葉佩ルート2

「......あの、五十鈴さん。今なんて......?」

「ですから、あなたの性自認の変化によりどれだけ《如来眼》や身体、精神に変化が出るのか調べていただきたいんです」

「いや、いいたいことはわかりますけど......精密検査や問診じゃダメなんですか?」

「天香学園に私が行くわけにはいかないでしょう?あなたが自分で検査しなければならなくなる」

「......そりゃ、そうですけど......」

「単なる検査ですから」

「でも、男子寮って壁が薄いんですよ......?」

「ならば《魂の井戸》でしては?」

「............はあ」

1ヶ月におよぶ実地訓練などにより感覚が麻痺していたことは認めよう。H.A.N.T.のバイタルサインなどと連動した状態で定期的に性的発散をしてその記録を《ロゼッタ協会》に提出しろなどどこのニッチなAVだというシチュエーションに陥ったとき、私は単なる検査だと思考停止していた。

9月から葉佩が学園にやってくるのがわかっていたくせに、呑気になんとかなるだろうと考えていた私が悪いのだが。データの提出が疎かになり始めて五十鈴からせっつかれ、焦りを覚えていた私は葉佩たちとの探索後にこっそり《遺跡》の《魂の井戸》に戻っていた。

以前来たときには何とも思わなかったのに、今はそういう事を考えているからかやたらと状況が気になる。体の芯からじわじわと熱されているような気分だ。

H.A.N.T.を起動して傍らにおけば自動検知して勝手にデータを送ってくれる。そろそろと服を脱ぎ、下着を脱ぎ、久しぶりだから性急に手を伸ばした。

「んっ......」

電子音声が私の状況を客観的に伝えてくるせいで余計に羞恥心を煽られてしまう。体があつい。9月から出来てなかったせいで、だいぶん性的自認が男に近づいていた私はあの時よりだいぶ気持ちよくなっていた。魂と体が融合して一致し始めたからだろうか。あのときはたんたんと作業的にこなしてどこか冷めた目で第三者ぶってみていたが今はシチュエーション自体に興奮している私がいた。あと少し、あと少し、という時に《魂の井戸》があいた。

「───────ッな、九ちゃっ......!?」

「なにしてんのかなァ、翔チャン」

我慢できなかった。

「や、だ......みるなよッ......んんっ......」

私はあっけなくいってしまった。

「......はあ、はあ......」

「翔チャンがまさかここまで変態だったとはなァ......気づかなくてごめん」

「ちがっ......これは、その......」

電子音声がひびく。

「......翔チャン、それだれのH.A.N.T.?」

詰んだと思った。よりによってこんな形で《宝探し屋》だってバレるなんて。さすがに羞恥心のあまり死にそうになりながら私は葉佩に素性を明かす羽目になったのだった。いそいそとまた服を着ていると後ろから葉佩に抱きつかれてぎくりとする。

「紅海さんが翔チャンだったとは思わなかったよ」

すんごい嬉しそうな声だった。

「あんときから全然連絡取れないし、アカウントは停止のままだし、メルマガも止まっちゃうし」

「いや、メルマガはもともとあれで終わりだったよ、九ちゃ......」

「すんごい寂しかったんだ......ずっと見守っててくれたんだ」

「......否定はしないよ。九ちゃんの担当はオレだし」

「諜報員だからってさー、ここまでしなくてもよくない?」

「ハッキングされるようなやつに素性あかせると思う?」

「今、そいつにとんでもない状況でバレたのわかってる?翔チャン」

「......あはは。しにたい......」

「ひっどいな〜、そんなに?翔チャンのえろいとこ見るの2回目じゃん」

「あれは媚薬のせいであって九ちゃ......」

「ほんとに〜?俺の名前出してたくせに?」

いよいよ私は凍りついた。

「どこから聞いてたんだよ......」

「最初からだけど?明らかにおかしいじゃん、いつもなら《魂の井戸》で自室に全部送って準備してからプール行くのに今日に限っていかないし」

「うっ......」

「気づかなくてごめんな、翔チャン。はやくしたくて頭回ってなかったんだな。言ってくれたら配慮したのに」

「い、いえるわけないだろッ!?」

「そうだよな〜、今の翔チャンならいえるよな」

「............まあ、そうだけど。あのさ、九ちゃん」

「なに?」

「なんでそんな近づいてんだよ......近いよ......」

「えー、だって今の翔チャン明らかに物足りない顔してるし」

「わかってんならはやく出てけよ!」

「え、なんで?あん時はたしかに媚薬のせいだったけどさ、今は素面じゃん。俺にキスされた時のこと思い出して抜いてるのになにいってんの?」

「いや、その......それは......」

「俺、紅海さんには毎回いってたよな?愛してる結婚してくれって」

「誰にでもいってるだろ、愛の伝道師。説得力ないよ」

「でも翔チャン、俺には負けるだろうけど俺のこと好きだよね?」

「んなわけっ......」

「えー、うそだ。翔チャン、貞操観念まともそうだからそうでもなきゃ俺のことオカズにしないだろ?」

「それは......その......」

緊張で強張った表情筋を解すように親指で目の下を撫でられた。そんな気障な動作も葉佩がやれば違和感がないから余計にムカつく。ぞくりと脳天まで興奮が走る。言葉を交わすたび、近づいているようで緊張が増していく。やがて壁においつめられてしまった。

「な〜、翔チャン。俺は翔チャンのこと大好きだし、愛してるけど翔チャンは俺のこと嫌い?」

心臓が壊れそうなほど心臓が動いているのが分かる。平静を装う余裕など消え、顔は真っ赤になっていた。穏やかだった葉佩の目が細められていく。

冷たいものが唇に触れた。葉佩の唇だと気が付いた。唇は触れただけですぐに離れていった。

「そんなに残念そうな顔しないでよ」

「してな...........」

「そっかあ......。じゃあ俺で抜くのやめてよ」

「..................」

「翔チャン」

「..................」

私は恥ずかしくて悶絶していた。にやにやしてくる葉佩がムカつく。

「むり......」

「なんで」

「..................忘れられない......」

「なんで」

「......九ちゃんが好きだって媚薬で刷り込まれたせいかわからない......」

「俺はどっちだって構わないけど?翔チャンが紅海さんで、紅海さんが翔チャンなら望むところだ」

私はずるずるとへたりこんでしまう。

「待って」

「いいよ、いつまでも待つ」

「いや、だからその、距離的に待って」

「やだよ、翔チャンまた俺オカズにするでしょ。虫が良すぎるとは思わない?」

「..................」

「翔チャン」

私は抗うことができなかった。




「翔チャンが喘いでいたら興奮するから安心してよ。現に今も、余裕がないからさ」

だから、と一旦言葉を切った葉佩が私の性器をこすりあげる。

「っあ…!」

「文句も反論も後で受け付ける。でもさ、誘ってきたのは翔チャンだよ」

喘ぎ声を出した口に舌を入れられ、酸素も思考も奪われる。残ったのは快楽だけ。抗う事の出来ない私にできたのは背中に回す事くらいだった。

「初めては宇宙人てのが最高にムカつくけど感謝かな」

後ろを弄られるというのは、想像の何万倍も恥ずかしかった。自分ですら見ないようなところを葉佩に見られている羞恥。このうえ喘ぎ声を聞かせるなど堪えられない。

そう思って声を殺していたのだが、選択肢を誤ったとしかいいようがなかった。葉佩がそれをみていたらどうなるか、なんて。ちょっと考えれば分かりそうなものだったのに。

「あ、あ......九ちゃッ......九ちゃんッ......ちょ…もう、無理ぃ…!!」

「駄目。翔チャンの声聞きたいから駄目」

傷つけたくない葉佩の優しさはありがたいが、受け入れきれない快楽は下手な痛みよりも辛い。前立腺を散々弄られ、もう何度か達している。それだけで脳をやられそうだった。股を伝う液体が自分が放ったものだというだけで死にそうにかる。

背骨の窪みに沿って舐められる。反射で力の入った体が中に埋められていた葉佩の指を締め付けた。

「ん、あぁっ!」

「準備してないからさ、これ以上はできないじゃん。だからせめて声きかせてくれよ」

「ああっ、う、あ、ああ!」

動きは単調なはずなのに、与えられる快楽は桁違いだった。快楽を体の中に詰め込まれて体が跳ねる。我慢できずに達してしまう。びくびくと収縮を繰り返す中を掻きまわされて、息ができなくなった。

「やぁああ、ア、ぅ、あああ!!」

「っ、......あーもうッ!」

「ひっ、いや…ぁ、さ、わんな、で───────ッ!」

途切れない快楽に達し続けている性器を扱かれる。溢れた精液で滑りがよくなったのか、手の中からぐちゃぐちゃと粘質の音がしていた。

「これでオカズには困んないでしょ?」

「ん、んんっ、ぅあ…......っく、イク、イっ、く!」

勢いを無くした精液がとろとろと流れていく。

「ア、あっ、も、出ない、出ないからァ......」

「ほんとに?じゃあ抜いてよ、翔チャン。俺も抜いてあげるから」

「ひァ......っ......」

葉佩の向こうにある執着をみて、私は震えあがったのだった。
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