくても助けてくれる都合がいいヒーローが欲しかっただけだからッ!」
「響......そんなことないぜ?俺がさっさと仲間に誘えばよかったんだ。そしたら響は余計に苦しまなくてすんだのにな、ごめん」
「えッ......僕が《宝探し屋》のお手伝いをですかッ!?僕が......?この學園に眠る《秘宝》の......?いいんですか?」
「もちろん」
「葉佩先輩......、見捨てないでくれてありがとうございます。僕、弱い自分を変えたいです。あなたみたいに強くなりたいんです。だから、一緒に戦わせてもらえることがすごく嬉しいです。ありがとうございます」
響は深深と頭を下げた。
「《生徒会長》さんが僕の《力》を制御出来るようにしてくれたんですよね......もう暴走しないように。お礼、言わなくちゃ......」
「それならカオルーンのマスターが阿門の執事だから連絡してみろよ。きっと都合がいい日を教えてくれると思うぜ。ほら、連絡先」
「あ、ありがとうございますッ!そうだ、僕の連絡先も教えますから呼んでください。お待ちしてます!」
「わかった。楽しみにしてるよ」
「はい!」
プリクラを出そうとしている響の横で面白くなさそうに舌打ちしたのは夷澤だった。
「阿門さんはどこ行きやがったんだ......あんな化け物のさばらせて......《生徒会》ともあろうもんが、ホントに情けないっすよ。ん?」
《生徒会》および元《生徒会執行委員》の携帯の着信がなる。
「なッ!?」
「あれ、どーしたんだよ、夷澤?」
「大変っすよ、葉佩センパイ。テロ組織が......」
「《レリックドーン》だろ?さっきH.A.N.T.に《ロゼッタ協会》からも連絡きたよ」
「まさか、阿門さんは......」
「やらなきゃいけないことってのは、校舎だな。たぶんキュエイから逃げてきた生徒や教師を守るために」
「ったく、どんだけ抱え込んでんすか、あの人はッ!?連絡がいちいち遅いんスよッ!」
「どうする、九ちゃん」
「俺は今から《遺跡》にいくよ、喪部銛矢が動いたみたいだ」
皆守の瞳が揺れた。