オディプスの恋人3

保健室に移動中、やっちーの携帯に温室から帰る途中で遭遇した神鳳から警告があったと葉佩からメールが来た。

真実が見えないならば辿り着くことなどできない。できなければ葉佩はそこまでの人間にすぎない。この學園の眠りを脅かした罪は重い。相応の罰を受けてもらう。

希望という《光》に満ちた人間である葉佩は、この學園に似つかわしくない人間である。だからこそ、葉佩の近くにいる人間ほど干渉を受けにくい。これで終わるとは思うな。後ほど迎えに行くから學園に今なにがおきているのかその目で確かめろ。

そう言われたそうだ。

「黄泉より返りし呪われた魂ってやっぱりお化け!?幽霊?悪霊ってやつだよねッ!?まさか學園祭のお化け屋敷ってほんとの幽霊がたくさんいたってこと!?」

うすうす嫌な予感はしていたものの、とうとう気づいてはいけないことに気づいてしまったやっちーの悲鳴があがる。行かなくてよかったですね、と月魅は私にこっそり耳打ちしてきた。私は大きくうなずくしかないのだ。

「そういえば神鳳さんは青森県出身でしたね。もしや恐山のイタコとなにか関係が?」

「イタコってあの幽霊を憑依させるっていう?」

「そうです、口寄せで有名なあのイタコですね」

月魅は詳しく教えてくれた。1200年ほど前に慈覚大師円仁によって開かれた日本三大霊場のひとつであり、人が死ねば恐山に行くと信じられた死者の魂が集まる場所だ。そしてそこには、口寄せを生業とするイタコがいる。イタコは、日本の北東北で口寄せを行う巫女のことであり、巫の一種。シャーマニズムに基づく信仰習俗上の職である。

イタコには霊的な力を持つとされる人もいるが、実際の口寄せは心理カウンセラー的な面も大きい。その際クライアントの心情を読み取る力は必須であるが、本来は死者あるいは祖霊と生きている者の交感の際の仲介者として、氏子の寄り合い、祭りなどに呼ばれて死者や祖霊の言葉を伝える者だったらしい。

イタコは占いの際数珠やイラタカを用いるが、一部のイタコは、交霊の際に楽器を用いることがあり、その際の楽器は梓弓と呼ばれる弓状の楽器が多い。他に倭琴や太鼓なども用いられる。これらは農村信仰などで用いられた日本の古代音楽の名残とされ、日本の伝統音楽史において現存するうちの最も古いものの一つとされる。

「弓......あっ、神鳳クン、弓道部部長だったねッ!」

「はい、それはきっと無関係ではないのでしょう」

「その弓道部から弓盗むとか九ちゃん何考えてんだろ......。命知らずすぎるだろ......」

「ということは、もしや夢遊病や乱闘事件の原因は神鳳さんなのでしょうか?」

「そうなのかな〜?あっ、ちょっと待って!弓道部も荒らされたっていってたから違うんじゃないかな?盗んだのは九ちゃんだけど、荒らしたのは別の人みたいで犯人捕まってないみたいだよ?」

「そうなのですか?」

「うん、そうだね。神鳳は九ちゃんが犯人だと思ったみたいで直談判に来てわかったことだから」

「なるほど......。よく考えたら《生徒会》は《遺跡》や夜間の校舎に立ち入ることを規則で禁じているわけですから、夢遊病や乱闘事件は《生徒会》にとっては困るはずですよね」

「そうだな、ファントムとスライムに感染してる連中とは神鳳は無関係で間違いないと思うよ」

「よし、これも九ちゃんにメールしとこう」

私は校舎に流れ込んできている氣の流れがすくない階段を通っていこうと提案した。大気の流れを調べるから待ってほしいと。ならばとやっちーがメールを打ち始めた。

しばらくして私たちはなるべくものが無い場所を探して階段の踊り場に出た。

ぴしり、と鏡にヒビが入ったり、下級生の教室から夢遊病患者みたいな足取りでこちらに来ようとする生徒や教師が見えたりした。

学校にあるありとあらゆる鏡が一度學園祭のお化け屋敷で使われたことを思い出したから、鏡には絶対に近づかないことにする。

「そうそう、八千穂さん。九龍さんには口寄せについてもお伝えしてください。招霊の秘法は目連の救母伝説にその由来があるといいます。口寄せは、霊的感作によりあらゆる人種、動物でも呼び出せるとされていると」

「でもイタコって女の人がなるんだよね?」

「そうですね。イタコは、先天的もしくは後天的に目が見えないか、弱視の女性の職業だったと言われています。
かつては生活の糧を得るためという事情もあったのでしょう」

「そっかあ......でも神鳳クンは男の子だし、目は悪くないよね?」

「男なのに才能に恵まれちゃうパターンもあるみたいだよ、意外と」

「そうなの?」

「なるほど......ありそうですね」

月魅は考え込む。

「初めは口寄せなのかと思っていたのですが、霊を自分に憑依させて、霊の代わりにその意志などを語ることができるとされる術です。複数の霊を呼び寄せるのはまた違う降霊術です。ああいうものは遺伝であるといいますし、超能力を含まない口寄せはテレパシーと同じです。あれだけ強力なポルターガイストが起こせるなら、相当な才能の持ち主ですし、《黒い砂》で才能を引き上げられているのならば、いくらでも呼び寄せることはできそうですね」

「他の人に幽霊を取り付かせちゃうとか?」

「《墓地》にはたくさんの悪霊が蠢いていると墓守のお爺さんがいっていましたしね、氣の流れがこちらに来ているなら何が流れてきているのかわかったものではありません」

「あ、翔クンがいってることってやっぱりそういうことなんだね?ううう、ホラー映画の展開だよ、これ......」

メールを打ち終えたやっちーは早く保健室に行こうと私たちを急かす。階段をおりていると葉佩から返信が来た。

「うわあっ、やっぱり化学室大変なことになってるみたいだよ、2人とも〜ッ。はやく保健室に逃げよッ!」

「どうしたんですか?九龍さんたちに何が?」

「いきなり誰かが笑いだして、みんな頭痛がするようになって、皆守クンと九ちゃんにみんなが襲い掛かってきたんだって!夕薙クンが庇ってくれた隙に逃げ出したみたい。神鳳クンの仕業だって」

「この重苦しい雰囲気は《生徒会》の仕業だったんですね」

「神鳳クン、なにか勘違いしてるんじゃないかな?《墓地》の魂が九ちゃんを恨んでるとかいってるけど、閉じ込めてるのは墓守の方だよね?」

「《生徒会》は墓守ですからね、封印をといてきた九龍さんが許せないのかも知れません」

「でも九龍チャンのおかげで救われた人いっぱいいるよね?それに、封印だって《鎮魂の儀》が失敗したのは、九ちゃんのせいだけじゃないよ?」

「ファントムもそうだし、スライムもそうだけど、九ちゃんは一助にすぎないね。誰のせいとはいえないよ。ただ、《宝探し屋》として《秘宝》を狙ってきた侵入者の中では始めてのパターンなのかもしれない」

「誤解してるってこと?」

「あとは墓守としての責務か、阿門にそれだけ忠誠を誓ってるかだよね。《生徒会》って《生徒会執行委員》と違って阿門に忠誠を誓うために自ら記憶を差し出して《黒い砂》の支配下にはいってるみたいだし」

「そっかあ......なんだか難しいね」

「それでも九龍さんならきっと成し遂げてくれると思いませんか?」

「うんッ、そうだよね!九ちゃんならきっとできるよ!」

「ならオレたちが出来るのは人質にならないようにすることだね、2人とも」

2人はうなずいた。

ようやく1階に到着する。私たちは保健室に急いだのだった。
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