スケール17 猛禽の襲来
「城前兄ちゃん予選突破おめでとー!」


まるで自分のことのように喜んでいるナオの頭をぐりぐりしながら、ありがとな、と城前は笑う。えへへ、とどこか得意げなナオである。閉会式が終わり、会場となっている部屋からでてきた途端、入り口でスタンバっていたらしいナオはたくさんの人だかりにも関わらず一直線に向かってきた。ずいぶんと目がいいものである。それだけなつかれたってことだろう、うれしいことにはかわりない。ナオを追いかけて、彼の兄や友人たちがやってきた。どうやら黒田にねぎらいの言葉をかけていたら、いつの間にかナオがいないため探しにきたらしい。おめでとうございます、という言葉が投げられる。城前は自分の腕で遊び始めたナオをくすぐりながら、おう、とウインクする。


「俺のことは喜んでくれないのか!?」


あからさまにショックを受けているのは、黒田だ。


「あ、そっか。黒田兄ちゃんも予選突破したんだっけ。おめでと!」

「扱い雑だな!?」

「だって城前兄ちゃんは僕のししょーだもん。黒田兄ちゃんは城前兄ちゃんとお兄ちゃんのライバルなんでしょ?僕は城前兄ちゃんを先にお祝いしたかったんだ。だめ?」

「うぐぐ、たしかにそうだ。なんということだ、ナオが混沌に目覚めてしまうとは!おい、兄としてなにかいうことはないのか!」

「ふたりともおめでとう」

「おう、ありがとな」

「ふ、ふん、とうぜんだ」

「啖呵きったわりに選考会予選あたらなくて残念だったな。お楽しみは来週に持ち越しか」

「ふん、この俺様の真の力を前にひれ伏す時が先延ばしになってよかったな、混沌使いの城前!勝率では俺を越えていったようだが、まだまだこれからだ!」

「楽しみにしてるぜ、ダーク黒田。今回からワンキル館の大会もジュニアから挑戦できる階級がかわるんだ。つまり、おれに挑戦できる権利をお前はすでにもってるってわけだ。今度の休み、エントリーしてみろ。おれはいつでも相手になってやるよ」


手をかざす城前にうれしそうに笑った少年はいわれなくても!と手をたたいた。


「これからどうするんだ、みんな。イベント?」

「僕のデッキと決闘してくれるんだよね、城前兄ちゃん」

「まー、今日はそのつもりで来てるしな」

「え、ずるい。ナオだけ」

「僕たちもせっかくだからお近づきになりたいのだー」

「私はあんまり興味ないけど、ナオ君がいくなら気になるなー」

「なにい!?おい、城前!この俺と決闘する前にナオと決闘するのか!?ここにくる前にデッキを組むところからやってるんだろ!?うらやましすぎるぞ!」

「だってそういう約束だもん」

「うぐぐ」

「あはは、ならどっか食べにいくか?」


時計はお昼を指している。子供たちはどこか期待に満ちたまなざしである。


「おいおい、今日はナオと食いにいくつもりだったから、あんま金もってねーぞ」

「じゃあファミレスでよくない?」

「そーだな、それならやすくすむし」

「決闘できるし!」

「さんせー!」

「おいこら、ちびっ子ども。さすがにこんだけも奢れねえぞ」

「じゃ、じゃあ、ドリンクバーくらいは・・・・・・!」

「ちょいまて、今の時間だとランチはたいていついてるじゃねーか。おごらせんな」

「けちー」

「けちじゃねえよ、ったく」


さすがに会ったばかりの城前に本気で奢ってもらえるとは思っていない子供たちである。ナオだってお母さんから持たされた大事なお金があるのだ。彼らも世界大会の選考会の応援のあとはどこか食べにいくつもりだったから、持ち前はあるのだ。近くのファミレスにいくとみんな考えることは同じようで、選考会でみた顔がちらほらみえる。


彼らはメニューを広げる。たのしい昼食になりそうだ。






ファミレスを出て、近くの公園に向かう。誰が最初にデュエルをするのかまだまとまらないようだ。いつの間にか城前とデュエルすることが特典になってしまっていて、トーナメントにするか総当たりするかでもめている。まあ、今日一日はナオと遊ぶ約束してたから問題外のだが。もともと遊ぶ約束をしているナオは特別扱いである。誰よりも早く反応したのはナオだった。


「城前兄ちゃん」


ぐいぐい腕を引くナオに視線を投げると、なにかを見つけたのか、顔がこわばっている。隠れるように後ろにいってしまうナオはなにかを怖がっているようだ。


「どうしたんだよ、ナオ。あ、まさかまた変な感じがするのか?」

「ううん、ちがう、ちがうけど、あのときとはちがうんだけど」

「どんな感じ?」

「なんかこう、何度も繰り返して聞こえるんだ。なんだろこれ、へんなの」

「なにが聞こえてる?」

「あの人の声、僕と城前兄ちゃん捕まえた人、」

「黒咲!?」

「あ、そ、そうだ、そうそう、そんな名前みたい。なんか、ね、あと、こないだ城前兄ちゃんとデュエルしてた人の声もするよ。遊矢兄ちゃんともデュエルしてた人。なんだっけ、帝デッキの人」

「沢渡?」

「うーん、たぶん?」

「どっちから聞こえるかわかるか?」

「えーっと、ほら、あそこだよ」


きょろきょろあたりを見渡し、ようやく城前は知った顔を見つける。思った以上に距離がある。


「ナオ、よく気づいたな」

「城前兄ちゃんのこと探してるみたい。大丈夫かな?知らない振りする?」

「え、まじで?」

「うん」

「そっか、心配してくれてありがとな、ナオ。でもま、たぶん大丈夫だと思うぜ。決闘者ならやることはひとつだろ?」


ウインクする城前に、ナオはちょっと安心したように笑った。


「どんな風に聞こえるんだ?」

「うーん、よくわかんない。すっごくたまにね、聞こえるんだ。でも、すっごくはっきりしてる人もいるんだ」

「それが黒咲と沢渡?」

「うん、たぶんその人たち」

「おれは?」

「城前兄ちゃんもその人たちと一緒だよ。あ、今、サイコデュエリストっていった?」

「・・・・・・ナオ、もしかしたらみんなの心の声、聞こえてるんじゃないか?」

「えっ、ほんと?ぼく変になった?」

「その声ってうるさい?」

「ううん、目をぎゅっとしないとわかんないくらい」

「そっか、なら大丈夫か?寝られなくなりそう?」

「わかんない」

「そっか。わかった。ナオ、今日、終わったらワンキル館にこいよ。ナオみたいなやつのこと、サイコデュエリストっていうんだ。ワンキル館の研究所ってそういうのも調べてるし、どうしたらいいか聞いて見ようぜ」

「うん、ありがと。城前兄ちゃん」

「おう」


くしゃくしゃに頭をなで、城前は近づいてきたファントム捕獲部隊の面々と対面する。第三勢力だと明かして去っていった素良とあったばかりなのだ、警戒したくもなる。それ以上に今城前を支配しているのはそれ以外の感情ではあったのだが。


「あ、帝デッキの人だ!」

「え、どこどこ!?」

「ほら、あそこ!城前さんとデュエルしてた人!」

「あ、天帝アイテールの人!?」

「そうそう、かっこよかったよな」

「もしかしてリベンジマッチの申し込みとか!?」

「うおー、かっこいい!」


好き勝手言い始めた子供たちに、ちげーよ!うるせえ!と沢渡がひきつった笑顔のまま返した。えー、と勝手に期待して勝手に落胆した子供たちに、沢渡はとてつもなくやりにくいようだ。


「おいおい、城前、お前いつから小学生の引率なんかしてるんだ」

「まあ似たようなもんだよ。お前等のせいでな」

「は?」

「・・・・・・あのときの子供か」

「あ、まじか。あはは、黒咲めっちゃ怖がられてるじゃねーか」

「うるさい」

「もー、小学生相手になに威嚇してんだよ、黒咲。ほらほら、笑えよ、すまーいるってな」

「いつも笑ってるお前にいわれても説得力に欠けるがな」

「うるせえ。で、なんでここにいるんだよ、お前等。仕事はどうした、仕事は」

「お前の方こそ」

「おれは立派に仕事した帰りだっての。この社員証みりゃわかるだろ?世界大会の代表選考会の予選だったんだよ、今日」

「まじか!?おまえすげーな、城前」

「さんきゅー!まさかの予選突破だぜ、来週が楽しみだな」

「プロになるのか?」

「ん?まー、いずれはそれもありじゃねーかなとは思うよ。多少はね?」

「ワンキル館の広告塔としてか?」

「あたりまえだろ?ま、あと3年あるし?これからのことなんて、まだまだわかんないだろ。それはそれとしてだ。ほんとはこの子たちとデュエルする気だったんだけどさ、黒咲が来ちゃったらデュエル申し込まざるをえないよな!」

「その言葉を待っていた」

「あったりまえだろ!あんな状況で勝ち逃げとかずりーんだよ、このやろう!今度こそ正々堂々とデュエルしやがれ黒咲!」

「ふん、お前は所詮その程度の人間だったということだ。その評価を覆したいならば、デュエルでもってその強さを証明してみせるんだな」

「いわせておけば勝手なこといいやがって!いいぜ、やってやるよ!近くに公園があっからな、そこで勝負だ!」

「いいだろう」

「ちょいまて、城前。その前に俺たちの話を聞けよ!」

「ばーかいえ、決闘者がここにいるんだぜ?やることはひとつしかねーだろ!」


城前が負けたことがある、と聞いて子供たちの注目が黒咲に集まる。周囲の視線など雑音程度にしか感じないようで、黒咲は全く動じる様子はない。


「あーもう、お前等揃いも揃ってデュエルバカか!」


デュエルディスクが点灯し、ソリッドビジョンが起動する。沢渡は大きく肩を落とした。立場的にどう見てもジャッジをする流れである。黒咲のやろう、デュエルなら俺だってしたいっての、とぼやいていると子供たちが沢渡のところに寄ってきた。


「黒咲って人、強いんですか?」

「まー強いんじゃね?」

「なにつかうの?シンクロ?」

「融合?」

「エクシーズだな」

「エクシーズか、いいカードだ」


黒咲のデュエルディスクとリンクした近辺のアクセスポイントから、デュエルフィールドがダウンロードされる。赤馬コーポレーションにソリッドビジョンシステムが採用された。そして世界は様変わりすることになる。

ネットワーク上にあるもうひとつの世界にMAIAMI市が存在している。そこから一時的にいろんなものを借りてきている状態なのだと理解した上でそのジャッジスペースに入ると見える世界が違ってくる。ワンキル館の大会ではそのMAIAMI市に人間が送られた状態だったと理解できた今では背筋が寒くなってしまう。沢渡は1戦で終わらせろよとぼやくが二人には聞こえていないようだった。


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