「ブレイブマックスさん!おまたせしてごめんなさい」
「いいって、いいってー!君のデュエルみてたからさ。いいデュエルだったぜ」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
嬉しそうにウィンは笑う。
「えっと……」
「ああ、こいつがメッセでいってた友達」
「はじめまして、ワナビーです。よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ!」
「そういや、ワナビー。今日は誰に挑むつもりなんだ?」
「うーん、僕、お目当てのカードもう入手しちゃったんですよね。あとはコレクションのために片っ端から回ろうかなって」
「いいよなあ、強化先がわかりやすいのは。俺まだ決まってないんだよ、《獣族》とか強化してくれるリンクモンスター 、まだピンとこなくてさ」
「そうなんですか、どうします?」
「お二人は今日特に決まってないってことですか?」
「そうなるか?」
「ですね」
「私、《霊獣》使いの人に挑んでみたいんです。よかったら」
「僕は構わないですよ、どこでも」
「じゃあ俺もウィンが手に入れたリンクモンスター で後で挑むか決めるかな」
「ありがとうございます!」
3人は該当のエリアに飛んだ。ブレイブマックスはウィンにいいところを見せたいのかえらく張り切っている。スピードデュエルの待ち時間を聞きにいくから待っててくれといってしまった。
「お前、精霊だろ?」
ウィンは目を丸くする。
「だ、誰?」
「ここだここ」
「!」
「ワナビーさん?え?デュエルディスクが喋って……ひっ」
「HAL、その登場の仕方はどうなのさ。普通に怖いよ」
「わりーわりー、真面目にあくびがでるくらい退屈でさ」
イグニスを知らないあたりデュエルモンスターズ界の住人のようだ。
「なにしに来たんだ?手伝ってやろうか?」
「えっと……?」
「この子はHAL、リンクヴレインズ生まれの精霊なんです」
「あ、そ、そうなんですか?そういえばこの世界に吹いてる風と雰囲気が似てるような……変わってるんですね」
「うるせーよ、新入り」
ふふ、とウィンは笑った。
「実は妹を探してるんです」
「妹?」
「《ガスタの巫女 ウィンダ 》、あの子は私の妹なんです。私は跡を継ぐのが嫌でデュエルモンスターズ世界に家出したきり帰っていないんです。色々あったことはカードを見て知りました。死んだはずのあの子が生き返ったことも。もしかしたら会えるかもしれないと思って」
「なるほど、だから《霊獣》使いと戦いたいと」
「一目会えれば私はそれで」
「……よかったら、手伝いましょうか」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
「それ島君にも伝えてあります?」
「はい」
「おーおーそこまで堂々としてるとなりきりアバターとしてはすごいレベルだねえ」
「私、嘘つくの苦手なので」
跡を継ぐのが嫌で家出はわかるが、まさか世界を飛び越えてまでやるとは思わなかった和波である。精霊たちの設定はカードの設定がリアルタイムで反映されているのかもしれない。そしてそんなメタ世界まで知ってしまった彼女は元の世界に帰る気は微塵もないようだ。それとなく聞いてみるとウィンは苦笑いした。
「今の私には友達がいます。アースちゃんたち、待っててくれるから、帰る気はないんです」
どうやら涙涙の別れがあったようだ。
「おい、ワナビー、ウィンとなに話してるんだよ」
「あ、ブレイブマックス、聞いてくださいよ!ウィンちゃん、ガスタのウィンダと姉妹なんですって!設定だけかと思ってました!」
目をキラキラさせて答えるワナビーにちょっと怒った様子のブレイブマックスは間抜けな声が出た。そしてその隙をついて語り始めるのだ。むかしデュエルターミナルというアーケードゲームで展開されていた端末世界という世界観について。ブレイブマックスはワナビーが約束を破って個人的に仲良くしようとしてるのかと一瞬でも疑った自分が馬鹿らしくなる。こんなカードゲームコレクターで設定大好きなやつがなりきりアバターの女の子本人よりなりきり度に感動するのは目に見えているではないか。完全なる徒労である。
ウィンはというと、よく知ってますね、ってニコニコしている。これはこれでちょっと悔しい。この際だからウィンの設定について聞いておこうとブレイブマックスはワナビーの解説に耳を傾ける。
ワナビーはワナビーなりにウィンが精霊だと気付いているからブレイブマックスを遠回しに支援しているつもりだった。
「お、おう、……!?あ、そういう話?」
「はい!」
「あー、お前そういうの詳しいし好きだもんな。心配して損した」
「ひどいなあ、島君!僕のことなんだと思ってるんですか!」
「??」
不思議そうに2人のやり取りをみるウィンにワナビーは話を振る。
「そういえばダルクとは仲良いんですか?」
「ダルクくんですか?はい、いいオトモダチですよ。ライナちゃんと昔馴染みみたいです」
ブレイブマックスは無言でワナビーを道のはじにつれていく。
「おい和波!なに聞いてんだよ!」
「こういうのは始めが大事なんですよ!!」
「そ、そりゃそうだけどさ、ウィンが変な方向に勘違いしたらどうすんだよ」
「(……勘違いもなにも精霊だから事実なんだけどなあ)大丈夫みたいだしよかったじゃないですか」
「……ま、まあそれもそうかなー。でも!いきなりそういうのはやめろよ、あからさますぎるだろ、びっくりした!」
「あ、ごめんなさい」
「ま、まだそこ探るのは早すぎるからな」
「あー、ごめんなさい」
「緊張しちゃうから勘弁してくれよ」
そして2人はウィンと会場に向かった。